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スマート面談こそが人間の教師の仕事


冒険家の皆さん、今日もジェダイ最高評議会にホログラムで参加していますか?

さて、前回は「ズームで講義をしてはいけません」というタイトルで、主に「多対多」の教育活動についてご紹介しました。そこでは講義のような「一対多」で一方向的なコミュニケーションは同期型(同じ時間にアクセスするコミュニケーション)のオンライン授業には向いていないことをご紹介しましたが、「一対多」「多対多」の他に「一対一」という関係もあります。

【なぜ教師は学習者一人ひとりに向き合わないのか】

実は僕はこの「一対一」こそが教育において最も無視されている形式なのではないかと思っています。要するに個人面談です。教師と学習者の一対一で話し合う個人面談は、関係を作る上でも、相手を知る上でも非常に効果的ですが、教育現場では驚くほど実施されていません。

実施されていない理由は主に三つあると思います。

1.まず、採点や添削や事務手続きなどの他の業務が忙しい。
2.個人面談に必要な学習者1人1人のデータがない。もしくはそれを一人一人にまとめる時間がない。
3.個人面談の時間を決めたりするために、新たに煩雑な作業が発生してしまう。

ところがこれらの事はある程度は解決できます。

【個人面談以外の業務は効率化しよう】

まず一番ですが、 採点はできるだけ Google フォームなどの自動採点機能を利用して、 時間をかけないようにしましょう。添削も、直すべきところに赤線を引くだけにして、教師が直すのではなく学習者に直してもらいましょう。また、教師一人が作文は見るのではなく、学習者同士でコメントしあったり、ソーシャルメディアに投稿して他のネイティブから添削を受けたりしてもらいましょう。事務手続きも、メールからビジネスチャットに移行して、無駄な時間をなくしましょう。 アナログの絵パネルなどは、使用した後に元の順番通りに並べ直したりしなければいけないのは全く生産性がないので、 Google スライドなどのプレゼンテーションソフトを使いましょう。この部分はひとつひとつ書いていたらきりがないので、とりあえずここまでにしておきます。

よく、「自動採点を使ってしまうと、一人ひとりの学習者の答案を見る機会がなくなってしまうからよくない」というような批判を聞きますが、答案用紙を見るよりも個人面談をしたほうがよほど学習者のことはよく理解できます。だって実物が目の前にいるんですから。もちろん、個人面談もした上でなら、自動採点ではなく手でひとつひとつ丁寧に採点した方が学習者のことはよく理解できるだろうとは思いますが、一人一人丁寧に採点することによって個人面談ができなくなってしまうのでは、本末転倒です。

【学習者一人ひとりのデータを自動的に集めよう】

2番目の学習者1人1人のデータがない件ですが、これは Edmodo でも Google Classroom でも Moodle でも何でもいいので、学習管理システム(LMS)を使いましょう。 大抵の学習管理システムなら、その学習者の名前をクリックするだけで、個人のそれまでの成績の一覧などが表示されます。職場の条件で LMS が使えない場合は、Google シートやエクセルで「ピボットテーブル」という機能を使えば、学生一人ひとりのデータを自動的に整理して取り出すことができます。実際のやり方は以下のビデオをご覧ください。(最初の20秒ぐらい、音声が乱れています)

「#ピボットの冒険」マニュアル(冒頭に音声の乱れあり) - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=C-j-Nezj-Ks

もしアナログのまま学習者の成績を管理していると、基本的に学習者の成績は色々な試験結果の一覧表とか、成果物の束の中にばらばらに存在していて、個人面談のためにそうした情報をまとめるのは、アナログの場合はそれこそ100倍も時間がかかってしまいます。

また、そのような正確な情報のない個人面談は、そうした基本的なことを学習者に教えてもらうところから始めなければいけないので、よほど長い時間を取らない限り、表面的な話で終わってしまいます。

【オンライン予約ソフトを使おう】

そして3番目の、個人面談を実施するための煩雑な作業については、様々な支援ツールがすでに開発されています。僕は「Calendly」の無料機能だけを使っていますが、同じようなものは山ほどあります。「online scheduling software」 で検索してみてください。

online scheduling software - Google Search https://www.google.com/search?q=online+scheduling+software

これらのツールを使わないと、オンラインでは色々な時間帯の場所に住んでいる人が参加してくることもありますし、 メールやチャットなどで何往復もしてようやく決まった時刻をカレンダーに転記したりとか、非常に煩雑な作業が発生してしまいます。Calendly の場合は、無料版でもこれらがすべて自動でできます。僕の場合は Google カレンダーと連携させているので、誰かが予約を入れたら、メールでその通知が来て、カレンダーにも自動的にその予定が挿入されます。もちろん都合のよい時間だけを登録しておくので、「来週火曜日の午後2時はどうですか」というようなやり取りは一切発生しません。なお、有料版にすると決済も同時にすることができます。

実際に僕が毎週の個人面談で何をやっているのかなどについては以下の記事で書いたことがありますのでご関心がある方はご覧ください。

むらログ: 個人面談のすすめ
http://mongolia.seesaa.net/article/471781920.html

このようにしっかりと個人面談を行い学習者一人一人に丁寧に向き合っていれば、 一方向的な一対多の講義などを行っている時間はないはずです。一方的な情報の伝達だけでしたら、動画でもできますし本を読むことでもできます。せっかく同期(ライブ)の時間があるのでしたら、是非その時間を個人面談に当てていただければと思います。

【人間が生き残るにはこれしかない】

最後に、なぜこのような方向に行かなければならないのかを一言だけ書いておきます。

今、大学をはじめ多くの教育機関は様々な変化に直面しています。

例えば「MOOC」。世界的に有名な超一流の大学が無料で講義を公開しています。「マイクロクレデンシャル」という各教育機関が発行する小さな単位をまとめて大学卒業と同等の単位を取ることもできるようにもなっています。そして人工知能やスマホによるアプリも無料で効率的なものが普及しています。何度も書いていますが、国際交流基金の日本語教育機関調査の学習者数の合計よりも、Duolingo というたった一つのアプリのアクティブユーザーの方が多い時代なのです。

このような時代において、生身の人間の教師が、こうした競合相手と効率性などで立ち向かうのはもはや無理です。 B29爆撃機に竹槍で立ち向かうよりも勝機は少ないでしょう。

それでは生身の人間の教師は何をすればいいのか。

そうなんです。生身の人間の教師の力を最大限に発揮するのが、一人ひとりの学習者と一対一で真摯に向き合うことなんです。

そしてそれは、以前は膨大な作業量の中で実現不可能なことだったのですが、今は逆に ICT を味方につけることで、 個人面談で深い話をすることが可能になっているのです。

それがスマート面談です。人間には人間にふさわしい仕事があります。ぜひそこに集中してください。それ以外のことは機械という名前の奴隷に任せてしまえばいいのですから。

そして冒険は続く。

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【参考資料】
むらログ: アナログは冷たく、デジタルはあたたかい
http://mongolia.seesaa.net/article/463328816.html

むらログ: 個人面談のすすめ
http://mongolia.seesaa.net/article/471781920.html

むらログ: デジタルバッジと学校の解体
http://mongolia.seesaa.net/article/459102809.html
(マイクロクレデンシャルの脅威について日本の教育関係者に警告しています)

むらログ: あのとき夢見た未来が今ここに。JMOOCがまもなくスタート!
http://mongolia.seesaa.net/article/386972604.html

むらログ: MOOCとSPOC
http://mongolia.seesaa.net/article/410659280.html

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