『ひとり日和』

青山七恵さんの作品。

21歳の知寿が遠い親戚である71歳の吟子さんと東京で一緒に暮らす物語。

吟子さんの本名が荻野吟子という名前であると知ったときは、日本初の女性医師である荻野吟子さんのお話かと勘違いしていた。

吟子さんの言葉がグッと心に刺さる。吟子さんのような人と同居生活ができて、知寿にとって本当に良かったと思った。


印象に残っている文

記念写真を撮るような気持ちで、床に落ちていたり、机に放置されているそれらの小物を制服のポケットに忍ばせる。盗んでいるわけではない、回収しているだけだ、と思い込んで、罪悪感を消す。誰も気付かない、ということがいっそう快感だった。同時に、どうしてこんなに皆が不注意なのか、腹立たしくさえあった。

「あたし、今のうちに、むなしさを使い切りたい。老人になったときにむなしくならないように」「知寿ちゃん、若いうちにそんなの使い切ったらだめよ。楽しいのばっかりとっておいたら、歳とったとき、死ぬのが嫌になるよ」

体育座りをしたふくらはぎと太もものあいだが汗でじっとり湿る。その隙間に手を挟んで、そうっと抜いていく、というようなことをわたしは一人繰り返していた。

「型からはみ出たところが人間。はみ出たところが本当の自分」

「あと、人間て変わる、ってことかね。それも、変わってほしくないところが。で、変わってほしいところは変わらないよね。それが逆になる知恵を知りたいんだけどね」

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