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五つ星な人たち - 海外の元帥

 日本以外の元帥について簡単にまとめてみたいと思います。日本については以下記事をどうぞ。

 階級全般についてはこちらを参照してください。

元帥のはじまり

 もともと軍隊の階級は役職から派生したもので、区別がありませんでした。そのふたつが明確に区別されるようになったのは比較的最近で、それも何年何月何日からとはっきり分けられるものではなく徐々に進行してきたものです。例えば英語の captain という単語は階級はとしての海軍大佐と、役職としての艦長の両方の意味を持ちます。両者がかつては一体のものだったことを反映しています。
 役職と階級の分離は17世紀頃から19世紀にかけて進みました。ナポレオン戦争が終わる頃にはヨーロッパ諸国ではほぼ階級制度が固まり、完全に確立したのは19世紀半ば頃でした。日本で維新が起きたのはこうした時代で、階級制度が最初から導入されましたが役職との分離は当初不徹底で混乱がありました。制度の本質が充分に理解されていなかったのでしょう。

 マーシャル marshal という単語は中世のゲルマン諸族で「王の馬守」を意味する言葉に由来します。転じて王の側近くで軍隊を指揮する役割を表すようになり、やがてドイツやフランスで軍隊の最高指揮官をマーシャルと呼ぶことになります。

 アドミラル admiral はもともとアラビア語で指揮官を意味するアミールから派生したもので、本来は海に限られなかったのですがヨーロッパでは主に海軍指揮官として用いられるようになりました。

イギリス

 イギリス海軍では艦隊の指揮官をアドミラルと呼んでいましたが、艦隊の規模が大きくなるとその一部を分担する下級指揮官が置かれます。当時艦隊を前衛と中軍、後衛に分けることが一般的で、中軍をアドミラル admiral が、前衛を副アドミラル vice-admiral が、後衛を後衛アドミラル rear admiral が指揮するようになり、それぞれがやがて階級としての大将、中将、少将を意味するようになっていきます。
 17世紀末、英蘭戦争が終わった頃にアドミラルの最上位にのちに海軍元帥を意味することになる admiral of the fleet が置かれます。19世紀に整理されて海軍の階級の中で最上位に位置づけられましたが多分に儀礼的なものになり、特に功績の大きい軍人に名誉として与えられるものになっていきます。

 18世紀半ばには陸軍でも最高位として陸軍元帥 field marshal が置かれます。大将以下が general であるのに対しやや別格とされたことが見てとれます。やはり儀礼的、栄誉的な性格が強く、他国の元首(特に君主)に陸軍元帥の階級が与えられることがありました。大正天皇や昭和天皇もイギリス陸軍元帥の階級を贈られています。

 イギリス空軍は20世紀に入って創設され、陸海軍にならって元帥 marshal of the Royal Air Force を設けました。

 陸海空軍の参謀総長経験者には元帥の階級が与えられることが慣習になりました。のちには合同参謀総長も加わります。元帥の多くは爵位を与えられ、26人しか許されないガーター騎士の有力候補になりました。
 非常に狭き門とはいえ、20世紀後半にいたっても数年ごとに決まった数の元帥が誕生するというのは珍しく、他国と釣り合いがとれなくなったせいかこの慣習は世紀の替わり目頃にとりやめられ、今後は完全に儀礼的な任命を除いては戦時に限定されることになりました。

ドイツ諸邦

 プロシア、オーストリア、バヴァリア、ザクセン他のドイツ諸邦ではゲルマン語に由来する元帥 Generalfeldmarschal が置かれました。特に軍国主義的色合いの強いプロシアでは陸軍元帥の地位は高く、ドイツ帝国もそれを引き継ぎます。王族や他国元首への元帥贈与も盛んに行われ、イギリス国王とドイツ皇帝が互いに元帥を贈りあったりしています。元帥への進級はイギリスに比べると多少抑制的で、例えばドイツ帝国50年の間に元帥となったのは30人程度でした(外国王族を除く)。

 ナチスの時代にもこうした傾向は大きく変わらず、ただヒトラーの意向が強く反映されました。ヒトラーは多分に自分の政治的な意図を元帥という階級に込めました。スターリングラード戦でのパウルスへの元帥授与はその極端な例です。
 ナチス時代にはじめて創設されたドイツ空軍はさらにヒトラーの影響力が強く、空軍総司令官のゲーリングは唯一国家元帥 Reichsmarschal の階級を得ていました。

 一方で海軍はドイツ帝国後半期には比較的重視されましたが総じて為政者の関心は低く、海軍元帥 Großadmiral は存在しましたがその数は陸軍に比べてかなり少ないものでした。ナチス時代に海軍元帥を得たのは2名だけです。

フランス

 フランスもその源流となったゲルマン系のフランク王国の伝統を引き継いでいました。陸軍の最高指揮官であるフランス大元帥やフランス元帥といった役職が中世を通じて置かれていましたが革命で廃止され、ナポレオンが改めて階級として創設して部下に授与し、方面軍を任せました。
 現在のフランス陸軍元帥は日本の元帥に似て階級ではなく称号とされており、ごく限られた軍人に授与され、死後の贈与も多数あります。戦後に元帥を与えられたのは4人だけで、そのうち3人が遺贈になります。

 海軍元帥は戦時中に1人だけでした。

ロシア、ソ連

 ロシア帝国の元帥はピョートル大帝が創設したとされていますが、ロシア帝国はほぼ常に周辺国と戦争していたのでコンスタントに元帥が生まれています。
 ソ連では一時階級が廃止されていたことがありますが、1935年に任命された5人の元帥のうちスターリンによる粛清で3人が処刑されておりとても安泰な地位とは言えませんでした。
 戦時中には多数の元帥が生まれており、戦後も定期的に任命があって合計41名が元帥になっています。純粋に軍事的に功績をあげたものの他、ブレジネフなどの政治家も元帥を得ています。
 ソ連軍の階級は複雑で、最高位のソ連邦元帥の下に元帥があり、さらに大将が2階級に分かれています。さらに砲兵元帥などの兵科元帥がありましたがこれらは大将と同等とされていました。

 海軍にもソ連邦海軍元帥と海軍元帥がありましたが、前者に任命されたのは数えるほどでした。

 ロシア連邦になって階級もだいぶ整理されました。ロシア連邦元帥が制定されていますが実例は1人だけです。

アメリカ

 アメリカ軍はもともと独立戦争時の民兵に起源をもち常設軍の維持には否定的でした。そのため軍人の階級についても平時には比較的低く抑えられ、戦時に必要に応じて臨時に階級を与えるという運用がなされており、大将ですら滅多に任命されないという時代が長く続きました。
 高級軍人の任命は議会の権限で、例えば現在でも大将への昇進は大統領の指名を議会が承認しなければ成立しません。大将への昇進自体が例外的だった初期のアメリカでは元帥とは議会がその都度決めるものでした。

 南北戦争で連邦軍を率いて勝利に大きく貢献したグラント、シャーマン、シェリダンの3名が1866年から1888年にかけて順次議会によって General of the Army の称号を与えられました。これらがはじめての陸軍元帥になります。

 米西戦争のマニラ湾海戦でスペイン艦隊を完全撃破したデューイに議会が与えたのが Admiral of the Navy でした。これが海軍元帥のはじまりとされています。

 第一次世界大戦でアメリカ派遣軍を指揮したパーシングには General of the armies が与えられました。グラントらとは微妙に異なることに注意してください。

 第二次世界大戦中の1944年に、米軍首脳部を元帥に任命することになりました。ヨーロッパで連合軍最高司令官をつとめるアイゼンハワーが陸軍大将なのに、その下で第二十一方面軍司令官をつとめるイギリスのモントゴメリーが陸軍元帥だったのはまずいと考えられたのかもしれません。陸軍からマーシャル、マッカーサー、アイゼンハワー、アーノルドの4名が、海軍からリーヒ、キング、ニミッツの3名が元帥に任命されることになり、ここではじめて制度としての元帥が確立しました。問題になったのが階級の名称で、議論のすえ陸軍元帥は General of the Army、海軍元帥は Fleet Admiral とされました。
 1944年12月15日から21日まで、リーヒ、マーシャル、キング、マッカーサー、ニミッツ、アイゼンハワー、アーノルドがそれぞれ元帥に任命されました。一日にひとりずつ任命されたのは先任順を明らかにする意図があったと考えられます。1945年12月にハルゼーが海軍元帥に任命され、1947年には空軍が独立し、1949年アーノルドが空軍元帥 General of the Air Force に任命されました。1950年にブラッドレーが陸軍元帥に任命されたのを最後に、元帥の新規任命はありません。

 なお General of the armies と Admiral of Navy は1944年に制定された元帥よりも上位とされています。

 1976年、議会は建国200年を記念してワシントンに General of the armies の階級を贈りました。これはすべての元帥の中で最上位とされています。
 2020年には生誕200年を期にグラントに General of the armies が贈られています。

中国

 中国人民解放軍では内戦終結後の1955年に階級制度を創設して10名を元帥に任命しましたが、文化大革命中の1966年に廃止しました。1988年に階級制度が復活しましたが元帥は新規任命としては復活せず、1955年の10名が最初で最後となりました。

北朝鮮

 北朝鮮には共和国大元帥、共和国元帥、人民軍元帥、共和国次帥、人民軍次帥の5種類の元帥が存在します。
 共和国大元帥には金日成、金正日の2名が任命され、共和国元帥には金正恩ふくむ2名、人民軍元帥には7名、共和国次帥には1名、人民軍次帥には25名が任命されています。朝鮮戦争以来対外戦争を表向き経験していない国としては異常に多いと言わざるを得ません。

おわりに

 元帥の階級章は国や軍種に依りますが、主に欧米では5つ星が広く使われていて、軍種を問わず元帥を総称して five-star flag officer と呼んだりします。

 21世紀の現在、主要国では元帥はほぼ廃止されて制度だけ残っている状況で、いまだに何人も元帥が居並ぶような国はやはり異様です。

 簡単にと言いながら分量だけは思ったより長くなってしまいました。中身は薄いですけどね。時間稼ぎしたのですが、次のネタが思いつかないよう。

 ではもしネタが思いついたらまた次回お会いしましょう。

(カバー画像はアメリカ海軍元帥の将旗)


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