『海の見える街』

畑野智美さんの作品。

海の見える街の図書館と児童館で働く職員の物語。

日野さんと弟の漫画の管理の仕方が、面白いと感じた。

松田さんが山崎さんにきちんと叱った場面が、とても良かった。

最後の場面が個人的に、とても嬉しかった。今後の続きが気になるところだ。


印象に残っている文

言うべきことは分かっているのに、言葉が出なくなる。彼女がどういう環境で生きてきたかは知らないが、きっと僕とは違う価値観で生きてきた子なんだ。日野さんや子供達には通じる言葉が全く通じない。同じように春香ちゃんの言葉も僕には通じない。

前に言ったら、仕事帰りに待ち伏せされて駅前にある居酒屋で二時間半かけて、ロリコンの歴史から最近の子役の魅力まで解説された。普段は海外文学なんて読まないくせに、ナボコフについて語っていて、友達やめようかなと思った。

階段の前で大きな荷物を両手いっぱいに持った春香ちゃんが待っていた。プリティ・ウーマンのジュリア・ロバーツみたいになっている。

「かわいい格好したり、お化粧したりしようよ。図書館に話合う友達いないんだもん」「ああ、そういうことですか」同じようなことを友達に言われたことがある。自分達の方がかわいくてセンスがいいと思っている余裕の言葉だ。

女の子のいじめは男の子みたいにはっきりとしていない。

学童の子供達は母親に仕事を休ませるのを気まずく感じてしまう傾向があり、体調が悪くても言い出せずにいることが多い。みんなと遊んでいても元気がなくて、おかしいなと思って熱を測らせて高い熱があるのが分かると、やっと頭が痛いとかお腹が痛いとか言ってくれる。

自転車を押す本田さんと並んで歩き、坂を下る。黙って隣にいると、この人に会えて良かったなと思う気持ちで、胸がいっぱいになる。胸の中に風船があるような感じがして、それがふわりとふくらむ。ふくらみすぎて苦しくなっても、止まらずに大きくなる。本田さんの優しさも、気の弱さも、たまに見せる強情さも、その気持ちに触れられるだけで幸せだった。

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