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エアロゾルの定義を正確に言えるようになろう

マスクやエアロゾル感染の議論のためには、最低限の定義が必要ですので、エアロゾルは何かというお話から。

まず、日本エアロゾル学会による明確な定義があります。「直径100μm以下の気体中に浮遊する粒子」を、エアロゾルとしています。

重力による沈降速度と粒子径の関係は、こちらのCDCの絵がわかりやすいです。

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5.8秒とか一瞬じゃないか……と思われそうですが、これは実験室(無風)での重力による沈降速度です。有人環境では気流の影響が勝り、もっと長時間舞い続けます。

なので工学的な見地からは「直径100μm以下の粒子」です。

他方で医学的な見地からは、直径5μm以下をエアロゾルと呼んでいます。なぜなら医学的には「気管より奥に吸い込まれるか」どうかが重要だからと考えられます。口腔内や鼻腔内は防御力が高いのですが、気管以下は防御力が弱いので、そこに到達されると厄介なんですね。

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そして直径5μmを超える粒子はとほとんどが口腔内や鼻腔内に沈着するので、気管より奥に空気とともに入るのは直径5μm以下の粒子がほとんどです。なので固体液体の区別なく、直径5μm以下をエアロゾルと呼んでいるようです。

この知見はステロイドなどの吸入薬における粒子径の決定に生かされており、30年以上前から、理論も実践も十分なエビデンスが積み重なっています。

そんな理由から、WHOはエアロゾルを直径5μm以下と定義していると考えられます。

〔WHO公式ページより抜粋〕

>Respiratory droplets are >5-10 μm in diameter whereas droplets =<5μm in diameter are referred to as droplet nuclei or aerosols.

>呼吸飛沫は径5-10μmを超えるものであり、径5μm以下は飛沫核ないしエアロゾルと言われる。

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ということで工学と医学とでエアロゾルの定義が違います。なんてこった。

まあ・・・結局、工学と医学ではエアロゾルという用語の使用目的が違うので仕方ないのかなと。工学目線では「部屋の中」で、医学目線では「気道の中」で、空気とともに移動する粒子がエアロゾルである、と言い換えることもできます。

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どちらも粒子の性状は問わず(乾燥してるかどうかは関係なく)「粒子径」で定義される、と、ご理解をお願いします。

私は医師の立場で語るので、noteではエアロゾルを「直径5μm以下の粒子」という定義でお話します。

なおタイトル画像はスパコン富岳によるシミュレーションで、青が直径5μm以下のエアロゾル、他の色が飛沫です。湿度が低いと飛沫から水が蒸発してエアロゾルが増え、長く空中に留まる粒子が増える上に、気道の奥に入って危険なことが分かると思います。


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