『吉祥寺の朝日奈くん』


中田永一さんの作品。以下の話が収録されている。

交換日記はじめました!

ラクガキをめぐる冒険

三角形はこわさないでおく

うるさいおなか

吉祥寺の朝日奈くん

「交換日記」と「ラクガキをめぐる冒険」と「吉祥寺の朝日奈くん」は、どれも真相が意外だった。特に「ラクガキをめぐる冒険」の最後が良いと思った。「三角形はこわさないでおく」はこの3人でないと成り立たない関係だと思った。3人がそれぞれ気まずくならなくて良かった。「うるさいおなか」は設定がとても面白いと思った。

印象に残っている文

大学のキャンパスには、おしゃれな女の子とおしゃれな男の子が【つがい】を形成して晴天の下を闊歩しており、ベンチにならんでこしかけて人体の境界があいまいになるくらい接近してかたらっている。

数学、と耳にするだけで、星野という教師の顔がうかんできて、胸がどんよりとしてくる。同時に食欲も失せる。星野式ダイエットという本の出版を検討すべきだとおもう。

白鳥という苗字はハードルが高いとおもう。本人と比較したとき、いわゆる名前負けしてしまいそうだ。

「さあ、わからないんだ。なにか、具体的な、理由のようなものがあれば、よかったのだが。僕は、その理由に対して、自分でいろいろな反論をこころみて、おちつくことができただろう。たぶん、ちいさな瞬間のつみかさねが、たとえば、あの日に見た横顔や、発した言葉や、かもしだされていた雰囲気の、総体的なものの印象が、じわじわと、ボディブローのように、効いたんじゃないかな」

「いや、いいよ。女子におこられるのは、好きだ」「ほんとうですか?」「ああ。屋上で、馬鹿、と言って走り去られるのは、わるくない。ああいうシチュエーションは良い。もっと、しかられたかったくらいだ」

「人間の肉体ってやつは、まるで楽器みたいだよね。ねえ、高山さんも、そうおもわない?人体はいつも、音楽を演奏してるんだなって」

螺旋階段をグランドピアノが落ちていくような音。暗闇にひそんでじっとしている虎や龍のような音。鳩の鳴き声や、深海のような音。

結婚とは契約である。男女が夫婦の関係になり、社会的、経済的に結びつくことである。

親戚や友人を大勢あつめて、お金をかけて盛大に祝ってしまったら、もしもわかれたくなったとしてもら決心するのはむずかしいのではないか。披露宴で祝福してくれた人たちへの申し訳なさで、離婚するのはもうちょっとかんがえてからにしよう、などとおもいとどまるのではないか。

結婚という契約は、ある意味、血と血が混じりあうことを、許されるということなのかもしれない。

東京の街をながれて、歌にもなっている神田川の水源が、井の頭公園の池であることを、しっている人はすくない。

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