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「白教の輪」から考える奴隷騎士ゲール 1/4

1.前置き

白教の輪は、アリアンデル絵画世界で入手できるダークソウルシリーズ最後の”白教の奇跡”です。

これの存在意義が気になって、誰かの考察を読みたくて検索するのですがあまり多くは引っかかりません。

一方で、残念なことに(納得のいくことに)揶揄するたとえはたくさん引っかかります。

輪投げ、イカリング、クリ●ンが使う方の気円斬

…お前らクリ●ンは完全に飛び火だろ謝れ!!!
あと術者のゲール爺を「クリ●
ンと同等扱い」したことについてもだ!

…そんなわけで、(おそらく低スペックによる影の薄さのせいもあって)意外に語られる事の少ない「白教の輪」について考えてみたいと思います。

早速ですがフレーバーテキスト。

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■白教の
失われた白教の奇跡
白い光輪は敵を切り裂き、やがて術者の元に戻る
かつて、神々の名残が濃い時代には
白教の奇跡は光輪と共にあったという
そして偲ぶ者たちは
いつの日かそれが戻ると信じていた

ふと考えてみると、シリーズ最後の白教の物語が失われているという違和感。そして、この物語には「偲ぶ者たち」による強い願いが込められており、我々はその願いをゲーム終盤で初めて知る事になります。

上記を踏まえると、このテキストには一語一句に考察の取っ掛かりがあるように感じます。故にめちゃくちゃ魅力的なのです。


2.「輪」というニュアンス

テキスト内で幾度か繰り返される「輪、光輪」という言葉。すべて同じニュアンスの「輪」を指していると捉える方、多いのではないでしょうか。
少なくとも自分は初めて手にした時そう思っていました。

ところが英語テキストです。

■Way of White Corona
A lost Way of White miracle. Launches a white discus which slices into foes and returns to its conjurer.
Long ago, when the imprints left by the gods were still deep, miracles of the Way of White existed alongside aureoles.
Those who yearned for the long-lost aureoles fully believed that they would return, one day.

「輪、光輪」にコロナ(Corona)、ディスカス(Discus)、オーレオール(Aureole)の三種類の言葉が見えますね。

何故わざわざ単語を分けるのでしょう?

意味合いはどうなのか。

①Corona:王冠太陽コロナ。古ギリシャ語の”花輪(korṓnē)”が語源といわれる
②Discus:競技用の円盤。「投げる」という行為に付随する
③Aureole:神格や聖人の頭上に顕現する光の円。または人物全体を包み込む聖性の光。語源はラテン語の「黄金」を指す"Aurea"といわれる

※ このほか、宗教用語で光輪を指す言葉はヘイロー(Halo)、ニンバス(Nimbus)があります。この二語も天文学でよく使われますね。

それぞれサクッと説明します。


3.①Corona - 太陽コロナ

太陽コロナは太陽の外を囲む円状のガスです。「円」という形状を説明するためにCoronaが当てられたのだと考えます。

太陽コロナ(Solar Corona)にちなんで白教コロナ(Way of White Corona)

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出典:Luc Viatour, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=60793による

※ コロナウィルス(Coronavirus)も、核の周りに円状に突起物があるので名付けられました。やはり「円」という形状を説明するための命名ですね。


4.②Discus(ディスカス) - 円盤

白い光輪は敵を切り裂き、やがて術者の元に戻る
Launches a white discus which slices into foes and returns to its conjurer.

②Discusの一文は「投げる」という用途が書かれているのでこの言葉が当てられます。

CoronaとAureole、王冠も光輪も投げられるニュアンスはないので、Discusという単語をわざわざ使う事で「投げられる物ですよ」と示す意図があったのだと思われます。

逆に言えば、それ以上の含みはないという事。
重要なのは次になります。


5.③Aureole(オーレオール) - 光輪

さて、私が取り上げたいのはこの単語です。

かつて、神々の名残が濃い時代には
白教の奇跡は光輪(Aureole)と共にあったという
そして偲ぶ者たちは
いつの日かそれが戻ると信じていた

「神々の名残が濃い時代」とは、火が勢いよく燃え盛り、グウィンをはじめ神々が全盛期だった頃の話でしょう。火の時代の原初に近く、不死が台頭する前であれば相当に古い事が伺えます。

③Aureole:神格や聖人の頭上に顕現する光の円。または人物全体を包み込む聖性の光

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フラ・アンジェリコ『我に触れるな(ノリ・メ・タンゲレ)』1441年頃

※ 描かれているのはイエスとマグダラのマリア。マリアを拒絶しているのではなく、「貴方には他に使命があるでしょう」と諭しています。
※ 光輪にも”格”が存在するようで、イエスの光輪は十字が描かれるケースがあるそう。

無宗教の私にはなかなかイメージしづらい部分でしたが、光輪(Aureole)とは、この絵画のように神格や聖人にしか宿らないのです。むしろ彼らは光輪(Aureole)があるからこそ聖性を帯びていると見る者に知らしめる事ができます。シンボルとしての不可分性、聖性を有している事の印籠でもあります。

つまり、その光輪を再び欲する「偲ぶ者たち」とは【かつて神か聖人であった者たち】と断定する事ができるのです。

――Corona、Discus、Aureole
英語テキストを掘り下げてみると、単語のチョイスにある程度人物を特定する意図が垣間見えてきます。


6.「偲ぶ者たち」の願い

…ともすると、なんという事か。
「白教の輪」を使用する我々はどうやら自らに宿る聖性をちぎっては投げ、ちぎっては投げ…を繰り返していた事になります。

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引用:https://www.youtube.com/watch?v=8CpSYv16zpg

でも安心してください。この輪っかは必ず戻ってきます。

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いえ、言い換えましょう。

「いつか輪(聖性)が戻る」と信じる者たちの願い・羨望がこの物語に落とし込まれ、奇跡を学んだ我々がそれを物質化して再現しているのです。
その業が、まさしく奇跡の恩恵です。

■回復
奇跡とは、神々の物語を学びその恩恵を祈り受ける業である

こと「白教の輪」においては、神々の名残が濃い=火の時代の原初的な見聞き語りを、シリーズの最終盤で我々「灰の人」が継承する事になります。

補足ですが、このほか最古の奇跡としては「太陽の光の槍」があります。

■太陽の光の槍
最古の薪の王グウィンの奇跡
太陽の光の槍を投げる
グウィンの古竜狩り それは火の時代のはじまりの物語である

何なら無印OPムービーに出てるくらいなのでこちらの方が古いでしょう。

古き奇跡という共通項はあるものの、この二つには異なる点があります。

それは、「太陽の光の槍」が1・2・3の主人公たちによって綿々と受け継がれてきた系譜である事に対して、「白教の輪」は3の終盤で初登場、失われたので本来は受け継ぐ者などいなかったはずの奇跡だという事です。

繰り返しになりますが、何故これがシリーズ最後の白教の奇跡だったのか。

もはや終末的なダークソウル3の世界。
登場人物の中で、たった一人その物語を記憶し続け、我々「灰の人」へバトンタッチしたのは誰だったか…。


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満を持してこの御方なのです。

彼は果たして「偲ぶ者たち」の一人だったのではないか。


次回に続きます。

6.ここまでのまとめ

・奇跡「白教の輪」は気円斬ではない(特にク●リンのではない)
…という願い

・シリーズ最後の白教の奇跡は「失われていた」

・英語テキストでは、「輪、光輪」という言葉が3種類の単語に分けられ、詳細かつ特定的なニュアンスで描かれている。そしてそれは意図的である

・そのうち、Aureolesは神格・聖性の証。それを「偲ぶ者たち」は、【かつて神か聖人であった者たち】と断定する事ができる


Corona - https://en.wiktionary.org/wiki/corona#Spanish

Discus - https://en.wiktionary.org/wiki/discus

Aureole - https://en.wiktionary.org/wiki/aureole#Old_French

後光のバリエーション - http://yukipetrella.blog130.fc2.com/blog-entry-2022.html

キリストの復活 - https://plaza.rakuten.co.jp/sakisakisf/diary/201504050000/

我に触れるな(フラ・アンジェリコ) - http://cupola.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/post-7c06.html


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