『ひとつむぎの手』

知念実希人さんの作品。

心臓外科医の平良裕介は、富士第一総合病院への異動を希望していた。ある日平良は教授から3人の研修医を指導するよう頼まれる。もし3人のうち2人が心臓外科に入局したら、異動希望を叶えると平良は教授から言われる。

心臓外科の過酷な勤務状況を研修医に正直に伝えるべきかどうか悩んでいる平良の姿が、読んでいてとても辛かった。もし自分が同じ立場だったら、研修医に何と伝えているだろうか。心臓外科の現状を知らなかったので、とても勉強になった。絵里香が亡くなってしまったあと、平良が宇佐見へ見せた優しさが素晴らしかった。自分がもし同じことをされたら、号泣してしまうと思う。平良の妻がとても理解のある人で本当に良かったと思った。


印象に残っている文

大学病院の医局は、医師を育てる教育機関だけではなく、人材派遣組織としての側面を持つ。出向という形で人手不足の市中病院に医局員を送り込み、関連病院としてその病院に対して影響力を持つのだ。

尿が出なくなったら最期の時は近い。それは医師にとっての常識だ。

患者の個人情報をやり取りする医療現場では、情報流出のリスクの低さから、いまだにファックスが現役で稼働している。

「お二人が絵里香ちゃんのことを必死に考えられて、悩まれたうえで出した結論を、私は尊重したいと考えています。絵里香ちゃんを一番ご存知のお二人が出した答えが、一番『正解』に近いものなんだと思っています」

「もし、親しい患者が亡くなっても、医者は泣くことも許されない。患者のために泣くのは、家族の権利だからだ。俺はそう教わってきたし、その通りだと思っている」

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