『ストーリー・セラー』

有川ひろさんの作品。


SideAとSideBからなる二人の男女の物語である。SideAでは女性が病気になってしまい、SideBでは男性が病気になってしまう。個人的には、SideBの方が好きである。考えるごとに寿命が縮まるというのは、考えるだけで恐ろしいことだと思う。もしこの病気になってしまったら、余計なことをたくさん考えてしまって、すぐに寿命が縮まってしまうだろう。読んでいて、2人はとても素敵な夫婦だと思った。


印象に残っている文

「劣化するのは『生命を維持するために必要な脳の領域』だそうだ。ーーつまり、君は思考することと引き替えに寿命を失っていく」

「君は翼を持ってるよ。俺は君が飛んでるところを見てみたい」

「あんたの娘かもしれない。でも俺の妻です。ーー俺の妻を侮辱するなら殴ります。たかが数万、おばあちゃんを安全に送迎するためのお金を惜しんで難癖をつけるあなたは尊敬できる義父ではありませんから、容赦はしません」

「俺は君を甘やかすのが好きなの。君を甘やかすのが俺の人生の目標と言っても過言じゃないね。どうだ、嬉しいか」

男が絶対的に得をしている、と思うポイントが日常に二つある。冠婚葬祭と会社勤めだ。冠婚葬祭はオールラウンド礼服で済むし、会社もスーツを着ていれば取り敢えず格好がつく。女は内勤で制服があっても通勤は私服にならざるを得ない。

「病院のお弁当だけあって体によさそうよね」旨くない、の婉曲表現だ。

「そんなの当たり前でしょ。俺、生きてるんだから。あのね、人間が無条件に優しくなれるのは相手がホントに死人の箱に片足突っ込んでからなの。何でも我慢できるようになるのは、相手がホントにこれから死ぬってことが目の前にぶら下がってからなの。人間は生きてたら絶対些細なことで喧嘩すんの。些細なことで喧嘩してるうちは、死がまだ現実じゃないってことだよ」

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