『夏をなくした少年たち』

生馬直樹さんの作品。
小学校で集まる機会の多かった4人組の拓海と啓、雪丸、国実。夏の思い出に国実の妹の智里も加えた5人で山へ向かった。ところが、智里が亡くなっている状態で発見される。

ずっと胸に苦しいものを抱えながら過ごしていくのは、とても嫌だと思う。ただ、最後に久しぶりに4人がつながったことが嬉しかった。
智里を連れて行くと不機嫌になる雪丸だったが、彼の言い分もよく分かる。
聖剣が啓の母親に恨みを抱いた理由を知って、とても可哀想だと感じた。

印象に残っている文

「まさか」彼は肩をすくめた。嘘をついたのは、この事件をひとりで解決することをすでに決めていたからだろう。

僕は困惑する。ときどき啓と話していると、彼はいきなり速度をあげることがある。それは人間的な成長速度、あるいは人生の進行速度のように思えてならない。彼はいつも僕の先を歩いているのだ。そして、その距離がひらけばひらくほど僕は不安になる。伸びすぎたゴムがやがてちぎれるように、この距離がふたりのあいだに取り返しのつかない亀裂を生むのではないか、と。

雪丸が嫌だったのは智里ではなく、智里を優先することで生じる、仲間内での遊びに対する感覚のズレだったのだ。

「誰にだってプライドがあります。見せたくない弱みもあるでしょう。さらしたくない痛みもあるでしょう。それを、なんの必要もないのに、ただ自分が気にくわないから、すっきりしないから、という浅はかな理由で、意地悪にあばこうとしてはいけないんです」


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