『刑事さん、さようなら』

樋口有介さんの作品。

本庄署の警察官が何者かに殺されてしまう。本庄署警部補の須貝と西川口の韓国料理屋で働くヨシオを中心として、物語が進んでいく。


警察が手を回して事件の真相を変えるというような記述があったが、果たして本当なのだろうか。

ヨシオはとても良い人で、友達になりたいと感じた。ヨシオの作った七草粥は、きっと美味しいのだろう。

夕美さんはミステリアスな人だと感じた。


印象に残っている文

本庁の捜査一課には法医学の研修を受けた検視官という資格の刑事がいて、事件現場では地方検察庁検事の職務を代行する。いわゆる変死体が発見された場合、法律上は捜査検事が臨場して事故、自殺、他殺等の判断と以降の捜査を指揮する決まりなのだが、エリートの検事に汚い現場は不向きだし、警察の側も現場で素人にうろうろされては、邪魔になる。

小暮が小暮だから、相手の女が社長令嬢や美人歯科医ということもないだろうが、警察官の結婚に関しては、意外に面倒な部分がある。暴力団や反体制組織などに関係した家系かどうかを調べられ、ひっかかった場合は結婚のキャンセルか、本人の退職を迫られる。水商売や風俗関係もご法度で、たとえ表面的に誤魔化したとしても、警察内での立場は悪くなる。だから警察官の結婚相手は必然的に同僚や上司の縁者が多くなり、結果として「警察一家」のような互助組織が成立してしまう。

「フィリピンは十六で大学よ。大学の数はコンビニより多いよ」「教育熱心な国だな」「ちがうよ。フィリピンには出稼ぎしか産業がないよ。だから外国へ行くとき学歴つけさせるよ。それでダンサーも家政婦も、みんな大学出よ」

天井に向けて長くタバコの煙を吹き、見おろすような視線で、何秒か、夕美がヨシオの顔を見つめる。歳なんか三つしか離れていないのに、ヨシオにはもっとずっと歳上の、遠い舞台の上で芝居をしている、女優のように感じられる。

「女は男の人が思っているより、鋭いのよ。旦那の浮気を嗅ぎ分けるのが、女の商売なんだから」

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