『希望病棟』


垣谷美雨さんの作品。

『後悔病棟』の続編である。前作では早坂ルミ子が主人公であったが、『後悔病棟』の終わりに出てきた黒田摩周湖が主人公である。中庭で聴診器を拾った摩周湖は患者の心の声が聞こえてくる。摩周湖は末期がん患者の遺伝子治療を行うことになり、養護施設で育った高校生の桜子と、代議士の妻である元キャバ嬢の貴子と接するようになる。

桜子と貴子は二人とも亡くなってしまうのかと思ったら、治った。治ったあとの人生が書かれているのがとても面白い。由紀子さんが桜子のバイト先に放った言葉が、とても痛快だった。貴子の姑がカトレア荘に実際に住んでいる場面を読んで、自分の中での評価が少し上がった。代議士の妻がかなりの仕事をこなさなくてはならないということを初めて知った。本当にすごいと思う。女性の貧困や学生の奨学金、戸籍がない子供など様々な社会問題が絡められていた。

印象に残っている文

マリ江がいつもの慈悲深い眼差しで見たので思わず目を背けた。親もいないうえに末期癌で、どうしようもなく可哀想だと思っているのが見てとれる。何か一つでもいいところを見つけて褒めてやろうとしているのだろうけど、そういうの、有難迷惑なんだよ。

優しそうな顔で近づいてくる大人は要警戒だ。気を許して甘えたら手痛いしっぺ返しを食らう。そんなことは、児童養護施設や学校で数えきれないほど経験してきた。

コミュニケーション能力が低くてもうまくやれる仕事なんて、実はこの世にないのではないか。

人前で自分を卑下すれば、相手は当然、「そんなことないですよ」と否定してやんなきゃならないのが、どうしてわからないんだろう。

人間というのは、育ちが良ければ良いほど鈍感になるものなのだろうか。

法律では「戸別」の訪問は禁止されているが、「個別」の訪問は許可されている。

学校のクラスというのは不思議なものだ。一クラスに四十人もいて、それも男子とはほとんど話したこともないのに、互いの存在だけでなく、特徴も知らず知らずのうちにわかっている。

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