『雪の香り』

塩田武士さんの作品。

新聞記者の恭平は、捜査情報の中に12年前に失踪した学生時代の恋人である雪乃の名前を見つける。


雪乃が正岡子規の写真について意見を述べるシーンが面白かった。

民宿の夜ごはんの際にレンジの音がたくさん鳴っていると思ったら鈴だったのが面白かった。

一番面白いTシャツを2人で探す場面が、とても面白かった。

図書館のビデオを2人で鑑賞するシーンが最高だった。


印象に残っている文

「盆地の気候は厳しいと嘆くのはルール違反だ。過酷だからこそ、美しい自然が磨かれる。四季だけでなく、人間だってメリハリのきいている方がいい」つい先日、そんなふざけた文章を書いた気がする。雑誌に載った気がする。撤回しようと思う。

言わずもがなだが、サツ回りは激務だ。午前中は夕刊締切まで発生警戒をし、午後は街ネタ。時間に関係なく地裁支部の裁判が入るケースもあり、基本的に暇がない。無責任を自認している割には、まめに夜討ち朝駆けもこなすため、自ずと睡眠時間が削られる。

男の友情とは歪んだもので、仲良くなるほどけなし合いが心地よくなる。

二人の間では、メモは存在しないことになっている。「情報漏洩の事実はない」その体面を守ることこそが、サツ官とブン屋の信頼関係の証だ。

マル監とは監察ネタのことだ。いわゆる警察の不祥事に当たるネタを指し、身内の不利になることなので俄然口が堅くなる。情報を仕入れにくいという点と社会的意義が大きい点で、マル監を抜くことは記者にとっても名誉なことなのだ。

普段の取材は課長以下の署員を回るが、特ダネの記事を出す前は署長、もしくは副署長に事前連絡する。新聞記者はこれを「仁義を切る」という言葉とともに、後輩に伝えていく。

「目ぇ閉じて、向こうの石までたどり着いたらええねんな?」「そうや」「ほんまやったら、目ぇつむらなあかんのは、スケベおやじの方やねんけどな」「おまえなんか、全然ちゃう方向に行ったらええんや。そのまま滋賀まで行け」

「風鈴の音って、電話で聞こえへんの知ってる?」

つらいと分かっていても、人は記憶の中で息づく景色や音色を追い求め、孤独と悲しみの中に身を置こうとする。

それからは額をぶつけ合う魚や縄張り争いをするカエルなど、今後いかに役立てようか困惑する映像を鑑賞し、お経を聞くより苦しい時間を味わった。イソギンチャク以来、早送りをしなくなったのは、借金を回収できなかった俺への意趣返しなのかもしれない。


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