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谷間の百合 3月17日〜365日の香水

谷間の百合〜文学と学名
バルザックの長編小説le Lys dan la valleeを英訳するとlily of the valley、になって「谷間の百合」が日本語訳。
英語のlily of the valleyは植物では鈴蘭のことで、日本語の谷間の百合も鈴蘭の別名。
英語の方は学名のラテン語からきているそう。(ラテン語の谷、百合を意味する語が学名に含まれているそう)
ちなみにバルザックの方の谷間の百合は、鈴蘭のことではなく、田園世界の儚いヒロインを擬えたタイトルとのこと。フランス語で鈴蘭はmuguet(ミュゲ)。muguet de〜「〜の鈴蘭」というフランス香水は数多ある。
muguetは実は麝香〜ムスク(musk)の語源にもなっていて、鈴蘭の花のようにムスクも「強い香気」を持つことから、なのだ。

鈴蘭〜ミュゲmuguetの分人
ひとつの花に対して英語では学名から、フランス語では香りから、日本語では容姿から、それぞれ別のアプローチで名付けたことが面白い。
この花の持つ分人だろうか。
清楚で瑞々しいグリーン感を帯びた花香だけれど匂い立ちは強く持続性もある。
この香り自体にも強さ、軽さ、瑞々しさ、甘さ、いくつかの分人がある。

lily of the valley/ le galion/1950
ルガリオン(le galion)社はあのナポレオン一族の末裔が1930年に創業した老舗で今はアメリカ資本の企業。現在、このlily of the valleyも含め創業期の復刻がラインナップの中心になっている。
私のコレクションは元祖の1950年版で、透明感のあるシングルフローラル〜一種類の花の香りをテーマにした〜タイプ。
鈴蘭ーミュゲの香りには、微妙に異なるいろいろの側面があるのは先に書いた。
この香水はシンプルで尚且つ驚くほどミュゲの香りの清楚で儚げな部分だけを活かしている。
ミュゲはラストノートで調合によってはミルキーさを出すこともあるし、トップノートでジャスミン様のふくよかさを出すこともある。
そういう要素を出してこないのは、調香師が慎重にアコードをとった賜物と思える。なるほど、調香したのはポール・バシェ、ランバンのアルページュなどで知られている。もちろん、ミルキーさやジャスミンに通じるふくよかさもミュゲの魅力だから、良し悪しではない。
この香りの美しさはドビッシューの小組曲の小舟みたいだ。繊細でさりげなくて、しなやかで淡く情緒的。

香り、思い、呼吸。

3月17日がお誕生日のかた、記念日のかた、おめでとうございます。

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