『賞金稼ぎスリーサム! 二重拘束のアリア』

川瀬七緒さんの作品。川瀬さんの作品は初めて読む。

日本初の刑事事件専門調査会社「チーム・トラッカー」を立ち上げた藪下、淳太郎、一花。

彼らは3年半前に起きた夫婦相討ち事件の遺族から、事件の真相を知りたいと依頼された。


淳太郎が公園にいるお母さんたちのところへ行って、目的を果たすシーンがすごいと思った。

一花が子どもたちに弱肉強食の基礎を教えている場面が面白かった。

藪下の父と淳太郎の関係性がとても意外だった。

ある人物の第一印象は少し変わった人くらいだと思ったが、本性を知って怖いと思った。


印象に残っている文

「経産省によれば、新たに設立された会社や個人事業の一年生存率は七十二パーセント。五年の生存率は四十パーセントです。実際はもっと低いはずですね。これは、事業計画が甘くて見切り発車をしているせいでしょう。あとは資金不足です」

一花が過酷な狩猟で経験しているひとつひとつが、ふとしたときに言霊として発せられていく。経験に裏打ちされた言葉は何者も寄せつけないほど強い。こういうのを見るたび、この女にはかなわないと痛感させられるのだった。

家の中の空気はひんやりとして、カビのような錆のような腐葉土のような、なんとも形容し難い不快な臭いで満たされている。これは忘れたくても忘れられない臭いだ。藪下は革靴を脱ぎ、脇目も振らずにリビングへ行った。時間が経った殺人現場というのは、徹底的に掃除をしてもこんな臭気がこびりついて空気をよどませる。

「猟で獲物を仕留め損ねたとき、動物は最後の抵抗を見せて暴れまわります。とどめを刺すときが猟ではもっとも危険で、死人が出るのもこの場面がいちばん多い。全身の細胞が、目の前の敵を殺すことだけに動く。本能は極限状態に一気に目覚めるものです」

淳太郎と一花だけでも胃もたれをおこしそうなほどだというのに、そのうえこんなやつまで相手にはしていられない。

「おまわりでも病むやつは多い。要は被害者に取り込まれちまうんだな。調査で見聞きした苦しみを自分のものとして考えるようになったら要注意だ。距離を間違えてる」

「苦労して今の地位を築いた女性に多いんですが、見た目のいい男女を敬遠する傾向にある。なんの苦労もせずに、見た目だけで世渡りしている無能だという先入観をもってしまいがちですからね。まあ、このタイプには泥臭さを見せることが有効です。高確率でギャップには弱いはずですから」

「エレシバターをふんだんに使っていますね。フランス中西部にある村が産地で、EUの認定を受けて保護されているバターです。ミシュランに載るような店ではよく使われていますが、普通のパン屋ではあまり見かけません」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?