『Team383』

中澤日菜子さんの作品。

八時間耐久ママチャリカップに出場する5人の男女。彼らの年齢はみな70オーバーである。


七十代になってからも大会に向けてみんなで頑張る姿が、とても良いと感じた。

菊雄のエピソードが一番印象に残っている。家族の不幸が続いて結婚式を挙げられなかったというのが、とても可哀想だと感じた。

困った時に助けてもらえる関係性というのは、重要だと感じた。

印象に残っている文

しまった! 葉介はくちびるを噛む。筋トレやストレッチ中に思わず出てしまう声が、じつは家族にまる聞こえだったなんて!

歳を取って。葉介は思う。いろんなものを失ったとおれは感じてきた。免許、仕事、体力、その他数知れぬほどのものを。そしてひとを。けれども、失うばかりじゃない。失ったからこそ得ることのできたもの。捨てたからこそ見えてくる新しい風景。そういうものだってあるんだ、人生には。

「ええ、本当によくお似合いです」紅子と担当の女性が口をそろえて褒めたたえる。だが菊雄には「白いドレスを着た幽霊」にしか見えない。

「父さん。父さんは昔から下手だったよね、ひとに甘えるのが。確かに甘えることは頑張ることより難しいかもしれない。でもさ……人生には甘えなきゃいけないときもあるんじゃないかな。若輩者のおれがいうことじゃないかもしれないけど、さ」

殺陣というとふつうの人間は本気の斬り合いを想像するかもしれない。だが殺陣は武道ではない。剣技がより美しくより効果的に映るよう工夫を凝らした一種の舞踊に近い。だから舞踊の振り付けと同様、俳優は手順を完璧にこなさねばならない。ひとり間違えればすべての手順が狂う。狂うだけならまだしも最悪の場合怪我を負う危険も伴う。

世間というやつは「変わったもの」に容赦がない。じぶんたちとは違う、その差異に敏感に反応し、ときに同情し憐みのまなざしを投げ、ときに思いがけぬ「攻撃」を仕掛けて来る。厚意と敵意は表裏一体だ。ちょっとしたバランスでどちらにでも簡単にひっくり返る。

「『いかに生きるか』に正解なんてない。あるのは過程だけだ。過ぎてゆく一日いちにちがあるだけだ。けんめいに生きて、その生きた日々そのものが事実であり『正解』なんだ。大事なのは、現在。いまだけ、なんだよ」

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