見出し画像

役に立つかもしれないフィルムの記憶 「カラーネガの話 その1」

フィルム撮影って楽しいね! でも、フィルムの情報って、最近ではなかなか見当たらなくて、いろいろとよくわからないことがある。そんなあなたに、1990年代のフィルム最盛期からデジタル移行期のスキャン作業までをけっこう本気でやっていた自分の知識を解説したいと思います。

あらかじめ前置きしますが、この記事は実際の作業に役立つノウハウを紹介するものではありません。世の中がデジタル主体になり、フィルムが日常だった頃の記憶が途切れかかっている……そんな状況のなかで、新しくフィルムをはじめた方の漠然とした疑問を解消することができたらいいな、というのが狙いです。


1、フィルムの基本


まず最初にフィルムの種類を整理しておきますが、一般の写真用途としてはモノクロフィルム、カラーネガフィルム、カラーポジフィルム(リバーサルフィルム)が主となります。これらは説明不要だと思いますが、一点、新規にフィルムを始めた方に協調しておきたいことがあります。それは―――

フィルムにもデジタルカメラのRAW現像と同じように、さまざまな補正をプリント時に加えて完成させる世界がある、ということです。

一般論として、メーカーは自社で推奨する既定の処理で仕上げることで優れた写りになるよう努力していますが、アナログフィルムといえどもプリント時に特別な手間をかければ、より撮影者の意思を反映させた完成度の高い写真を得ることができます。

たとえば、モノクロの暗室作業はまさに現在のデジタル環境と同じで、積極的なコントラスト操作や覆い焼きによる部分的な階調コントロール、自由自在のトリミングなどを、種類の違う印画紙による質感選択などと合わせて物理的におこなっていました。時にモノクロ写真がアートだといわれるのは色のない世界観が独特で価値があるのではなく、その白黒の階調や粒子感を作者がコントロールして作品をつくりあげる自己表現があるからです。

では、カラーネガでもモノクロ写真と同じことができるのか?というと、これは個人では難しく、“手焼き”という特別な処理に対応してくれる現像所にカメラ店を通して依頼することになります。実はこれがカラーネガのやっかいさであり、撮影者の要望を第三者がプリントに反映させる意思疎通の難しさはカラーネガで作品をつくりたい人間の不満につながり、やがてそれはデジタルカメラへの移行あるいはスキャナーを用いた写真のデジタル化を歓迎する一因となるのです。

【過去のカラーネガ環境の問題点】
撮影者は望みどおりのプリント調整をしてほしいが、専門知識に乏しいのでその具体的なイメージが現像所の職人に伝わりにくい。いっぽうで、現像所の職人は直接、撮影者の顔を見ることがないせいか、ときに不誠実な態度でいいかげんな仕事を発生させる。

いきなり込み入った話に飛びましたが、このような面倒ごとに加え、もともとカラーネガはきれいなプリントを失敗なく得られるようにする記念写真用という概念があったので、フィルムの最盛期には現像するだけで撮影時の絵がそのまま出てくるカラーポジが写真趣味での主役になるという実情がありました。

カラーポジを使っていれば写真の結果は撮影者の腕次第、プリントするにしても現像所は原版をそのままダイレクトプリントで焼くだけと、双方が納得できる環境といえました。しかし、本当のところは35mmポジフィルムとダイレクトプリントの組み合わせでは、原版以上にコントラストが上がりシャドーが隅っぽく見える弱点があり、それを手焼きで補うことはできましたがなかなかに良いプリントを得ることは難しく、真にこだわりのある人間はより軟調で高画質となる中判、大判にいかざるをえませんでした。

現在のように、画質の悪さが味として解釈される前の時代では、カラーフィルムに求められるのはなによりも高画質、35mmよりも大きいフィルムの写りは圧倒的といえました。

【ダイレクトプリント】
かつて存在したカラーポジ用のアナログプリント。独特の透明感と鮮やかさがあったが、階調はわりと大雑把で常に重たい絵になる。その個性がはまれば重厚なプリントが得られたが、ネガプリントのような繊細さはなくポートレートには向かなかった。


2、カラーネガの撮影方法


基本的には、ネガ、ポジ、どの種類のフィルムを使おうが適正露出が基本ですが、いちおう、これも知識として解説しておきます。

カラーネガはあくまでプリント用の素材なので、ある程度の露出のブレがあってもプリント時の露光調整で問題なく焼けます。ただし、ここで注意しなければならないのは、カラーネガは露出アンダー厳禁で、+1EVの露出オーバーはまったく問題ない許容範囲ですが、-1EVの露出アンダーはかなり致命的です。画質低下の度合いはフィルムによって異なりますが、一般的には、彩度やコントラストを失い急激に粒子が荒れ、シャドーの情報がスコンと抜けます。

カラーネガは撮影時に十分な露出を乗せ、プリント時に写真の濃度を決定するのが正しい使い方です。できあがったプリントをネガフィルムの濃度に照らし合わせ、極端に画質の悪いコマがあったら、それは薄すぎるネガを作ってしまった露出アンダーによる失敗です。(ただし、実画像で暗い部分は薄くてもかまわない)

このような露出の過不足に対する寛容度をラチチュードといいますが、昔のカラーネガでだいたい-1EV~+3EVのラチチュード、しかし現実には、露出アンダーはできるかぎり回避すべきものであり、露出もオーバー過ぎるとカラーバランスが崩れるデメリットがあります。(※露出アンダーほどに急激な画質変化はないので、それほど神経質になる必要はありません)

また、デジタルのスキャン用途では、露出オーバーで濃くなったネガは階調が読み取りにくくなるために、スキャナーの光量を上げた(走査速度を遅くした)結果、白い反射ノイズが強く出てしまうことがあるのに注意してください。スキャナーでデジタル化を考えている場合には、露出オーバーもあまりよくないことは覚えておいてください。

これはカラー現像のモノクロフィルム。ISO200で撮影しているのでネガは濃いめ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?