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翔くん

 私の人生を語るにおいて、忘れてはいけない人間で、家族を除けば一番時間を共にしたのが彼だ。20代のほとんどを彼と衣食住して、30歳になる年に私は家を出た。

なんと言うか、2人でいる時我々は小学生だった。「強いことば」なるものの価値観も合った。(暁のヨナに登場する敵役、ヤン・クムジや格闘ゲームKOFに登場するチョイ・ボンゲなどの人名もそれに含まれる)
私たちは鉄血のオルフェンズに毎週日曜通夜のような雰囲気になり、「日曜日のたわけ」と称されるイオク・クジャンに腹を立て、キルラキルでは戦闘シーン後半に流れるOP曲に沸き立った。
休日は高頻度で服を見に行き、イベントがあれば展示会からアニメイベントからフィギュアイベントまでどこへでも行った。私たちが同性であれば今よりきっと親友と呼ぶに相応しいだろう。

この私が長い間同じ空間にいられたと言う点は彼の長所であり短所だ。優しすぎるのだ。許容量以上を受け止めるし、飲み込む。誰に言うわけでもなく。多少の人間関係の愚痴や仕事の事、自分のコンプレックスなど私に話す事はあっても、私に改善して欲しい点などは一切口にしなかった。ひたすらに飲み込み、場がおさまるのを待つ人間だった。私に対して怒りも悲しみもたくさんあっただろうに、と思う。これが無関心からくるものいうわけではないのは私がよく知っている。なので、「優しすぎる人間」と私は認識している。

そんな彼とは今でも悪い仲ではない。私の好きなアニメがイベントをしたりグッズを出したりすればリマインダーのように通知してくれるし、可愛がっていた野良猫の近況も報告してくれる。なんなら仕事までくれる。私は、永劫続くと思っていた日々よりずっと、彼の力になれる部分があるのなら喜んで請け負おうと思っている。ただでさえ今だに迷惑も心配もかけているだろうし。何も言わない彼に甘んじているのも理解している。

最近、彼が雑誌に載ったとSNSで見た。とても嬉しかった。外国のおじいが作ったベースは本当に素晴らしいベースだ。そして彼はその素晴らしいベースで素晴らしいベースを弾く。共に生きたことを誇りに思う。

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