『タクジョ』


小野寺史宜さんの作品。

大卒新人でタクシー運転手をしている夏子の物語。

タクシーは営業区域でしか営業できないことを初めて知った。私は今まで女性のタクシー運転手に出会ったことがない。もし出会ったら「珍しいな」と思うだろう。タクシー運転手を題材にしたものとして、荻原浩さんの『あの日にドライブ』もあるが、小野寺さんの作品もとても面白かった。

ドライブレコーダーがない時代には、もっとタクシー強盗や「駕籠抜け」で泣き寝入りしたタクシー運転手がいたのだと思う。


印象に残っている文

わたしは隔日の女。

やっぱり東京はすごい。大きな通りを流してれば、手は挙がるのだ。特に千代田区と中央区と港区は強い。

走れるのは一日三百六十五キロまで、と決められてもいる。

一人でやれる仕事はいい。本当にそう思う。もちろん、そこは会社員。すべてを一人でやれるわけではない。縛りもある。でも現場では一人。あそこに行ってみよう、またここに戻ってみよう。そういうことはすべて自分で決められる。楽しい。たまにはいやな思いをすることもあるが、それはどの仕事でも同じだろう。

不規則も規則的に続けばいつしか規則になる。規則的に不規則ならそれはもう規則。そういうことだろう。

人はそう簡単に変わらない。変わる必要も、そんなにはない。むしろ、変わろうと思って簡単に変われるような人をわたしは信用しない。

人それぞれに事情がある。みんな、大変なのだ。わたしなんて楽なほうだろう。いやぁ、夜働くから大変大変、なんて言ってればいいのだから。人は大変アピールをしてるうちはまだ余裕がある、ということかもしれない。

好きな映画は何ですか? という質問は、どこかタブーとされるようなとこがある。訊かれた側が何かを試されてる感じになってしまうのだ。

タクシーにはそれもある。一対一。サービスの提供者と利用客。時間。三つがそろってしまう。だから、結婚してんの? が出やすくなる。

↑に納得した。

「何か見てるとすぐに声をかけてくるお店もあるじゃないですか。もうちょっと見てからにしてって思いますよ。用があったら声をかけますから、逃げたりはしませんからって。と言いつつ、買わないときは逃げちゃうんですけど」

「父親が娘に会いたくないわけがない。僕も娘がいるからわかるよ。何歳になっても、娘はかわいくてたまらない。」

「嫌いではなくてもうまくいかない。そういうことも、あるんだな」

「ほかの鉄道との接続がない終着駅って、東京メトロだと、丸の内線の方南町とここだけなんだって」

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