見出し画像

「白教の輪」から考える奴隷騎士ゲール ~Gaelの語源編~ 4/4

これまで: 1/4 2/4 3/4


最終章.ゲール(Gael)という名前、「Gの系譜」説


過去3部にわたってつらつらと語ってきました。

最後に総括として、ある説を紹介して終わります。海外掲示板のfextralifeのものです。(末にリンクを載せています)
この項に説得力を持たせたくて、長々書いてきたと言っても過言ではありません。


1.ゲールの語源探し


ゲール(Gael)ってなぜゲールという名前なのだと思いますか?


一般的に、Gaelとはアイルランド・スコットランドを中心に先住したケルト系民族を指します。
ですが、民族の名前をこのファンタジー世界の固有名詞に当てるのは不自然です。私は、これではないと思う。

もちろん、なんとなく音などで決めたはずもありません。
グウィンは「白」、ロイドは「灰」。何か意味があるはずです。

これまで私が力説してきた「ゲール元神説」がようやく収斂します…。

まず、ゲールは白教の輪テキストから頭上の光輪(神性)を奪われ、奴隷の立場に落とされると同時に、「名前の一部も奪われた」と考えます。
※ なぜ一部なのかは後述します

復元するには、その奪われた綴りを再び取り戻す必要がある。
Gaelとは単なる一語なのではなく、“G”と”ael”に分かれるのではないか。

Gael = G - ael

この分れ目に、彼が何者であったかを記す、最重要のアルファベットが入ります。


G - wyn - ael

Gwynael(グウィナエル)


それが、ゲールが「神々の名残が濃い時代」に冠した本当の名前なのではないか。


2.①ウェールズ語+ヘブライ語=キリスト教由来説


Gael => Gwynael が繋がる理屈を説明します。


もう一度、「白教の輪」テキストです。

■白教の輪
かつて、神々の名残が濃い時代には
白教の奇跡は光輪(Aureoles)と共にあったという
そして偲ぶ者たちは いつの日かそれが戻ると信じていた...

画像1

エル・グレコ『受胎告知』1590年頃

大天使ガブリエル(Gabriel)によるお告げ。古くからキリスト教では、雷光は神の為す御業であった。
この絵の背景が、深い「黒」なのは神性が放つ「光」という対比によってお告げをよりドラマチックに見せるためである――。

「エル-el」とはヘブライ語の「hā ’ēl(神)」の短縮形です。
ラファエル(Raphael)、ミカエル(Michael)なども有名ですね。

ウェールズ語とヘブライ語の造語だとすれば、

Gwyn(白) + hā ’ēl(神) =神の白

という意味になるわけです。

画像2

天使は、父なる神・イエスキリストと同じく光輪を宿します。
白教の輪という奇跡を記憶し続けていたゲールとのイメーは、一応のところ合致します。



3.②ウェールズ語+ウェールズ語=ケルト文化圏由来説

とはいえ、Gwynという語はウェールズ語(ケルト系)です。
いくら造語でも、ヘブライ語とくっつけるのは違和感では…?

いえいえ、実は別の視点、ケルト由来説からも説明できるのです。

グウィナエルという名前は実在します。

ウェールズ語圏では、Gwynaelは女性名ですが。
フランスのケルト文化圏には、Gwenaël(グエナエル)という綴りに変形して、男性名として少数ながら残っています。

6世紀ブリトンのキリスト教聖人の名でもあり、私が調べた限りでは実在のフランス人デザイナーや考古学研究者の男性名として確認できました。


そして、重要な部分ですが、このGwenaëlの短縮形の呼び方はGaëlです。

※ この場合、フランス語読みなので発音表記として正しいのは"ガエル"


ここで、Gwynael=Gwenaël=Gaël=Gaelという一連が繋がってしまいました。


Gwynaelの意味と構成はどちらもウェールズ語から、

Gwyn(白) +  hael(寛大な)  =寛大な白

…ゲールって寛大ですよねw
奴隷騎士に落とされ、どちらかというと忌み者の味方をして、なお白教を棄てなかった。
――それはさておき。

ともするなら、グウィナエルはグウィンのどの親等に当たるのか。

神がビジュアル的に年を取らないのは、無印から3にかけてのグウィンドリンを見ても明らかです(その間に下半身はえらいことになっていましたが…)

ゲールは、グウィンが王のソウルを見出した頃からグウィンと同じように老いた姿だったのでは?

画像3

引用元:https://twitter.com/the_gutter_/status/1184775145157615616

とすると、グウィンの息子やら孫やらではないように思います。

兄弟か、あるいはグウィンよりの上の親族か…。

さて、この条件だと作中で名前が明らかになっている人物は一人しかいません。


■金の硬貨
金で作られた硬貨
中央は主審ロイドと彼の白い光輪である


皆さんはどう思うでしょうか。


+ + +

ちなみに、

比較対象として、グウィンドリン(Gwyndolin)を見ると、

Gwyn(白)+  dolen(円環) =円環の白

グウィネヴィア(Gwynevere)は、

Gwyn(白) +  hwyfar(滑らか) =滑らかな白

いずれもグウィナエルと同じく、現実世界に在る名前から来ています。

という事は待ってください。
もしかして、Gwyn-の接尾辞のパターンを洗っていけば、この人の本当の名前も絞り込めるんじゃないか?

画像4

それはまた、別の話。



【補足】

元神格説を前提に考えるなら、ゲールは奴隷騎士に落とされる際に「名前の一部」を奪われたと考えます。

これは「千と千尋の神隠し方式」とでも言いますか、名前には「自身が何者であるか」を位置づける重要な役割が、このダクソ世界でもあります。

逆説ですが、故に、名前も記録も全てを奪われた「無名の王」と「貪欲者ミミック」は亡者の姿になっていました。

ゲールの場合は、なぜ全部じゃなく一部なのか。
彼は追放されたわけではなく、不死人の奴隷騎士として「神に仕える」立場に叙されました。凄惨な戦いを強いられる神側の戦力として組み込まれたわけです。
その為、亡者化せずに、自身が何者であったかの一端を記憶する必要があったのです。

千尋も"千"という名前の一部を残してもらい、小白主も"ハク"を残してもらったから最後は本当の自分を取り戻せた。
日本的な言霊文化がダークソウルにも息づいている、と思えばフロムの複合文化的なつくりの面白い部分です。


【引用・参考】
Slave Knight Uncle GWYNael ? - https://fextralife.com/forums/t535138/slave-knight-uncle-gwynael--etymology-speculations/

Gwenaël - https://en.wiktionary.org/wiki/Gwena%C3%ABl#French

Gaël - https://en.wiktionary.org/wiki/Ga%C3%ABl

聖人グウィナエル - https://en.wikipedia.org/wiki/Gwenhael

ミカエル -https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%AB
受胎告知 - https://www.ohara.or.jp/201001/jp/C/C3a03.html

映画『千と千尋の神隠し』における言霊文化とアニミズム - https://ja-jp.facebook.com/notes/%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%A7%91%E5%8C%BB-%E6%A8%BA%E6%B2%A2%E7%B4%AB%E8%8B%91/%E6%98%A0%E7%94%BB%E5%8D%83%E3%81%A8%E5%8D%83%E5%B0%8B%E3%81%AE%E7%A5%9E%E9%9A%A0%E3%81%97%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%A8%80%E9%9C%8A%E6%96%87%E5%8C%96%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%9F%E3%82%BA%E3%83%A0/170114586365398/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?