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【「鎌倉殿の13人」と「草燃える」比較がたり】上総広常を殺った男、梶原景時の胸の内が気になる

放送中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」と、同じ時代を描き1979年に放送された大河ドラマ「草燃える」を、ドラマの進行にそって役に立たない比較論をのたまうこのシリーズ。今回は4月放送分の第16話までを語ってみたい。

この間、大きな出来事といえば佐藤浩市演じる上総介広常惨殺の一件だろう。このタイミングでこの事件が描写されることはもちろん承知していたが、ここまで大々的に描かれ、令和時代の大河視聴者らを震撼させるに至るとは、予想だにしなかった。

ことの発端はその前の第14話で、源頼朝のライバルと言うべき木曽義仲討伐をめぐり出陣するかしないかで鎌倉の御家人同士が真っ二つに割れ、早くも鎌倉政権崩壊の危機が訪れた、という前置きがあった。この14話の事態に、自分は違和感を覚えた。というのも、頼朝の嫡男・万寿(のちの頼家)が生まれたこの時期に、クーデターまがいの出来事があったなど聞いたことがなかった。「草燃える」にもそんなエピソードはいっさい描かれていないし、本作のベースとされる「吾妻鏡」にもそんな記載はないようだ。つまり、この顛末は三谷幸喜のほぼオリジナルと想像される。彼が度々用いる「絶対なかったとは言えないだろう」論だ。かつて大河ドラマ「新選組!」で、近藤勇が坂本龍馬、桂小五郎と同席してそばを食うシーンがあったが、これと同じ理屈だろう。

とはいえ、創作事件ながらあまりに隙きがなく、各キャラクターによる絶妙な立ち回りなどもあり実に見ごたえのあるエピソードになったのは間違いない。この先の伏線も細かくばらまいてみせるなどの技も心憎い。

そして第15話。頼朝に異を唱える和田義盛、三浦義澄ら一派の取りまとめ役に上総介広常が名乗り出る。ただし、そこにはクーデターを防ごうとする北条義時との密約があった。そして、その裏には頼朝の最強ブレーン・大江広元によるエゲツないほどの「広常つぶし計画」があった。

ここでキーマンとして登場するのが中村獅童演じる梶原景時だ。景時には頼朝のスパイとしてクーデター派に潜り込もうとするが、逆に軟禁されてしまう。しかし、以前から心通じるところのある広常は景時を丁重に扱う。

チクリ魔と呼ぶなかれ

やがてクーデター派は万寿の祝い事に乗じて行動を開始するが、義時が間に入って制止。さらに畠山重忠の機転などが助けになり、衝突寸前で事なきを得る。しかし、鎌倉じゅうを巻き込んだ事件に何ら沙汰がないのはいかがなものかとの大江広元の進言を受け入れた頼朝は、クーデター派のリーダーとなった広常抹殺を言い渡す。その役を任されたのは景時だった。景時は広常に親しみを抱く私情を引っ込め、広常を双六(今で言うバックギャモン)に誘い、タイミングを図って誅殺する。広常の凄まじすぎる死に様もさることながら、広常を刺しなお冷静さを保とうとする景時の表情や、中村獅童の見事な演技に見入ってしまった。

なお、広常誅殺の顛末は「草燃える」でも描かれている。頼朝を差し置いて横柄に振る舞う広常(演じたのは悪役をやらせたら天下一品の小松方正)に業を煮やした景時(こちらも策謀者役がよく似合う江原真二郎)が、やはり双六の席で誅殺に及ぶ、という流れだった。同作ではまだこの時点で大江広元は鎌倉に着任しておらず、「鎌倉殿の〜」ほどのえげつなさはなかった。

そんな景時の存在感がさらに高まったのが、第16話だ。正直者過ぎた悲劇の男・木曽義仲を討ち、勢いに乗った源義経軍は、休むまもなく平家討伐のため一ノ谷の戦いに赴く。そこで、伝説の“鵯越の逆落とし”の一件が語られるわけだが、あまりに奇をてらう義経の作戦に、「草燃える」を含め従来の景時であれば敢然と異を唱えるはずが、「鎌倉殿の〜」では若干のズレはあるも、景時は義経の意見に基本的に同意している。

ただ、景時は義経と基本路線は同一なものの、義経のほうが一歩先が見えている。これに景時は嫉妬心を燃やすのである。そして、逆落とし作戦が実行され平家の本陣に襲いかかる義経の姿を目にした景時は「軍神だ」とつぶやく。まさしく軍略家だからこそ感じてしまう最大の嫉妬そのものだった。

果たしてこの先、義経との対立、頼朝亡き後の一族滅亡の顛末と、梶原景時という人物がどのような新解釈でえがかれ、新たな人物像が再構築されていくのか、楽しみは尽きない。


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