日本海軍軍艦の艦内編制(4)運用科
日本海軍艦艇の艦内編制について説明しています。今回は運用科と、それを改編した内務科について。
前回の記事は以下になります。
運用科
運用科では、艦の運用、応急を担任する。かつては帆の操作などを主に担当していたが、帆走設備が廃止されると索具や錨関係、起重機などの作業全般をつかさどった。運用と航海は軍艦にかぎらず乗り物としての船には必須の機能だが、運用は地味に思われてあまり人気がなく出世にも結び付きづらかったようだ。
運用長は運用科の担任する職務全般と、そのために必要な装備の日常の整備に責任をもつ。
もとは旧式艦を運用術練習艦に指定して教育をおこなっていたが、のち海軍航海学校の運用学生課程で運用長として勤務することを目的とした教育がおこなわれた。ただし自分から運用学生を希望する将校は多くなく、命令で不本意ながら履修するいわゆる「徴兵」や、高等科学生を経ない(マークをもたない)状態で運用長となる者も多かったという。
運用士は運用科の乗組士官があてられ運用長を輔佐する。
掌運用長は運用科の特務士官または准士官があてられ、運用科の職務全般について現場出身者の観点から運用長を輔佐した。かつては掌帆長と称していた。
運用科要具庫員は運用科が用いる要具の保管に任ずる。
応急幹部は戦闘や事故により損傷を被った際に被害拡大防止、臨時復旧、防火作業などにあたり艦の能力を保全する作業を指揮する。応急指揮官は運用長がつとめる。応急指揮官附は指揮官を輔佐し運用士があてられた。応急幹部附は応急幹部に属する下士官および兵の総称で、補助員、通信伝令員があった。
応急部は実際の応急作業に従事する。ひとつ以上の応急班を編成し応急班指揮官には下士官をあてた。応急班員には業務の内容によって防火員、防水員、防毒員、破壊物処置員、警戒員、傷者処置員などと区分した。なお応急班員は他科の管理に属さない艦内灯火の維持にあたる灯火員を兼ねた。
内務科
昭和18(1943)年12月1日付で運用科が廃止され、工作科と、機関科が管掌していた電機・補機をあわせて担当する内務科が新設され、科長である内務長は艦船令の条文では副長につぐ位置に置かれた。もともと工作科は運用科から分離した(昭和3年)もので旧に復したともいえるが、前年の兵科と機関科の合一をうけて兵科系統の運用科と機関科系統の工作科、機関科の一部をあわせて兵機合同の組織をもうけ、兵科出身者と機関科出身者のあいだの垣根を低くしようという意図があったのではないか。機関科出身者が内務長を命ぜられることも想定され、副長につぐ科長筆頭に置かれたのは機関科出身者の地位向上をめざしたとも考えられる。
一般的には、戦訓により応急の重要性が認識されるようになったので応急作業に関する機能を一元化し、重要度に応じてその地位も高く置かれたと説明されており、実際そちらが変更の主目的だろう。しかし付随して期待された効果もあったのではないか。
内務長、内務士、掌内務長、内務科要具庫員が置かれた。
防御幹部として防御指揮官(内務長)、防御指揮官附(内務士)、防御幹部附として補助員、通信伝令員、電話交換員が置かれた。
応急部の編制は基本的には変わらない。応急部指揮官には分隊長があてられ、応急部附は指揮官を輔佐もしくは一部業務を分掌し乗組士官、特務士官または准士官があてられた。特務士官または准士官の場合は応急長と称した。応急班指揮官は個々の応急班を直接指揮し乗組士官、特務士官または准士官があてられた。応急員は応急部に属する下士官および兵の総称で、応急班下士官と応急班員からなり、応急班員には灯火員、通信伝令員が含まれた。また応急班員は補機員を兼ね冷蔵庫、製氷機、消防ポンプなどの維持操作にあたった。
注排水部は注排水装置を用いて各区画に注水あるいは浸水区画から排水をおこなって艦のトリムを調整し前後左右方向の傾斜を軽減する。注排水部指揮官は分隊長があてられる。注排水部附は指揮官を輔佐し乗組士官、特務士官または准士官があてられる。注排水員は注排水部に属する下士官および兵の総称で、注排水部下士官、管制装置員、弁開閉員、喞筒員(ポンプ)、補助員、通信伝令員があった。
電機部は発電機や電動機の維持操作を担任する。電機部指揮官は分隊長があてられ、電機部附は指揮官を輔佐し乗組士官、下士官または准士官をあてる。電機部に属する下士官および兵を総称して電機員と呼び、電機部下士官、発電機員、電動機員、内務科電路員、通信伝令員があった。
なお内務科は所管範囲が広かったためか、常務編制では運用部、工業部、電機部、補機部に区分し、それぞれ分隊長を置くのを通例とした(人数の多寡により適宜まとめることがある)。
おわりに
次回は飛行科、整備科を取り上げます。
ではまた次回お会いしましょう。
(カバー画像は戦艦武蔵の前甲板。錨鎖が見える)
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