『鍵のない夢を見る』

辻村深月さんが直木賞を受賞した作品である。5つの短編から成り立っている。


特に「芹葉大学の夢と殺人」が印象に残っている。

雄大は理想を持っているが、未玖がそれに幻滅してしまった感じがした。未玖がとても可哀想である。

「石蕗南地区の放火」では、消防団員の大林に「バックドラフト」というあだ名が付いているのが面白いと感じた。

「君本家の誘拐」では、子どもの育児に悩む女性が描かれている。作中のセリフで出てくる人生の「踊り場」を自分も持つようにしたいと感じた。


印象に残っている文

大人が嘘をつくなんて、それまで、私はありえないと思っていた。しかも、子供には嘘をつくくせに、同じ大人には平然と真実を認めている。なんだか気持ち悪かった。

人の言葉や誘いに誠意のない対応ができないのは、礼儀の問題だ。私はごく常識の範囲で相手に応えているに過ぎない。おかしいのは、そこにつけ込もうとする礼儀知らずな輩たちの方だ。何故、誠実な態度を取った私の方がそんな人たちに損をしたような気持ちにさせられなければならないのか。

年配の田舎気質の上司たちは、同じ年代の若者を一つの場所に放り込んでおけば、何が発展してもおかしくないと思っているらしかった。

「良枝はさ、昔から人生設計が階段階段って感じで、踊り場がなかったのかもしれないね」

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