『彼女の家計簿』

原田ひ香さんの作品。

シングルマザーの里里のもとへ古い家計簿が届く。それは里里の祖母である加寿がつけたものであった。やがて家計簿を保管していた晴美とも関わっていき、祖母の人生について知っていく。


女性の立場が現代とはかなり異なっている状況で、加寿の苦しみは計り知れない。どれだけ悩んだのだろう。働きたいと思っても続けられない。

加寿が心中したという謎が最後に明らかになってよかった。

NPO法人「夕顔ネット」は、素晴らしい団体だと思った。


印象に残っている文

顔を見ると「ママー」と近づいてきて、抱きついた。この一瞬なのだ。啓が柔らかく温かみのある小さな体で里里を抱きしめる、この時のためにあたしは働いている、と思う。どんなことをしてもこの子を守りたい。

その感情は、密かなリトマス試験紙となっていた。

「したいことがなかったら、したくないことを考えてもいいの。これだけはしたくないってことを話していたら、したいことが見えてくることもあるのよ」

「子供たちは皆わかっているのだ。私たちよりわかっているのだ。その子らに、お国のために辛抱、と言うことのつらさ」

相談……そうだ、その言葉は、男女を簡単に近づかせる。

「ねえ、考えたこと、ない? もしも子供がいなくなったら。会えなくなったら。それもひどく叱ったり、きついことを言ったあと、別れ別れになったら……私はあれから何度も考えた。それは体が震えるほどの恐怖だった。もちろん、子供を叱らないわけにはいかない。けれど、私はなにかあっても悔いのないように接することを気を付けるようになった。それは、加寿さんのおかげよ」

今はいなくても、いつか誰かがわかってくれるだろう。そんな時代が、きっと来る。


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