散歩

 その日は青い空が広がっていた。イッペーの花(和名はコガネノウゼン)は満開で、道端には、ハルノノゲシ、ハナイバナ、ヒルザキツキミソウの花も咲きはじめていた。モンシロチョウやツマベニチョウが、それらの花にとまっていた。

 彼はいつも北明治橋《きためいじばし》を渡って奥武山《おうのやま》公園を散歩する。彼はその日も、奥武山公園へ架かっているその橋を渡った。

 橋を渡っているとき、彼は国場川《こくばがわ》に浮かぶカヤックに気がついた。青と緑と黄色の三艘のカヤックが、川の上流からこちらの橋の方に向かって来ていた。

 彼は橋の欄干の前で立ち止まって、カヤックに乗っている人たちを眺めた。ピンク色のライフジャケットを着用した親子と思われる二人が、黄色いカヤックに一緒に乗っていた。父親と思しき中年の男性はカヤックの後部で、その娘と思しき小学校高学年くらいの女の子はカヤックの前部でパドルを漕いでいた。しばらく彼がその二人を眺めていると、女の子がパドルを漕ぐのをやめて、彼に手を振ってきた。彼は白い歯をこぼした。彼は女の子に手を振り返した。

 橋を渡りきったところで、彼は幼稚園児くらいの男の子、三人組とすれ違った。よく見ると、その三人の子の服には、顔をかたどったノカラムシの葉が付いていた。男の子AとBは顔をかたどったノカラムシの葉を胸に、男の子Cは背中に付けていた。その男の子Cの背中のそれが恐怖にかられているといった表情をしていたから、彼は声に出して笑ってしまいそうになった。とそこへ、体高一メートルくらいあるニワトリが現れた。女の子Aだ。女の子Aは、鼻、両頬、顎に、ハイビスカスの花びらをくっつけていた。彼女は両腕をばたつかせ、ニワトリの鳴き真似をしながら男の子三人組に襲いかかっていった。その大ニワトリから逃げる男の子Cの背中を見て、彼は吹き出した。

〈了〉