アニメ映画「二ノ国」は、一人の個性派声優の魅力を満喫するためなら意義ある一本だ。
先日公開されたアニメ映画「二ノ国」。ジブリ物に代表されるこの手の作品は個人的はあまり興味がわかないのだが、「ねとらぼ」で何本か関連記事を書いた絡みもあって、どんな映画に仕上がっているかが気になり、初日に見てきた(1100円で見られる日だったので)。
すでに何人かの映画ライターが書いたレビューをご覧になった方も多いと思うが、自分もその類にもれず、本作に対する評価は高いとは言えないというのが率直な感想だ。
複雑に広げすぎた脚本は細部を拾いきれず消化不良気味。作画はそれほど気になる印象はなかったが、戦闘シーンに挟み込まれてくる3Dの動きのぎこちなさは今どきのアニメ作品(テレビも含め)の水準としては全く褒められたものではない。
メインキャラのキャスティングも、客寄せばかりが先頭に立ってしまった感じが拭えない。特にヒロインの声(あえて名前は挙げない)は、キャラに合った声とは到底言えなかった。演じてのせいではない。演じ手にあったキャストを連れてこられなかった監督の見識不足ではないだろうか。
だが、そんな欠点ばかりが目立つ作品であっても、2時間もの尺を使った大作である以上、どこかに褒められる点があるはずだ。うん、確かにあった。それは、本職声優たちの名演技にほかならない。
異世界の騎士団長を演じた山寺宏一を筆頭に、宮野真守、梶裕貴、坂本真綾と、いずれも作品の質を引き上げるのに十分すぎる演技と言えた。伊武雅刀の久々の声優演技には舌を巻いた。
そんななかで、自分が最も惹かれたのが、ラスボスの声を演じた津田健次郎の声だ。
多くのアニメ作品で、癖のあるキャラを演じさせたら今や右に出る者はいない、それが津田健次郎という声優である。
その魅力に自分がはっきり気付くようになったのはここ1年の間だ。テレビアニメ「少女歌劇レヴュースタァライト」で、「わかります」が口癖の学院の謎の支配者“キリン”の異様な存在感は頭から離れない。直近では「魔王様、リトライ!」で主役の魔王を演じますますその不思議な魅力に磨きがかかりつつある。
そんな津田による、この上ない禍々しさをまとった悪役演技は、本作のもうひとりの悪役を演じた人気者・宮野真守をも霞ませるほどの存在感があった。
総合的エンターテイメントのかたまりである映画には、多面的な楽しみ方がある。一人の演者にスポットを当てて鑑賞するのもその一つだ。アニメ「二ノ国」は、今後しばらくアニメ界に欠かせなくなるであろう、津田健次郎という個性派声優の魅力を満喫するためと思うなら、チケットを買う動機としては十分だと、自分は強く思う。