『長いお別れ』

中島京子さんの作品。かつて中学校の校長や図書館の館長を務めた東昇平。昇平は認知症にかかってしまい、妻や娘に助けられていく。

昇平の親友の中村が亡くなってしまった時に、亡くなったことに気づかないでハギワラとマツモトを困らせるシーンが面白かった。

網膜の手術をしたあとは、いかにうつ伏せでいられるかというのが大事ということを初めて知った。

途中のメリーゴーラウンドに乗りたがった姉妹や、消えた入れ歯の行方などの話も挿入されていて、心が温かくなった。

印象に残っている文

「お父さん、知らない人が相手だと、カッコつけるの。上手に調子合わせるから、わかってないことがバレなかったりするの」

たしかにメグ・ライアンの出ているラブコメ映画などではよくあるシーンだったが、アメリカであれどこであれ「誰も気にしない」かどうかは疑問だった。

それとは別に茉莉はここ数日、なんとなく居心地が悪い。夫が妙に優しく、情熱的になっているせいで、妻たる女なら誰でも持っている警戒心が危険信号を発しているのだ。

成人した娘にありがちなことだが、芙美も東京都内にある実家の一室をトランクルームのように使っていて、季節ごとに使わない服を持ち込んでいる。

「やあね、先生に聞いといてくれなかったの? いまわたしの目の中、ガス入ってんの。その気圧でもって修理した網膜を押さえつけてくっつけるのよ。うつぶせになってれば、ガスは上に溜まって網膜を押すわけ。上向いちゃうと、ガスは眼底を押さなくなって、意味がないわけ。ガスは入れたときは一〇〇パーセントだけど、だんだん抜けていくから、ガスがめいっぱい入ってる間に、しっかりうつぶせになって、網膜をくっつけなきゃいけないの。最初の三日が勝負だって聞いたわ」

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