『ニュータウンクロニクル』

中澤日菜子さんの作品。

若葉ニュータウンに暮らす人々について、年代別に物語が進んでいく。


健児は優しくて魅力がある人だと感じた。

正江と文子の友情が崩れてしまったのが、悲しかった。

秀樹や正人、純の子供を持つことについての考えがとても印象に残っている。

最後に健児がやるべきことをきちんとできて、本当に良かった。


印象に残っている文

「同じ町の住民なのに……」掠れた声で春子がつぶやく。「同じ町に住み、暮らし、日々を過ごしているのに……どうして……どうして憎みあわなきゃいけないんでしょう。そんなのおかしい。おかしい、ですよねぇ……」

お父さん、か。家族に見えるのか、他人には。じぶんと春子と理恵子が。家族に。胸の奥に、痛みにも似た疼きを感じる。その疼きはけっして不快なものではなくーーむしろほのかな甘やかさを健児は感じる。

夜中に書いた手紙を目のまえで読まれることほど恥ずかしいことはない。

「あると思い込んでいたものがじつはなかったとか、信じてたことがあっけなく崩れるとか。そういう体験を重ねていくうちに……じぶんの手で作りたくなったんだよね、なにかひとつでも『確かなもの』を。なんていうか……かたちとして残るもの、これだけはだいじょうぶだって思えるものを」

「子どもがいるからこその悩みや苦しみは当然あるとおれは思うよ。でもそれが……家族ってものなのかもしれないな。幸も不幸も一緒くた。きっぱり割り切れない、そんな関係を家族って言うのかもしれないな」

ふたりの間を春の風が吹き抜けてゆく。つよく優しくそして永遠に止まることのない暖かなあたたかな、風が。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?