『静かなノモンハン』


伊藤桂一さんの作品。

終戦記念日が近づいているということで、戦争関連の本を読むことにした。


「あの稜線へ」

「小指の持つ意味」

「背嚢が呼ぶ」

の3つの話から成り立っている。


実際に戦争を経験していないので分からないことがたくさんある。

自分が戦場でいつ死ぬかわからない状態。

食べ物がなくなってしまい、極限状態の飢え。

次々と仲間が亡くなっていくときの心理。

相手を殺すときの心理。


亡くなった兵士の小指を持って帰るという行為がとても悲しいと思った。



印象に残っている文

軍隊というのは、行先を、なにも教えてくれないのです。ただ、引率者について、黙々と歩んで行くのみです。

遺書を書いておけ、爪や髪も切って残しておけ、という示達が出ましたが、遺書を書こうにも、なにを書いたらよいのか、考えても書くことがありませんでした。

これはふしぎな心理なのですが、被弾した者に近寄ると、自分も被弾しそうな、ある怯えの情が働くのか、だれもが、負傷者からは遠のいて、先へ進もうとするのです。

(これで、ひとまずは生きられるかもしれない)と、だれもが安堵していたはずです。ひとまず、と申しますのは、生きのびられたら、再びまたこの前線へ出てきて戦う、という意味です。

敵機の爆撃にさらされている危険よりも、私には、この、戦線離脱についての悩みのほうが、よほど大きく気になっていました。

軍隊は、いったん戦死という公報を出してしまいますと、それを取り消すことを甚だ嫌い、むしろ、本人を闇から闇に葬ってしまうことを考えたりします。

「どこの壕もそうだが、足の踏み場もなく、かさなり合うようにして寝ていたかと思うと、じきに隙間ばかりできて、どの壕も楽に寝られるようになる。みるまに人員が減ってゆくのだからな」

むしろ、弾丸に追われて走っているほうが、安心感があるのです。

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