『感情8号線』

畑野智美さんの作品。

荻窪、八幡山、千歳船橋、二子玉川、上野毛、田園調布という名前の話が収録されている。


「荻窪」の真希の立場としては、ラストで動揺する気持ちに共感した。こういう時はどのようにすれば気持ちを整理できるのだろうか?

「田園調布」では、最後に麻夕が前向きな気持ちになれたことが嬉しかった。

タイトルの付け方がすごいと思った。


印象に残っている文

貫ちゃんの明るさや優しさはもちろん好きだけど、こうして一緒にいる時に楽しいと感じるから好きになった。この楽しさは他の人では感じられない。二人でいる時間は格別で大切だった。

二十三歳というのは恋愛の状況が一番ばらつく年齢の気がする。中学生の時は、付き合ったことがある人の方が少なかった。高校生になったら、みんな一人か二人くらいは付き合ったことがあると変わるが、誰とも付き合ったことがないという人もまだ多くいる。高校を卒業したら、彼氏彼女がいるのが当然のようになる。そこから徐々にばらついていく。

中央線沿いは演劇をやる人にとって、天国でもあり地獄でもある。みんな仲間で楽しいという天国にいながら、世間の常識から外れていき、社会に戻れなくなる。気がつけば、永遠にこのままという地獄に堕ちている。

それなのに、今は胸の中に不安しかない。不安に思うことなんて一つもないはずなのに、桜の花びらが地面に積もるように、私の胸の中にも静かに不安の欠片が積もっていく。具体的に何が心配とか、何に困っているとかいうことはなくて、ただ不安としか言いようがない。

つまらないことを指摘して、場の空気を壊すような態度は誰も取らなかった。適度にお酒を飲み、相手の話に相槌を打ち、自分の考えを主張しない。全員が同窓会に対して、距離を取っていた。高校生の時は目立っていることが勝者だったけれど、同窓会では大人の振る舞いをして目立たないことが勝者だ。

自分で作ったごはんを自分だけで食べるうちに、世界が狭くなっていく気がする。自分のしっぽを追ってクルクル回りつづける犬になったような気分になる。

誰かを好きになれば、人は変わっていく。でも、それがいい変化とは限らなくて、大人になるということとは違う気がする。


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