『嘘つきジェンガ』

辻村深月さんの作品。詐欺をテーマにした以下の話が収録されている。

2020年のロマンス詐欺、五年目の受験詐欺、あの人のサロン詐欺


「2020年のロマンス詐欺」を読んで、コロナ禍で数多くの大学生が生活面で苦しい思いをしているというニュースを思い出した。事件の真相が意外だった。両親の気持ちを考えると、「なんてことをしたんだ」と思うだろう。

「五年目の受験詐欺」を読んで、子どもの受験をそばで見守る親も苦しい立場にあるということがよくわかった。

「あの人のサロン詐欺」が一番好きな話だ。原作者に認められるくらい作品を読み込めるというのがすごいと感じた。主人公が原作者の練炭自殺に気づいて、いち早く現場に向かうシーンが良かった。

印象に残っている文

「パソコンやスマホだって、親に買ってもらったんでしょう? 下宿先の家も親に借りてもらってるんだよね? それで贅沢言ったらダメだよ。仕送りなんて期待しないで働くのはある意味、当たり前のことで」ある意味、の他に、どんな意味があるのか。

そうか、これが“夢”か、と納得する。皆、自分に価値があると思いたい。自分だからこの相手に選ばれたのだという“夢”を見たいのだ。

誰も、耀太のことなど話題にしていない。皆、新しく動き始めた自分たちの時間にしか興味がないのだ。地元のみんなの中に、「新しく始まった」生活が見えることが恨めしかった。

長男の時に一度経験してわかったことだ。受験をする子の母親同士は、どれだけ仲が良くなったように思えても、真に有益な情報はやすやすと口に出さない暗黙の了解のようなものがあった。

言い返しながら、ああ、もう、母親って、どうしてこっちが今やろうって思ってたまさにそういう瞬間に割り込んでくるんだろう、と思う。

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