『ヴァイタル・サイン』

南杏子さんの作品。

過去の作品では医師が主人公のものが多いが、本作は看護師が主人公である。

日勤・準夜勤・深夜勤によって仕事内容が変わることが詳しく書かれていて勉強になった。

身体的にも精神的にも辛い仕事を行い、そのうえ人間関係や上司からのパワハラなど看護師の過酷さが描写されていた。この本を読んで、看護師のなり手が減ってしまうのではないだろうか。少しでも労働環境の改善を行ってほしいと感じた。

印象に残っている文

「白衣の天使」なんて言葉は、好きではない。甘ったるい言葉の響きが、何というか自分の現実に合わない。

慢性的な人手不足の中、目下の者が辞めると責任を問われる空気が、この職場にはある。

患者は認知症のため自分の置かれた状況を把握するのが難しく、不安や恐怖を極度に感じやすい。そのせいで暴言を口にしてしまう。スタッフの誰もがそれを学び、理解はしている。ただ、実際に目の前で怒声を浴び、激しい抵抗を受けると、自分が本当に正しいことをしているのかどうかーーと悩んでしまう者も少なくない。

一分間で十八回までが正常値とされる呼吸数が、たとえば二十四回に速まれば肺炎を疑う必要がある。

エンゼルケアとは、死後に行うご遺体の処置、保清、メイクなどすべての死後ケアのことで、逝去時ケアとも呼ばれる。

「背中がかゆい」「隣の患者のいびきがうるさい」「腰が痛い」
さほど深刻でない訴えの多くは、総括すると「眠れない」ということだ。

「血尿は、亡くなる前に現れやすいお体の変化で、仕方のない状態です」

↑ この言葉で、主人公は患者の家族から非難されてしまう。

一生懸命に生きているつもりだった。なのに、問題ばかりだ。真面目に頑張っているのに、ミスしてしまう。誠実に向き合っても、責められることが多い。収入はあるのに、借金は追われている。休みはあるのに、いつも睡眠不足だ。何が間違っているのだろう。

望月「ウサギも疲れてるでしょうね、きっと。ずっと餅をつきっぱなしですから」

「病院というのは、大変な職場ですからね」望月は静かに続ける。「たくさんの生老病死があって、それらが常に動いています。すべてが理想通り、思った通りにいくはずがない」

↑ 私は清掃員の望月さんがとても素敵な人だと思った。

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