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青い影 3月21日〜365日の香水

江の浦の青
写真家で現代アーティスト、骨董コレクターでもある杉本博司が設計した江の浦測候所を訪れた。
小田原にあるみかん山をまるごと買い取って、古墳時代か近現代まで、様々な遺跡や杉本博司の作品を壮大なランドスケープの中で楽しめる場所。
その日は、遠くの空から雨雲らしきものが押し寄せるように迫りつつあった。
それでも空も海も穏やかな青の濃淡を湛えていた。
太平洋と一体となる空、どちらが主体でどちらがその陰なのか、二つの青の関係。
その美しい青の色彩を浴びながら、今日の香水を思い出した。

忘れられた青
発売年を確認するのに情報量が豊富で信頼度の高いデーターベースをチェックしたところ、この香水「青い影~ombre bleue(オンブルブルウ)」のデータが検出されなかった。
ファッションハウスのジャンシャルルブロッソー(jean charles brosseau)からバラ色の影~ombre rose(オンブルローズ)が出て、その香調は「世界一優しい香水」としてブランドの名声を高めた。
オンブルブルウは、成功作との対比の中で登場した。
バラ色に対するブルー、優しいフローラルに対する強いフローラル、80年代の始まりと終わり、お嬢様に対する自立した女性・・・。
現在、「ombre~」と銘打ったラインがブランドからはシリーズ展開されている。そこに「ombre bleue L'orijinal」というものがラインアップされていたけれど、これは2023年版。
何故か、ハウスの香水史上、大切と思われる「青」が忘れられてしまったようだ。

ピカソの青
この香水に初めて触れた時、思い出したのがピカソの青青の時代の作品「シュミーズ姿の少女」だった。香水のパッケージのブルーがピカソの絵の背景のブルーを思い出させた。そして少女の白いシュミーズがオンブルブル―に用いられたジャスミン、ローズ、ユリ、ミュゲなどのホワイトフローラルを、トップで香るカーネーションが少女の横顔のシャープなラインを思わせたのだ。実は私も、ピカソの同じ絵をテーマに香りを創ってみたことがある。その時の習作の処方は現物としても記憶としても残っていない。
私は何を主香にしたのだろう。

ombre bleue/jean charles brosseau/ 1987
江の浦で思い出し、データベースでは忘れられていて、香りの体験を紐解けばピカソの「シュミーズ姿の少女」の時代、青について記憶と感覚が巡った。オンブルブルウの楽しい旅だった。
ピカソの絵を想起したと書いたように、オンブルブルウは確かに油彩のような質感を持っている。先行のオンブルローズが水彩のような質感であることと、これも対照的だ。
まだ風の少し冷たいうちに、装いたい。

香り、思い、呼吸。

3月21日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。


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