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佐賀県に住んでます

 16年住んだ世田谷区から埼玉県の飯能市に移住して3年。今度はついに九州は佐賀県佐賀市に移住することになった。どうしても地方移住がしたかったわけではなくて、たまたまブルワーとしてビールがつくれる場所がそこであったというだけで、自分で場所を選んだわけではない。佐賀には一度2日間行ってみただけで、アパートも見もしないでWebの情報だけで決めた。自分でもかなり行き当たりばったりだったと思うけど、なんだかそんな気分だった。新しい事を始めてみたかったから、知らない場所に行くのも悪くないと思ったのだ。

 佐賀県どころか今までの人生で九州に足を踏み入れたのは初めてだ。全く縁がなかった。広告の仕事をしていた時には撮影で海外にはあちこち行ったけれども意外に国内は少なくて、関東を除けば北海道と青森、あとは石垣島くらいしか行ったことがない。プライベートで旅行をする習慣もあまりなかったし。

 ただ九州については東京に住む九州出身の友人たちから散々その魅力を聞かされてきた。やれ魚が美味いだとかいや鶏だとか豚だ牛だ馬だ酒だ焼酎だ美人だ情が厚いだと。まぁそんなに言うのなら一度くらい住んでみるのもいいかと思って軽い気持ちで来てみた。前回は家族3人での移住だったが、今回は娘はすでに都内で一人暮らしを始めていて妻は飯能に残ると言うので久しぶりに一人での生活となった。実は僕は一人暮らしはほとんどしたことがない。

 25歳で上京して念願の一人暮らしを始めたが、すぐに追って上京した妻と籍を入れて6畳一間のアパートで暮らし始めたのでわずか半年で自由な時間は終わってしまった。次に一人暮らしができたのは3年前に甲府にビール修行に行った2ヶ月間だけ。考えてみるとトータルで7ヶ月しかない。えー。自分でも驚いている。これじゃ一人暮らしに関しては全くのアマチュアじゃないか。

 まあそんな感じでほとんど予備知識もないままに佐賀県に来た。羽田から中国春秋航空が就航していて2時間弱で佐賀国際空港に着く。ネットで探すと8,000円ほどでチケットが手に入る。新幹線よりかなり速いし安い。8/29に引越業者と不動産屋に手配をしておいていざ佐賀に乗り込んだら佐賀県は前日から観測史上最大の大雨に見舞われ主要部は冠水していたのであった。
 
 それから出社するまでの4日間は雨が降り続く中、生活用品を買い揃えたり役所や金融機関の手続きを済ませたりと生活基盤を整えた。合間に有明海を見に行ったり、郷土の歴史を調べたり、スーパーやホームセンターを回ったりして、9月2日から仕事に行く。といってもまだブルワリーもなく、鉄工所が建っているブルワリーの予定地に当面は仮設の製麦実験施設を作ってモルティングの実験をしながらブルワリー開業に向けて準備することになる。開業は来年の春頃を目指しているがどうなるのだろう。

 そんな感じでひと月半。だんだんと生活のリズムがつかめてきたけれど、会社の事務所はある大手の大きな工場の中にあるので、作業服を着て出勤し、タイムカードを押すという、今まで殆ど経験したことがない状況にいて少し戸惑っている。今までいた広告業界というのはだいたいタイムカードもなかったしクリエイティブの人間は基本的に朝時間通りに来ないし、夜はいつまでも働くかと思えば昼間はどこかで資料探しとか言って街をふらふらしてるし、映画を観たり本屋に行ったりコーヒーを飲んだりしていても結果さえ出せば文句は言われないし、という世界だった。もちろん忙しいときは血尿が出るくらい忙しいのだけれど、ふだんの仕事は自分の裁量でいろいろ決められることが大きかった。あらためて僕は自由が好きなのだなぁと感じている。まぁ誰でもそうだと思うけどね。

 タイムカードを押してラジオ体操をし、朝礼をしてその日の作業指示があり、それぞれの現場に散っていく。僕はもう一人のブルワーと一緒にクルマで5分ほど走ったところの鉄工所の敷地にあるプレハブ小屋で、モルトをつくっている。大麦を水に浸し、1時間おきにざるにとって風を当ててはまた水に漬けるのを繰り返し、発芽を促して3日めくらいで乾燥させて成長を止め、一晩温風で乾燥。そして熱風に切り替えて5時間ほど焙燥し、根を取り除いて出来上がり。そのプロセス毎に含水量を測定し、水加減、乾燥温度や時間を細かく調節する。これを3日ずらして常に2バッチを平行して行う。
合間に他の仕事をしながらなのでなかなか大変だ。

 ビールをつくるという夢はまだ少し先のことになりそうだけれど、佐賀でゆっくりと動き出している。 
 

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