『崖の上で踊る』

石持浅海さんの作品。

株式会社フウジンブレードに恨みを持つ男女が、フウジンブレードの幹部たちに復讐をしていく。しかし、恨みを持つ男女の中から死者が出てしまい、事態は急変する。


絵麻の過去の話を聞いて、自身の夢が絶たれてしまった辛さは想像を絶すると感じた。

石持さんはよくこのような話を思いつくなと感じた。

雨森が瞳のスマホのロックを解除した方法は、なるほどと感心した。


印象に残っている文

公害問題の難しさが、ここにある。低周波音は、特にそうだ。なんといっても、個人差が大きい。

一橋は動かなかった。違和感を覚えるほどの、完全なる静止。生者には決してできないことだ。

上司や同僚たちと話をすると、市民のために働いているという意識を持っていることはわかった。それが職業上の誇りであることも。しかし彼らの目指しているのは、いかにして現状をスムーズに回すかだった。変えないことこそが、市民のため。それが共通認識だった。

いくら気の置けない仲間とはいえ、そこは女同士。あまりいい加減なメニューにすると、家事能力を低く見られる。微妙な対抗意識が働いて、それなりの朝食ができあがった。

あれほどの憎しみを抱いていながら、どうして怒りを噴出しないのか。たとえば、江角のように。絵麻も最初は理解できなかった。しかし彼と一緒に過ごすうちに、わかったことがあった。憎悪というものは、一定限度を超えると、かえって表に出なくなるものなのだ。

「復讐って、本当に危ういよね。自分では肚が据わっているつもりでも、傍から見たら、めちゃくちゃ危なっかしいんだろうね。まるで、崖の上で踊ってるみたいに。一歩足を踏み外せば、崖下に転落してしまう。それでもみんな、復讐という踊りをやめようとしなかった。そうしているうちに、次々と崖から落ちていった」


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