見出し画像

【声劇】カグツチの贖罪


利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08

♂:♀=2:1
約20 分~30分

上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。

カグツチ♂
イザナギ/黄泉大神/???♂
イザナミ/醜女♀

***

カグツチ:「僕は……」

イザナギ:「イザナミ……イザナミ!」

カグツチ:「生まれた瞬間に、母を殺した」

***

カグツチ:「……ここは」

イザナギ:「目が覚めたか、カグツチ」

カグツチ:「父上?」

イザナギ:「いいや、違う。私は、お前が生み出した幻想だ」

カグツチ:「僕の生み出した幻想?……僕は今、どこにいるんですか?」

イザナギ:「ここは現世と黄泉の狭間はざま。肉体を失った者が辿り着く『常世とこよ』と呼ばれる場所だ」

カグツチ:「肉体を失った者……?僕は、死んだんですか?」

イザナギ:「いいや、死んでない。お前は神だからな。お前に死が訪れるのは『常世とこよ』に存在する『輪廻の輪』に乗った時か、あるいは……——」

カグツチ:「そうだ、母上は!僕は炎の神だから、母上は火傷を負ったはず!僕が肉体を失ったことと、何か関係があるんですか!」

イザナギ:「落ち着け。お前の母、イザナミは、大火傷を負った影響で黄泉の国へ渡ってしまった。お前が肉体を失ったのは、イザナギがお前の肉体を切り刻んだからだ。イザナミを黄泉へ送った罰としてな」

カグツチ:「そんな……僕のせいで、母上は」

イザナギ:「お前には、二つの選択肢がある。このまま輪廻の輪に乗るか、向こうの坂を下って黄泉へ渡るかだ」

カグツチ:「黄泉に……渡れるんですか?」

イザナギ:「お前が望むのならな。だが、黄泉に渡ってしまったら、黄泉の穢れを受けてしまう。輪廻の輪に乗る為には、全ての穢れを浄化する必要があるのだ。黄泉へ渡った後に、輪廻の輪に乗ることは不可能と言っても過言ではないだろう」

カグツチ:「僕は……どうしたらいいですか」

イザナギ:「それは、お前が決めることだ。転生して、新たな人生を歩むのも良し。黄泉へ行き、一度目の人生を永久に過ごすのも良し。お前を縛る肉体は、もう存在しないのだから」

カグツチ:「僕は……」

イザナミ:「待ちなさい!イザナギ!」

カグツチ:「っ、なんだ!?」

イザナギ:「黄泉平坂の方からだな。あぁ、どうやら夫婦喧嘩のようだ」

カグツチ:「父上と母上が……岩を挟んでいる?」

イザナギ:「イザナギが、黄泉平坂と現世を岩でへだてたようだ。まぁ、あれだけの穢れを連れて、イザナミを連れ帰るわけにはいかないだろうからな」

カグツチ:「父上……母上……」

イザナギ:「さて、お前の目には、私がイザナギに見えているのだろう。私はこの辺りでおいとまさせてもらおう」

カグツチ:「あっ……」

イザナギ:「転生か、贖罪しょくざいか。最早、答えは出ているだろう。お前の人生だ。いつまでも、過去の出来事に縛られるべきではないと思うがな」

カグツチ:「僕は……」

イザナミ:「あぁ、憎い人!」

カグツチ:「っ!」

イザナミ:「決して、私の姿を見てはいけないと言ったのに!私に恥をかかせたあげく、私をこの国へ置き去りにしようだなんて!」

イザナギ:「イザナミ。お前を連れていくことは出来ない。悪いが、この坂は封じさせてもらうぞ」

イザナミ:「素敵ね、イザナギ!二人で作った国なのに!私を追い出して、孤独にするつもりなのでしょう!あぁ愛しい夫。私はそのお礼に、貴方の子供達を一日に千人殺してあげる!皆、私の国へ連れて行って、貴方もすぐにこちらへ招いてあげるわ!」

イザナギ:「構わないさ、愛しい妻よ。お前が私の子供たちを連れて行くというのであれば、私は一日に千五百の産屋うぶやを建てよう。二人で作った国を、未来永劫みらいえいごう守っていくために」

イザナミ:「ッ……!」

イザナギ:「別れの時だ、イザナミ。お前の残したこの国を、私が必ず守り抜く。例えお前が、崩壊を望んでもな」

イザナミ:「許さない、イザナギ……。最後までずるい貴方を、決して許さない!」

カグツチ:「……そんな、僕のせいで、父上と母上が離れ離れに」

イザナギ:「分かっていたさ……。国は守らねばならん。民が一番だ。だが、私はそれでも……」

イザナミ:「分かっていたわ……。二人で産んだ国だもの。守りたいに決まってる。でも、迎えに来てくれた。……そんなの、望んでしまうじゃない」

イザナギ:「また、二人で」

イザナミ:「また、二人で……」

カグツチ:「父上、母上……」

イザナギM:「転生か、贖罪しょくざいか。最早、答えは出ているだろう。お前の人生だ。いつまでも、過去の出来事に縛られるべきではないと思うがな」

カグツチ:「僕は、黄泉へ渡る。僕の犯した罪の、贖罪しょくざいを果たすために。永遠とわに黄泉へ縛られようとも、僕は、母上の元へ行く」

***

カグツチ:「母上の後を追ってはみたものの……。坂を下った先は荒原こうげんが広がるばかり。ここからどう進めば、母上の元へたどり着けるんだ?」

醜女:「随分な男前が迷い込んだみたいだねェ」

カグツチ:「ッ! 誰だ!」

醜女:「アタシかい?教えてやってもいいけど、まずはアンタが名乗るべきじゃないかい?」

カグツチ:「……僕は、ヒノカグツチ。母であるイザナミを探しに、この黄泉へ来た」

醜女:「へぇ、そうかい。あの女の……」

カグツチ:「それで、君は誰なんだ」

醜女:「アァ、そうだ。忘れるところだったよ。アタシは しこめ 。この黄泉に住み着く鬼さ」

カグツチ:「しこめ。君は、母を知っているみたいだな。どこへ行ったか知らないか?」

醜女:「さァ?あの女がどこに居ようと、知ったこっちゃないさ。アタシら黄泉の鬼は皆そう」

カグツチ:「みんな……?」

醜女:「あの女の境遇には同情するがね、あの女が来たせいで、アタシらは黄泉大神よもつおおかみに見向きもされなくなったんだ。そりゃあ恨むさ」

カグツチ:「黄泉大神よもつおおかみ?」

醜女:「あぁ。この黄泉の王さ。随分な暴君でねェ、機嫌を取らなきゃアタシらはかてを分けて貰えずに死ぬんだよ。だから、いつもそばで機嫌を取っていたんだが……あの女がぜんぶ奪いやがった。あの整った顔で黄泉大神よもつおおかみをたぶらかし、アタシらを地獄に落としたんだよ」

カグツチ:「母上が……」

醜女:「黄泉大神よもつおおかみから飯を貰う唯一の手段は、あの女の下につくこと。たまに気を使ってアタシらに飯を寄越そうとしてくるが、受け取ったことがバレれば、困るのはアタシらさ。さっき、坂の方にいい男が来てね、向こうに連れ帰ってくれるかと思ったが。喧嘩までされちゃあ、面倒で敵わねぇ。追い払ってやったよ」

カグツチ:「僕の両親がすまないことを……。いや、それもこれも、僕のせいだ。僕が、君たちを苦しめた」

醜女:「どういうことだい?」

カグツチ:「母上に火傷を負わせたのは、僕なんだ。僕が生まれてこなければ、こんなことにはならなかった。僕のせいで、申し訳ない」

醜女:「なるほどね。だから、会いたいってわけか。なら、早く行った方がいい。早く行かないと、アンタに種違いの弟が出来ちまう」

カグツチ:「……それは、どういうことだ」

醜女:「言ったろ。黄泉大神よもつおおかみは、あの女を……アンタの母親を気に入ってんだよ。アタシらをそっちのけにするほどね。早く会いに行かなきゃ、アンタの母親は穢れに満ちてしまうよ」

カグツチ:「穢れに満ちたら、母上はどうなってしまうんだ?」

醜女:「さァ?黄泉生まれでもない、ましてや尊い血筋の女なんて、会ったことがないからね。だが、今の穢れにも耐えられず這いつくばっているようだから、もしかすると、死んじまうかも」

カグツチ:「死ぬ……?神は、輪廻の輪に乗らない限り死なないはずでは」

醜女:「おや、知らないのかい?神が死ぬ条件はそれだけじゃない。『魂が崩壊』をしちまえば、輪廻の輪に乗ることも叶わずに死んじまうんだ」

カグツチ:「魂の……崩壊」

醜女:「急ぎな。ここを真っ直ぐに進めば、黄泉大神よもつおおかみの神殿に辿り着く。アンタの母親はそこに住まわされているから、きっと会えるはずだよ」

カグツチ:「しこめ……」

醜女:「勘違いすんじゃないよ。アタシは、今のこの国が嫌いなだけ。アンタなら、変えてくれるかもと、勝手に思っただけさ」

カグツチ:「しこめ、礼を言う。僕は、必ず黄泉大神よもつおおかみから母上を助け出す。そして、この国を変えてみせる」

醜鬼:「あぁ、分かったよ。分かったから、さっさと行っちまいな!次は、王にでもなって姿を見せに来なよ!」

カグツチ:「……しこめ」

醜女:「なんだい!さっさと行きな!」

カグツチ:「それは無理だ。母上を退けてまで王になるだなんて」

醜女:「あぁもう!分かったから!王でもあの女の臣下しんかでも、どっちだっていいから!さっさと行きな!」

カグツチ:「……そうか、分かった!では、行ってくる!」

醜女:「全く……バカ真面目め。絶対に、死ぬんじゃないよ」

***

カグツチ:「何もない。この黄泉には、向こうに見える神殿以外、何も。あの時、母上は沢山の鬼を連れていた。きっと、彼女たちの家はない。……黄泉大神よもつおおかみ、僕は、お前を倒して、母上を救ってみせる!そして、この黄泉を変えるんだ!」

イザナギ:「おやおや、随分と威勢がいいじゃないか」

カグツチ:「ッ!父上!」

イザナギ:「いいや、違う」

カグツチ:「また、僕の幻想ですか?何の用です」

イザナギ:「それも違う。カグツチ、黄泉大神よもつおおかみの神殿に向かっているようだな」

カグツチ:「えぇ、母上が囚われているらしいんです。僕が助けなくちゃ」

イザナギ:「イザナミが、黄泉大神よもつおおかみを選んだとしてもか」

カグツチ:「……どういうことです」

イザナギ:「彼女は、自らの意思であの神殿に住んでいる。お前が行ったところで、門前払いだぞ」

カグツチ:「しかし……」

イザナギ:「だから転生を進めてやったのに。お前は、母に会うことが叶わないのだから」

カグツチ:「……何を」

(イザナギ、剣を抜く)

イザナギ:「ここに眠れ、カグツチ。その罪を背負って!」

(イザナギ、カグツチに斬りかかる)

カグツチ:「ッ!」

(カグツチ、避ける)

カグツチ:「何のつもりですか!」

イザナギ:「簡単なことだ、イザナミはお前を望んでいない、それだけだ!ここでお前を葬り、イザナミの仇を打つ!」

カグツチ:「ッ、僕は、ここで死ぬわけにはいかないんです!母上が許してくれずとも、贖罪しょくざいを果たさなければならない……僕は、貴方を越えて、母の元へ行きます!」

イザナギ:「剣も持たぬお前がか!笑わせてくれる!」

(剣がカグツチの腕を掠る)

カグツチ:「ぐッ……!」

イザナギ:「ふはは!その傷は魂の傷!お前の精神がすり減ればすり減るほど、その傷は深さを増す!」

カグツチ:「クソッ……どうにか、対抗する手段は!」

イザナギ:「無駄だ!お前はここで死ぬ!私に魂を切り刻まれ、黄泉の瘴気しょうきに毒されてな!」

カグツチ:「くっ……父上」

イザナギ:「違うさ、私は……この国の王だ」

カグツチ:「この国の……?まさか!」

イザナギ:「イザナミは、あの男よりも私を選んだ」

(イザナギ、姿を変える)

黄泉大神:「私の愛する人の為、その魂、我が身のかてにしてくれる」

カグツチ:「黄泉大神よもつおおかみ……!」

黄泉大神:「ククク、さぁ、逃げ惑え!その絶望すら、この黄泉では瘴気しょうきと変わる!」

カグツチ:「くッ……!せめて、炎を使えたら。でも、僕はその炎で母上を……!」

黄泉大神:「可哀そうになァ、カグツチ!お前の母は私を望み、子であるお前を拒んだ!転生を諦めたお前は、想い叶わずここで死ぬのだ!」

カグツチ:「僕、僕は……」

(黄泉大神から、穢れが放たれる)

カグツチ:「母上は、黄泉大神よもつおおかみを望んだ……。僕は、要らない子だったんだ……」

黄泉大神:「最早、トドメを刺す必要もないようだ。黄泉の穢れで、この地に眠れ」

***

カグツチM:「僕は、生まれた瞬間に母を殺した。父は僕を殺し、母を迎えに行った。しかし、母は黄泉で生きることを選んだ」

イザナミ:「素敵ね、イザナギ!二人で作った国なのに!私を追い出して、孤独にするつもりなのでしょう!あぁ愛しい夫。私はそのお礼に、貴方の子供達を一日に千人殺してあげる!皆、私の国へ連れて行って、貴方もすぐにこちらへ招いてあげるわ!」

カグツチ:「……違う」

イザナミ:「許さない、イザナギ……。最後までずるい貴方を、決して許さない!」

カグツチ:「……母上は、自分の意思でこの国を選んだんじゃない」

イザナミM:「分かっていたわ……。二人で産んだ国だもの。守りたいに決まってる。でも、迎えに来てくれた。……そんなの、望んでしまうじゃない。また、二人で……」

カグツチ:「ッ!母上は、お前なんか望んでいない!」

(炎が放たれる)

黄泉大神:「ぐぁッ!なんだ、炎が!」

カグツチ:「母上は、父上を愛している!この愛を切り裂いたのは僕。許されずとも、僕は贖罪しょくざいを果たさなければならない!お前を倒し、母上を助け出すんだ!」

黄泉大神:「フン、出来るものなら、やってみろ!醜女しこめ!この男を殺せ!……醜女しこめ!聞こえないのか!」

カグツチ:「無駄だ!私利私欲のために彼女達をもてあそんだお前に、彼女たちを従えることは出来ない!」

黄泉大神:「くッ、あんな愚図共の手を借りずとも、お前を殺す程度、赤子の手を捻るも同然!黄泉の瘴気しょうきを払ったところで、状況は何も変わらない。武器も持たぬお前に、私が負けるわけがないのだ!」

カグツチ:「武器なら、この炎があるさ!たぎる炎は母をも奪い、世界を焦がす大火と成った。僕は母を殺したこの炎で、母を救い出すんだ!」

黄泉大神:「面白い!ならば、かかってくるがいい!稲妻よ、我が剣に宿りて敵を穿うがて!黄泉の瘴気《しょうき》に、その身を滅ぼすがいい!喰らえ、|界雷電冥斬かいらい でんめいざん!」

カグツチ:「黄泉に漂う鬼火たちよ、今ここに集いて、その炎火えんかを鼓動にくべよ!流星火りゅうせいか光炎火輪こうえんかりん!」

黄泉大神:「ッ、そんな、嘘だ!私の斬撃が、一瞬にして火に!嫌だ、嫌だ嫌だ!私は、まだ、この国を!!!」

カグツチ:「別れの時だ、黄泉大神よもつおおかみ。お前の残したこの国を、私が必ず守り抜く。例えお前が、崩壊を望んでもな」

黄泉大神:「うわあああああああああ!!!!!!!!」

カグツチ:「灰神楽に舞い踊れ、黄泉大神よもつおおかみ。……っ、炎が、消えない!?くそ、まだ、制御が……このままじゃ、黄泉全体に炎が回ってしまう!一体、どうすれば……!」

イザナミ:「天沼矛あまのぬほこよ、死者の国にて炎を払い、傷ついた魂に愛の浄化を」

カグツチ:「傷が、治っていく……。これは……この、暖かい力は!」

イザナミ:「カグツチ」

カグツチ:「母上!!!」

イザナミ:「私の為に、黄泉へ来てくれたのでしょう?馬鹿な息子、生まれただけの貴方が贖罪しょくざいだなんて、考えなくって良かったのに」

カグツチ:「母上、僕……僕のせいで!」

イザナミ:「これで良かったのよ。貴方のおかげで、この国を変えていける。苦しむ鬼たちを、救うことが出来るのだから」

カグツチ:「……母上」

イザナミ:「これからは、私、イザナミがこの国の王、黄泉大神よもつおおかみよ。醜女しこめたちに住処を与え、私の呪いによってこの国へ来た子供達が、きちんと転生できるように、この瘴気しょうきを浄化するの。カグツチ、力を貸してくれる?」

カグツチ:「……ッ、はい!母上!僕、ヒノカグツチノミコトは、永遠に、貴方の家臣です」

イザナミ:「カグツチ……」

カグツチ:「母上……!」

***

???:「イザナミ様……母上。俺は……俺は……」

To be continued……


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?