『母親ウエスタン』

原田ひ香さんの作品。

母親のいない家庭に入り込み、子供の面倒を見て母親のように接する広美。

広美に去られてしまった子どもたちにとっては、寂しいだろうと思った。子どもたちが広美のことをよく覚えていても、広美の方はあまり子どもたちのことを覚えていなかった場面がとても印象に残っている。

広美が子どもたちに尽くす姿は、本当の母親のようだと思った。


印象に残っている文

女じゃなければあおいは気が楽になる。けれど、理美の方が祐理をわかっている、理解しているというのは、少し悲しかった。

「よくさぁ、女の子が髪型変える時は男を替える時っていうじゃん。男も女も生活の何かが変わる時って、相手が替わる時なんだよ。または替えたいなぁ、って思ってる時」

「男ってずるいからさぁ、絶対、自分から別れるとか言わないから。そうやってずるずるいつまでも気を持たせて、女の方から言いだすまで引きずって、で、女の子が意を決して別れようって言うと、そんな気じゃなかった、とか引きとめるわけ。自分が振られるのもメンツが立たないから。けど、やっぱり事態は変わらなくて、しばらくすると『やっぱり別れよう。君に言われて気がついた』とか言い出すんだよ。」

情報というのは、お金と一緒でさびしがり屋だ。

「優しくしてくれた。親以上に守ってくれた。育ててくれた。それ以上に、なにがある? おれの母親はあの人しかいないし、あの人が母親なんだ」

あおいはそう言いたかったけど、それはまだちょっと早い気がした。だから、その言葉は彼のトレーナーの中にしみこませた。

から揚げやポテトフライなど、量が多くて安いものをいくつか頼むと、なんとなく四人顔を見合わせる。

母親との関係が壊れた、というだけでこんなに気持ちが落ち込むとは思わなかった。世界と自分が切り離されてしまったようで、体のまわりがすうすうする。それなのに、頭は熱っぽくいつも気分が悪かった。

ああ、自分はこの人のこういうところが嫌なのだ、としみじみ思った。本当は別の意図やねらいがあるはずなのに、それを人のせいにしたり恩に着せて、正当化しようとする。


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