『本のエンドロール』

安藤祐介さんの作品。

印刷会社の営業の浦本と、工場で働く野末が視点となって物語が進んでいく。


現場と営業で温度差があると大変そうだと感じた。

相手の注文を頑張って受けざるをえない場面もあるので、良いものをつくっていくことと本を完成させることのバランスが難しいと感じた。

一度製本したものにミスがあった場面が印象に残っている。

この作品を読んだことがきっかけで、本の奥付を読むようになった。


印象に残っている文

印刷会社は決められたものを刷って複製するだけではない。物語に“本”という身体を授け、お似合いの服を着せて世に送り出すのだ。

一方で、CMYKの刷り重ねで表現しきれない色は特色と呼ばれ、職人の手によってインキや金・銀・パールの金属粉などを混ぜ合わせて作られる。

無力感にさいなまれ、なんとかしようともがく時、つい無茶をしてしまう。寝食の時間をむやみに削って仕事したり、彼のように一枚でも多くの紙を持ち上げようと躍起になったり。

「印刷会社は本の助産師みたいな仕事だと思っています。物語は本という身体を得て世に生まれてきます。生まれてくる時のお手伝いをする私たちは、本の助産師じゃないかと。だから、数え切れないほど多くの出産に立ち会える」

誤字のあるページを根元から切り、修正後のページを新たに継ぎ足す“一丁切り替え”。本の小口に凹凸が生じないよう、緻密な作業を要する。

ペーパーバックは簡易製本の書籍だ。本文用紙は安い更紙、表紙はカバー無し、見返しも別丁扉も付けずに作られるため、自ずと販売価格は安くなる。

「印刷会社にできることは、より良い本を造ることだと思う。でも良い本って何だろうと考えると、答えはひとつではない。必ずしも格好いいとか、造りがしっかりしているとかだけではないって、教えられた気がする」

もっとも、人が会社を辞めるのはいつだって突然のことだ。突然言い出して、突然去ってゆく。

たとえ転職でなくてもいい。この仕事をやっていてよかった。そう思える瞬間が日常の端々、所々にあればそれはきっと幸せなことだろう。

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