『空洞電車』

朝倉宏景さんの作品。

2年前にメジャーデビューしたバンドのSINUS。ある日、ギターボーカルの洞口ミツトが転落死してしまう。

バンドのメンバーの視点から物語が進んでいく。


両親が亡くなる悲しむ那菜子に対して、ミツトがかけた言葉が印象に残っている。

匠とミツトがラーメン屋に行く場面を読んで、ミツトの人間らしい部分を感じた。

平子さんの人を見る目がすごいと感じた。

まきのような性格の人がダンスなどをしたら、絶対面白いだろうと感じた。

エピローグで今後のサイナスがどうなるのか楽しみになった。


印象に残っている文

仲違いをしたわけではない。むしろメジャーデビューを果たして、絆は年々深まっている。それなのに、互いに適度な距離をとり、よそよそしくなっていく。必要以上の言葉は交わさない。大人になったということだ。

信じられないーー結局、それにつきるのかもしれない。この空っぽの心の底にかろうじて溜まっていた、感情の残りかすをかき集めて、とことん煮詰めて、核みたいなものを抽出したのなら、たぶんその一言が最後の最後に残る。

サイナスの音楽がわからないと話す二人の感性が鈍いとか、年をとっているから若者についていけないとか、そういう問題ではない。どれだけ頑張ったところで、最初から届く範囲は、ごくかぎられているのだ。自分たちの信念を貫いて、なおかつ売れるというのは、近年の音楽業界では奇跡に近い。

「それにしても、那菜子ちゃんも、最近ちょっと太ったでしょ? 試食しすぎ?」「はーん」と、那菜子は低い声を出した。「なんなの、その『はーん』っていうのは」「はーん、そういうこと言いますか⁉︎の略です」「略になってないんだけど……」

「君は紬さんとは違った意味で、もっと広い世界を見たほうがいい。僕はね、ただの温情で匠君を誘っているわけではない。無能は必要ない。君がマネージャーとして有能だからヘッドハンティングしているんですよ」

頑張れーーそれは、もしかしたら無責任な言葉なのかもしれない。けれど、もし肩をならべ、いっしょになって頑張るのだとしたら、それは多くの責任と覚悟をともなう言葉にかわる。だからこそ、頑張れる。

「つらいときには、口笛を吹くといいよ。いつでも、どこでも吹ける。吹いたときは私を思い出してよ。私もそのときは、同じ時間に、同じ空の下で、口笛を吹いているから」

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