『神の悪手』

芦沢央さんの作品。

弱い者、神の悪手、ミイラ、盤上の糸、恩返しといった5つの話が収録されている。


「弱い者」の真相に驚いた。今後の2人の未来が見たいと感じた。

「ミイラ」が一番印象に残っている。

詰将棋を作るというのは、とてつもなく高度な技術が必要なのだと学んだ。

一つしか答えを出せないようにするというのが、難しそうだと感じた。


印象に残っている文

ただし、女流棋士と棋士とでは、レベルが格段に違う。女流棋士のトップでも奨励会に入れば三段まで上がるのがやっとで、いまだ女性で棋士になった人間はいないのだ。

「よろしくお願いします」と「負けました」は、絶対にきちんと口にしなければならない。特に負けたときにそれを自ら認める言葉を口にするのは、悔しく屈辱的だからこそ、欠かしてはならない儀式なのだった。

負けましたと口にするたびに、少しずつ自分が殺されていくのを感じた。費やしてきた時間、正しいと信じて選び取ったこと、自分を自分たらしめるものが、剥ぎ取られていった。

これまでの対局の中で、この手を指してくれと願うことはほとんどなかった。こう指さないでくれ、と考える手をこそ相手は指してくるものだからだ。緩い手を指せば、必ずそこを咎められる。相手のミスを祈ることほど愚かなことはない。

運命を分ける瞬間は、多くの場合、過ぎた後にあのときがそうだったのだとわかる。

一般的に、棋士のピークは二十代半ばから三十代前半にあると言われている。体力、記憶力、経験、判断力がバランスよく揃う時期だからだ。

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