『人は思い出にのみ嫉妬する』

辻仁成さんの作品。

浄水器の販売会社で働く栞は、水質学者の戸田さんに恋をする。しかし、戸田さんはかつての恋人で今は亡き愛麗のことを思い出すようで…。


栞からすれば、戸田さんが愛麗のことを思い出してほしくないわけではないが、かなり複雑な気分になると思う。

安東君と触れ合った時に、栞の水アレルギーが出なかったのはなぜだろうと感じた。

この話のモデルがいるとは思わなかった。


印象に残っている文

「愛し過ぎるということは、愛していないことと一緒よ」と私は彼女を窘めた。

「キスしたり、抱き合っているのだから、十分に愛し合っているのは自明でしょ? なのに、それを言葉にするとさ、愛しているなんて安直な言葉なんかで表現したりすると、本当は愛し合っていないことを誤魔化しているように感じたりしない?」

人は人に嫉妬するのではない。思い出にのみ嫉妬する動物なのだ。

思い出は厄介だが、人間が死ぬまで持ちつづけることの出来る宝物でもある。

「植物状態の患者さんによく起こる現象です。残念ながら、意思で動いているのではありません。ドアの閉まる音や、呼びかけなどに、肉体の一部が勝手に反応を示すのです。反射神経の悪戯だと思ってもらえるといいでしょう」


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