『ひとりぼっちのあいつ』

伊岡瞬さんの作品。

不思議な力で人と上手く関われなくなった大里春輝と、上手く行かないことが多い宮本楓太の物語。


変わっていた尚彦の言動を知って、とても見ていられなかった。

春輝は勝手にテレビに騒がれてかわいそうだと感じた。

田崎さんのことは正直疑っていたので、楓太の気持ちがよく分かった。

最後の場面を入れてくれた作者に、とても感謝している。


印象に残っている文

「こんな町、うんざり。ねえ春輝、バブルって知ってる?」「知らない」「東京の女の人は、全員がヴィトンとかグッチとか持ってティファニーのオープンハートを着けてるんだって。わかる? 道歩いている人、全員だよ」

ミニバスケには独特のルールがある。「少なくとも十人以上の選手が、一定時間は試合に出場する」というものだ。小学生のやるスポーツだから、なるべく出場の機会を与えようということらしい。

春輝が着替えている途中、ふと気配を感じて振り向くと、大輔が目を細めてこちらを睨んでいた。急に、胃のあたりに、こんにゃくを丸呑みしたような変な感じがしてきた。

宮本楓太には、人に自慢できるほどの規則正しい習慣はなかったが、月曜の朝にベッドの中で身もだえすることだけは、ここ二年ほど欠かしたことがない。

特別豪華な椅子ではないが、右も左もわからない映画館でようやく自分の座るシートがみつかったような、尚彦と親しくなったときとはまた違った心の温かみを覚えた。

「ローマだかギリシャの英雄が、引き返せない川を渡ることをなんて言いましたっけ」「ルビコン川のこと? カエサルが自分の軍勢をつれてローマに戻るとき渡った川でしょ。後戻りできないっていう意味で使う」

中学一年の春に机を並べて座ったあの瞬間から、春輝はただの一度も彼女に逆らったことはない。

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