『ムーンライト・イン』

中島京子さんの作品。

自転車旅行をしている途中に雨に降られた拓海は、一軒の建物を訪れる。

かつてペンションだった「ムーンライト・イン」には様々な事情を抱える女性が住んでいた。


拓海がマリー・ジョイの父親に手紙を書くシーンが印象に残っている。

不退転の決意で息子夫婦に会いに行ったかおるさんが下した決断は、意外なものだった。

拓海がマリー・ジョイのことを迎えに行く日が早く来ることを願っている。


印象に残っている文

旅先で気になる人に出会い、たいして深く知り合うこともせずに別れるのは、もう何年も続いている習わしのような癖のようなもので、それなりに旅に余韻をくれるものの、いつもどこか虚しさがつきまとう。

「アップルサイダーって、サイダーじゃないんですね」「サイダーっていうのは、アメリカでは林檎ジュースのことらしいね。だから、アップルサイダーは、いわゆる和製英語だよ。温めて飲むと体が温まるでしょう」

「ハロウィーン? あれは子どものお祭りでしょ。フィリピンでは九月の終わりくらいからずっとクリスマスだよ」

時代が変わった、変わったと言っても、女たちを取り巻く世界は、いつもそんなことがつきまとう。

「寒くない?」ほかに、かける言葉が見つからなくて、テラス席を悪者にしてみる。

「だから、考えといて。おれ、必ず行くから。住所、教えて。会いに行くから、そして戻ってきてって言うから。おれと結婚しないか? おれ、マリーさんに戻ってきてほしいんだ。いっしょに暮らそう。結婚しよう」

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