『泣いたらアカンで通天閣』

坂井希久子さんの作品。

大阪の新世界で暮らす父親のゲンコと娘のセンコの物語。


ゲンコとセンコのやり取りがとても面白かった。

雅人が銀行を辞めて、昔のラーメンの味を追求しはじめるのも面白かった。

スルメ少年の家庭の事情を知って、悲しくなった。


印象に残っている文

だがこの町での生活は、ただ飯を食って寝ればいいというものではない。粘っこいお節介を受け入れる一方で、なんらかの献身が求められる、小さくて面倒臭い世界だ。新顔が入ってくると、町の人は冷静に観察する。相手の度量や、人情といったものを。この町による無言の審査に合格しないかぎり、彼らは一生「生活者」にはなれないのだ。

賢悟がしつこいのは、どうやら心配されているらしいと気がついた。家のことにかまけて自分の幸せをおろそかにするなと、まっすぐに言えない男の照れ隠しだ。

そういえば高いところにのぼったとき、せっかく天に近づけたというのにどうして人は、上ではなくて下を見るのだろう。人が大勢ひしめいている、悲しみの多い俗世間を。

深刻ぶるのが似合わん町だ。よく知った顔とその日暮らしの人々がひしめき合って、九八パーセントくらいがうさん臭さで構成されている。残りの二パーセント程度がたぶん、温かさや懐かしさといった、なんだかちょっとよいものだ。

高野豆腐は簡単そうに見えて、キシキシの食感にならずに炊くのは難しい。

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