『あめつちのうた』

朝倉宏景さんの作品。

高校を卒業してから甲子園のグラウンドキーパーとなった大地。

大地は甲子園優勝経験のある先輩やビールの売り子をしている歌手などと出会う。


大地の母が急に大地の家に来て、みんなでパーティーをするシーンが面白かった。

大地が内野の散水で一番手を任されるシーンが、とても良かった。


印象に残っている文

もちろん、待機中であっても気は抜けない。怪我人が出た場合、すみやかに担架を出すのは阪神園芸の役目だったし、それ以外にも天気の急変はないか、グラウンドの荒れによるイレギュラーが出ないかなど、あくまでグラウンドキーパーとしての視点で試合の推移を見守っていく。

親子そろってほんわかしてますよねと、他人から言われることが多い。「ほんわか」とは、すなわち「天然ボケ」を柔らかく表現しているのだと、さすがに俺だってわかっている。

「俺たちだって、そうや。高校野球でも、プロでも、選手が楽しそうに、のびのびプレーしてる。それを見たお客さんたちが、よろこんでる。感動して、拍手喝采してる。それだけで、グラウンドキーパーは満足なんや。結果として感謝されることがあったとしてもな、それを目的にしたらあかんやろ」

「傑も今までは、野球という競技の表面だけしか見えてなかったんだよ、きっと。でも、その下の、奥深いところにまで目が届くようになってきた。たくさんの人がかかわって野球ができていることに気がついた。それはさ、腑抜けてるんじゃなくて、傑が成長してるっていう何よりの証拠だと思うんだ」

「奥の部分にまでしっかり水が届かんと、深さ三十センチまで均一に水分をふくんだ、柔らかくて、かわきにくいグラウンドにはならへんやろ。日光で表面はかわいたとしても、奥の層は水気をたっぷりふくんでるから、クッションみたいに衝撃を吸収してくれる。甲子園球場のグラウンドの最大の武器は、水持ちよく、水捌けよく、やからな」

雨は平等。たしかにそうだ。一度降りはじめれば、人間は、なすすべがない。まったく降らない、ということに対しても、なすすべはない。

「ウチの好きな歌手の人が言ってるんやけど、歌ってな、追い焚き機能やねん」中略「忘れたくない感動とか、感情を何度でも、何十年後でも呼び起こしてくれんのが、歌の役目やと思うねん。冷めたと思っても、聞いた瞬間、何度でも燃え上がるのが、歌のパワーや」

「大地君は、一人前のグラウンドキーパーになりたいっていう自分の夢に真っ直ぐ向かって、周りの人を笑顔にさせて。それでその笑顔を見た人も頑張ろうっていう気持ちになれる」


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