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【声劇】Happy swallow(4人用)

利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
♂:♀:男女不問=2:1:1
約50分~60分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。

【配役兼任表】
ベア  :♂ハッピースワローの元メンバー。 プリンスに返せない程の恩義がある。
お嬢さん:♀ 元マッチ売りの少女。 ベアとハッピースワローに救われたが…
ガゼル :♂ ハッピースワローのメンバー。ベアへの嫉妬と、生への執着で行動する。
ウルフ :(男女不問) ガゼルに救われハッピースワローに入る。 容姿は醜い。※台詞は少なめ?
モブA :♂ ガゼル役が兼任。 父親・街人・ジャック
モブB :(男女不問) ウルフ役が兼任。 馬車・悪ガキ・通行人・紳士・貧乏な人・巨人の子・お婆さん(?)

**************************************

ベア:「── (銃を突き付ける) ここで何をしている」

お嬢さん:「──ひっ!? あ、あのっ……み、道に迷ってしまって……そ、その……」

ベア:「道に? 案内板があったはずだ……その通りに進めば、山頂にも町にも行けたはず……」

お嬢さん:「あ、案内……板? そ、そんなの、な、無かったです」

ベア:「ちっ……また獣に倒されていたか」

お嬢さん:「あ、辺りがどんどん暗くなって……それで恐くて──そ、そうしたら、ボンヤリと明かりが見えて……誰か居たらって──そ、その……ご、ごめんなさい……こ、ここっ殺さないで……」

ベア:「……登山靴に、リュック……登山客か?」

お嬢さん:「(ゆっくりポケットに手を入れる) お、お金なら、わ、わわ渡しま、す……だ、だから──」

ベア:「──動くなっ!」

お嬢さん:「ヒッ!? (ポケットからイヤリングが落ちる)」

ベア:「……? 白い貝殻……っ!? それは──」

お嬢さん:「ちぃっ!! (振り向いてナイフ)」

ベア:「くっ!! (射撃×2) ──登山客を装って……」

(お互い隠れる)

お嬢さん:「探したよ──アタシはアナタを許さない……組織を裏切ったアナタを……」

ベア:「君に命を狙われる様ないわれはないはずなんだが……俺を知っているのか?」

お嬢さん:「えぇ当然……『ハッピースワロー』のNo.1──『ベア』。
アナタは一番やっちゃいけない事をした……あの人の信頼の元で集まった仲間を──あの人を裏切って逃げたんだ!! 悪に落ちた者は、粛清しゅくせいしなければならない──たとえ組織の人間であろうと!!」

ベア:「信頼出来うる人の元に集まったからと言って、全ての仲間を信頼出来る……か。組織の人間なら、君も絶望を見てきたはずだ──っ!?」

(ナイフが飛んで来て接近戦、テキトーに戦って下さい)

お嬢さん:「シッ!!」

ベア:「クッ!!」

お嬢さん:「なんでだ! どうして──」

ベア:「何が──」

お嬢さん:「──どうしてあの人の元から消えたっ!!」

ベア:「チィっ!! (射撃)」

お嬢さん:「くっ── (飛び退く)」

ベア:「その時が来た──終わったんだ」

お嬢さん:「アタシ達の仕事に終わりは無い!! アナタは絶望を見捨てたんだ!!」

ベア:「っ──残業を重ねて、退職もさせてくれないのか? とんだハッピーな会社だなっ」

お嬢さん:「アタシはっ──アタシはアナタを追い掛けてこの世界に入ったんだ!!」

ベア:「俺は君を知ら──ないっ!」

お嬢さん:「(距離を取る) ぐっ──だろうね」

***********************
(雪の町)

モブA:父親「──ったくよぉぉ!! 手のかかるガキを置いて、先に勝手にくたばりやがって!! なんでガキを俺が面倒みなくちゃなんねぇんだ!! あぁ!!!」

お嬢さん:「っ──ご、ごめんな、さい」

モブA:父親「そのつらだよっ! 胸糞悪ぃその面!! 町はクリスマスだなんだって、あんなに賑わってるってぇ〜のにっ! 『私は不幸です』って顔しやがって!!」

お嬢さん:「ご、ごめんな……さ──」

モブA:父親「──ぬぁらぁっ!!! (殴る)」

お嬢さん:「──きゃっ!!!?」

モブA:父親「その面を止めろって言ってんだ!!! ちくしょう……ちくしょう……っなんで逝っちまったんだよ……あぁ〜娼婦なんかとガキを作るんじゃ無かった……ちくしょう」

お嬢さん:「……うぅ〜……」

モブA:父親「っ!!! いつまで倒れてやがんだ!! まだ身体も売れねぇんだったら、マッチでも売って来い!! 役立たずがっ!!!」

お嬢さん:「っ──は、い……」

モブA:父親「全部売れるまで絶対に帰って来るな!!! ちくしょうが!!!」

(少女が家を出て行く)

モブA:父親「くそぉ〜俺は不幸だ……俺が何をしたってんだ……」

(扉をノックする音)

モブA:父親「……? 誰だ」

ベア:「夜分にすまない。アンタの奥さんから、届け物を預かっている」

モブA:父親「っ!? アイツは先月死んだ!!」

ベア:「あぁ、知っている。亡くなる前に『私が居なくなったら、生活が大変だろうから』と──」

モブA:父親「っ!! か、金かっ!? (扉を急いで開ける) お、おいっ配達屋!! さっさと渡せっ!!!」

ベア:「…… (銃口を突き付ける)」

モブA:父親「へぁっ?」

ベア:「『ハッピープリンス』から不幸な者へ、サファイアのお届け物だ」

モブA:父親「な……な、なんだ……お、おお驚かせるんじゃねぇよ。ハ、ハッピープリンスって言ったら、あ、ああアレだろ? せ、生前に溜め込んだ財宝を、ふ、ふふ不幸な者に分け与えるって──」

ベア:「理解が早くて助かる」

モブA:父親「そ、その銃を下ろして、は、はは早くそのサファイアを寄越してくれよ……お、おお俺は不幸だ。娼婦とただ遊んでただけで、な、何の役にも立たねぇガキが、で、でで出来ちまったんだ。そ、そしたらアイツはさっさと死んじまって、稼ぎは無くなるし、ガキもまだ小せぇから、街でマッチを売るしか出来ねぇ──な? 俺は不幸なんだ! だから──」

ベア:「あぁ……不幸だな……」

モブA:父親「へ、へへっそうだろ! そう、俺は不幸なん…… (銃声) ……だっ?」

ベア:「……こんな父親で」

モブA:父親「あっあぁ……がっは……な、なんでだよ! どうして俺がっ……ごふっ……い、嫌だ……死にたく、ねぇ……俺はっまだ……あぁ……俺はっ不幸っ! ……だ……(ガク)」

ベア:「『ベアだ……少女は街にいるとの情報。接触する』」

*************************

お嬢さん:「マッチ、いりませんかぁ……あ、あの……ま、マッチを買って下さ──キャッ(ぶつかる)」

モブA:街人「こんなトコでウロウロしてんじゃねぇよ」

お嬢さん:「す、すいません……」

モブA:街人「ちっ……」

お嬢さん:「……マッチはいりませんかぁ……うぅ〜寒い……」

モブB:馬車「娘っ! どけっ!! ひかれたいのか!!!」

お嬢さん:「(避ける) キャッ!? ……はぁ……あ、靴が脱げて……あれ? 私の靴は……」

モブB:悪ガキ「おっこんなトコに靴が! ははっラッキー! 貰ってくぜぇ♪」

お嬢さん:「あ……ま、待って! それはママが買ってくれた──っ……うぅ……靴……
ま、マッチはいりませんか……マッチを……買ってくだ……さ──寒い……ママ……」

モブB:通行人「今日はクリスマスだから、帰ったら温かいシチュー待っているぞ♪」

お嬢さん:「……シチュー……良いなぁ……
──っ! 足が……で、でも……マッチを売らないと……また帰ったら怒られる……
マッチ──マッチをっ買って下さい!」

モブB:紳士「ん?」

お嬢さん:「マッチを!! 買って下さい!!」

モブB:紳士「お嬢さん」

お嬢さん:「は、はいっ! マッチを──」

モブB:紳士「もう夜も遅いんだ、早く帰りなさい」

お嬢さん:「え……いや……ま、マッチを──」

モブB:紳士「じゃあ、気を付けるんだよ♪」

お嬢さん:「ま、待って! マッチを──っ痛……あぁ、行っちゃった……
私、帰れないの……帰ったら、またパパに叩かれるから。
どうしよう……寒いよ……足が痛いよ……ママ。
少しだけ……少しだけ休憩……ここの軒下のきしたを借りて……うぅ〜……足が冷たい……痛い……
あっマッチの火を付けたら──そうしたら、きっと暖かいはず……
売り物だけど……一本くらい……う、うん、一本くらい (火を付ける) ふぁ〜……暖かい……
あっ、もう消えちゃった。も、もう一本だけ……あと一本だけ……

(間)

マッチを、売らないと……でも、凄く……眠い……少しだけ……眠っても良いかな? 身体が……動か、ないんだもん……良いよ……ね? ママ……」

ベア:「『目標を発見した』」

*******************

ベア:「あの時の子供……そうか、助かったのか」

お嬢さん:「えぇ……目覚めたら、そこは『ハッピースワロー』の医務室だった。『プリンス』にも会った。自分の身を削って私を──世の中の苦しんでいる人達を救ってくれる……とても優しい目をした人だった」

ベア:「あぁ……俺もプリンスに救われたひとりだ。
『ハッピースワロー』には、プリンスに救われた奴らが集まっていた……」

お嬢さん:「っ!! だったらどうして──どうして!!! (切りかかる)」

ベア:「っ!? ……ぐっ (受ける)」

お嬢さん:「アナタはっ、その恩人であるプリンスを裏切った!! 私はアナタに命を救われた──けど……だけど!!」

ベア:「──終わったんっだ! (払う)」

お嬢さん:「──くっ!? 終わった? 何が終わったって言うんだ! 終わらせたのはアナタだろ──」

ベア:「──聞けっ!!」

お嬢さん:「っ!?」

ベア:「ハッピースワローは……変わった……」

******************

ガゼル:「よぉ〜ベア。今戻ったのか? 今回の絶望はどうだった? 病気の母を持つガキだったか?」

ベア:「あぁ。これからプリンスに報告に行く──」

ガゼル:「──その必要は無ぇなぁ」

ベア:「……?」

ガゼル:「プリンスから『ベアが戻ったら、次は西に向かう様に伝えてくれ』と“お願い”されている。そこに水も買えない親子がいるから『この金の卵を持って行ってくれ』との事だ。ほらよっ♪」

ベア:「あぁ」

ガゼル:「んで、俺は南に向かう」

ベア:「また金の卵……あぁ、分かった (立ち去る)」

ガゼル:「ククっ……」

********************

ベア:「確かに渡した……これで水だけじゃなく、食べ物も好きなだけ買うと良い」

モブB:貧乏な人「あ、あぁ……ありがとうございますっ! ありがとうございます!! これで子供達に食事をさせてあげられる……本当に──本当にありがとうございます!!」

ベア:「『ベアだ。任務は終えた。これから戻る』──」

ウルフ:「『──いえ、戻る必要はありません。これからそちらにヌーを送ります。そこから南に向かって、両目の見えない少年に金の卵を渡して下さい』」

ベア:「『南? ……南には今ガゼルがいるはずだ』」

ウルフ:「『プリンスの“命令”は絶対です。良いからその場で──』」

ベア:「っ!? 『──お前は誰だ?』」

ウルフ:「『……は?』」

ベア:「『プリンスは“命令”は決してしない……プリンスがするのは“お願い”だけだ。ハッピースワローに上下関係は存在しない。全ての者が平等……』」

ウルフ:「『……っ』」

ベア:「『プリンスに会いに行く』」

*********************

ベア:「……」

ガゼル:「よぉよぉよぉっベア! 今帰ったのか!! 俺も今南から帰って来て──」

ベア:「──どけ、プリンスに会う」

ガゼル:「俺も今会ってきたんだが、プリンスはあいにく忙しくて手が空きそうに無いらしいんだぁ♪ 後でまた俺が伝言をちゃんと伝えておく♪」

ベア:「ガゼル、そこをどけ……」

ガゼル:「い〜や、どけない♪ お前はプリンスに会う事は出来な──」

ベア:「ふんっ! (殴り飛ばす)」

ガゼル:「──どぶぁっ!!!」

ベア:「プリンス!! (扉を開ける)
プリンス!! どこだ!! 話をさせてくれっ!! プリンス!!!」

ガゼル:「いつつつ……」

ベア:「ガゼルっ (胸ぐらを掴む)」

ガゼル:「──どわっ……た」

ベア:「プリンスはどこだ……」

ガゼル:「……ふぅ〜……」

ベア:「答えろ!!!」

ガゼル:「……だから、プリンスには会えないって言っただろう」

ベア:「どういう、事だ……」

ウルフ:「プリンスは死にました」

ベア:「っ!? この声は……さっきの」

ウルフ:「どうも初めまして。ウルフと申します」

ベア:「……プリンスが死んだと言うのは、どういう事だ」

ウルフ:「言葉通りの意味です。プリンスは、死にまし──」

ベア:「──貴様らが殺したのか!!」

ガゼル:「おいおい、勘違いをするな♪ 寿命だ」

ベア:「っ……」

ウルフ:「ベア……アナタもご存知でしょうが『プリンス』の身体は、色々な宝から出来ていました。
一国の王──人間として生きていた時、多くの街、村……数え切れない人数の人々を救った。プリンスに救われた人々は、それぞれ宝を持ち寄り、感謝の念を込めながらプリンスの像を作りました。
そこに『命が宿る』という神の奇跡が起きた──そして、プリンスの2度目の人生が始まりました」

ベア:「当然知っている! 新たな命を得たプリンスは、苦しんでいる人達に、文字通り『その身を削って』自分の命を作り出している宝を配り回っていた」

ウルフ:「えぇ、その通りです」

ガゼル:「その宝が尽きた。そんだけの話だ」

******************

お嬢さん:「う、嘘だ……プリンスが死んでいたなんて……」

ベア:「本当だ……宝を失ってなまりの塊になったプリンスを、俺も確認した。
今にも動き出すんじゃないか……また優しく笑ってくれるんじゃないか、語りかけてくれるんじゃないか──そんな穏やかな顔をして──」

お嬢さん:「── (斬りかかりながら) 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!! だってアタシは金の卵を、プリンスからの“命令”で不幸な人達に配っている!! 金の卵も宝だ!! 売ってお金に替えて、そしてみんな幸せにっ幸せに──」

ベア:「──プリンスは“命令”はしない!! (押さえる)」

お嬢さん:「──うぐっ!?」

ベア:「途中から入ったアンタには分からないだろうが──プリンスは“命令”は決してしない! だから、プリンスからの“お願い”を断っても良いんだ……だがっ! 断ればプリンスは無理をしてても苦しんでいる人の所に足を運ぶ!! プリンスの身体は宝で出来ていた……宝の塊が外を出歩いたら、どうだ! 何が起こる!!」

お嬢さん:「ぐぐっ……」

ベア:「全ての困っている人、苦しんでいる人、悲しんでいる人──プリンスはその人達に希望を与える為に動いていた! 『ハッピースワロー』は、プリンスの手伝う為に勝手に集まって出来た組織!! アンタは俺の事をNo.1だと言っていたが、そんな物『ハッピースワロー』にはそもそも存在しない!!」

お嬢さん:「っぐぅ……」

ベア:「いつ抜けても良い、こころざしが同じならば、誰がいつ入っても良い……『平等な幸せ』それが『ハッピースワロー』──プリンスの考えだ」

お嬢さん:「くっ……ぐっ……ふぅ〜……放せ。も、もう大丈夫だから……」

ベア:「……すまない (放す)」

お嬢さん:「アタシは……誰の命令で……何が目的で……そもそもっ宝が尽きていたなんて──」

ベア:「──白い貝殻」

お嬢さん:「……?」

ベア:「それをどこで手に入れた」

お嬢さん:「これは──」

ベア:「──それは、俺がハッピースワローに入って、初めてプリンスからの“お願い”で貰った物だ」

お嬢さん:「っ!?」

************************

モブB:巨人の子供「そ、そんな宝……受け取れねぇど!!」

ベア:「それはこちらとしても困る。プリンスから、アンタに届ける様に“ お願い”されたんだ」

モブB:巨人の子供「んだ事言われても、どうせまた人間達に奪われちまうだ……何も変わらねぇ……」

ベア:「巨人族は……人を喰らう化け物だからか──」

モブB:巨人の子供「──オラは人は食わねぇ!! もうそんな時代じゃ無ぐなったど……んだども、オラの先祖達がずっとやっで来た事だ……そう思われでいても仕方ねぇ」

ベア:「村人によって、恐怖の対象が迫害される……よくある話だ」

モブB:巨人の子供「だど……オラは人間達と仲良くしてぇ。そん為に色々頑張ったど。んだども、どれも上手ぐいがなかった。おめぇさんからその宝を貰っちまったら、また『どこからか奪って来たんだ』って、いわれの無い罪を着せられで、オラを傷付けに来る! 奪いに来る!! も、もう……痛い思いをするのは嫌だど……悲しい思いをするのは嫌だど……
だから……だから持って帰ってくれ。おめぇさんの……そしてプリンスさんの、その気持ちだけで十分だど」

ベア:「俺は、アンタに物を頼まれる程の義理は無い。プリンスにアンタにこの宝を渡して来てくれと“お願い”されたんだ。受け取って貰わないと、俺が困る」

モブB:巨人の子供「分がんねぇ人だな!! それを貰っちまったらオラは人間達に── (ベアが歩き出す) ──ぬぁ? ど、どこに行くだ?」

ベア:「ついて来い……」

モブB:巨人の子供「ま、待つだ──待つだどっ!!」

(間)

モブB:巨人の子供「どこまで行くど──」

ベア:「ここが良い」

モブB:巨人の子供「──どわっ!? きゅ、急に止まらねぇ〜でくれ。間違えて踏んじまう所だったど」

ベア:「これを……」

モブB:巨人の子供「……だぁ? なんだコレ……小させぇ豆粒みてぇ〜な……」

ベア:「豆の木の種だ。プリンスに『迫害を受けている者がいたら、この種を植えて、空へと逃がして上げて欲しい』とも“お願い”されている」

モブB:巨人の子供「……空?」

ベア:「空にも国があるらしい。そこは、あらゆる理由で地上で迫害され、生きて行く事が出来なくなった者達が暮らしている……みんな同じ苦しみを経験した者達だ。きっとアンタの事も暖かく迎えてくれるだろう」

モブB:巨人の子供「だ、だども……オラ、人喰いの巨人だど?」

ベア:「祖先は──だろ?」

モブB:巨人の子供「……」

ベア:「プリンスはどこまでも優しいかただ。プリンスの言葉で、誰かが傷付く事は無いと、俺は信じる。しかしアンタは違う。俺の言う事を信じるか信じないか──」

モブB:巨人の子供「──信じる!!」

ベア:「っ!?」

モブB:巨人の子供「オラはおめぇさんを信じるど!! こんなに優しくされたの、オラ初めてだ……そのプリンスさんの命令でオラを助けてくれただけかもしんねぇ……けど、そのプリンスさんの優しさが、おめぇさんからも伝わってくる──だがらっ! オラはおめぇさんを信じるど!!」

ベア:「……命令じゃない“お願い”だ」

モブB:巨人の子供「だとしたら、なおさらだど♪」

ベア:「……この種を植えると、明日には空まで届く豆の木が出来ているはずだ。それを登って空に行け。
明日、太陽が真上に上がった頃、俺はまたここに来て、木を切り倒す。アンタを追って、他の奴らが登らない様にな」

モブB:巨人の子供「わ、分かったど!!」

ベア:「……じゃあ、改めてプリンスからの宝を受け取れ。空の上で新しい生活を始める為には、必要なはずだ」

モブB:巨人の子供「……ありがとうだど……」

ベア:「あぁ……その言葉、プリンスに伝えておく」

モブB:巨人の子供「違う……オラはおめぇさんに言ったんだど」

ベア:「……俺に?」

モブB:巨人の子供「プリンスさんの“お願い”を形にしてくれたのは、おめぇさんだど……オラは、おめぇさんにありがとうを伝えたかったんだど」

ベア:「そうか。俺に……か。なるほど。
……さぁ、プリンスの“お願い”は果たした (立ち去る)」

モブB:巨人の子供「あっ! ま、まだ待つど!!」

ベア:「……?」

モブB:巨人の子供「これ、貰ってくれだど!」

ベア:「白い貝殻……?」

モブB:巨人の子供「オラには、プリンスさん程の宝は無ぇから、こんな物で申し訳ねぇけど……おめぇさんへの感謝の印だ」

ベア:「それは受け取れない。俺はプリンスの“お願い”を──」

モブB:巨人の子供「──だとしても、おめぇさんはオラを助けてくれた! オラはおめぇさんに感謝してぇ! それにこれは2つあるど……いらなかったら、捨てちまっても構わねぇけど……」

ベア:「ふっ……分かった。受け取ろう。それでアンタが救われるなら……」

モブB:巨人の子供「だど♪ おめぇさんに何かあったら、オラ、すぐに空を降りて助けに行くだど!!」

ベア:「あぁ……期待しないで待っている。ではお別れだ (立ち去る)」

モブB:巨人の子供「だど♪ ありがとうだどぉ〜!!!」

*********************

ベア:「俺のは、これだ……」

お嬢さん:「っ!? 同じ白い貝殻。
……この白い貝殻は……貰った」

ベア:「貰った……?」

お嬢さん:「えぇ……アナタに追い付きたくて、プリンスからの“お願い”を全て受けて──でも、それはプリンスからの“お願い”じゃ、なかったんだよな」

ベア:「誰から貰った……アイツが空から下りて来る事なんて考えられない」

お嬢さん:「それは──」

ベア:「──っ!? 避けろ!!! (飛びかかる)」

お嬢さん:「──きゃっ!!」(銃声)

ガゼル:「くっはぁぁぁ〜!! 相変わらず感の良い野郎だなぁ〜ベア♪」

ベア:「ガゼル」

お嬢さん:「ガゼル……どうして?」

ガゼル:「まさかこんな山奥に隠れてたとは、そりゃあ探しても見付からねぇはずだ♪ それなのに、良ぉ〜く見付けてくれた♪」

ベア:「……まさか!?」

ガゼル:「あぁベア、それはお前の思い出の品でもあったのかぁ……すまねぇ〜が、発信機を付けさせてもらった♪
そこのお嬢さんが、お前に近づくのに躍起やっきになって、依頼をたくさんこなしてくれていたから『プリンスからのご褒美』だと言ってイヤリングにしてプレゼントしたんだ♪ 嬉しそうに身に付けてくれやがって♪
おかげでお前の居場所まで、遭難すること無く辿り着けたって訳だ♪」

お嬢さん:「どうして……」

ガゼル:「ん〜……どれがだ? 『どうしてベアを追うのか』『どうしてプリンスが死んだ事を隠すのか?』『どうしてプリンスが死んでも尚、宝を配るのか?』『どうして──』」

ベア:「──なぜ白い貝殻を、貴様が持っていた──」

ガゼル:「──まだ俺の台詞だっただろうが!!! (射撃)」

ベア:「くっ!」

ガゼル:「まぁ良い♪ 勘の良いお前の事だ……分かってるだろう? 分かっていて聞いてるんだろぉ〜? 本当にイヤらしい野郎だ!!」

*********************

ウルフ:「ガゼルさん、話というのは?」

ガゼル:「さん付けはやめろ。ハッピースワローの中では全てが平等だって言っているだろう。ここで妙な上下関係を疑われても困る」

ウルフ:「はぁ……すいません──」

ガゼル:「──敬語も! と言っても、そればかりは無理か」

ウルフ:「はい、ずっと聖堂につかえていた身ですので……申し訳ありません」

ガゼル:「(ため息) 腐った街、腐った国……腐った王に腐った宗教。見た目が醜いからと言って、聖堂から出る事すら許されず、決まった時間に鐘を打ち鳴らす事だけが許された哀れな奴隷。そんなモン、仕えていた内に入らねぇよ。道具として使われていただけだぁ♪」

ウルフ:「……あの……それで?」

ガゼル:「んぁ〜……プリンスからの“お願い”で口止めをされてるんだが……さすがに俺一人で抱え込むには大き過ぎる。だから、お前には話しておこうと思ってなぁ」

ウルフ:「はぁ……?」

ガゼル:「プリンスが……死ぬ」

ウルフ:「なっ!? そ、そんな──」

ガゼル:「(大きな声で) ばぁ〜か! 声がデケェよ!! 誰もいない所に呼び出して、誰にも聞かれないように細心の注意を払って『プリンスが死ぬ』って話をお前だけにしているのに、そんなに大きなリアクションを取るな!! 誰かに聞かれたらどうするつもりだぁ!!!」

ウルフ:「っ! す、すいません……プリンスが……そんな──ほ、本当なんですか?」

ガゼル:「あぁ〜。まっ、あんだけ宝をばらまいてりゃあ、そりゃあ死んでもおかしくはねぇ」

ウルフ:「っ! 早くこの事を世界中の人に伝えなくては! プリンスに救われた人達が、また宝を持ってプリンスを助けてくれるはずです!!」

ガゼル:「おいおい、話を聞いてたかぁ?『誰にも言わないでくれ』って、プリンスに“お願い”されちまってんだよぉ」

ウルフ:「どうして!」

ガゼル:「(咳払い)『今、苦しんでいた方々は過去の苦しみを忘れて、みんな幸せに暮らしています。私の事を思い出すだけで、ようやく乗り越えた不幸を再び思い出させてしまうかもしれない。私は、全ての人に、笑顔で毎日を過ごして欲しいのです』だとよ♪」

ウルフ:「そんな事を……どうしてそれをガゼルに──」

ガゼル:「──二人の時は『さん』を付けろ!!」

ウルフ:「えっ……あぁ、はい……すいません」

ガゼル:「いやぁ〜それがよっ!! 報告に行った時に、倒れてるのを偶然見ちまってよ! ビックリしたね!! いつも涼しそうな顔してっから、本当に神から不老不死の力を貰ったのかと思ってたのに! さすがに宝が尽きたら死んじまう!! それを分かっていても尚、不幸の人達を救おうとしてんだからな!!」

ウルフ:「どう、するんですか?」

ガゼル:「ん? あぁ〜……どうもこうも、プリンスの“お願い”だ。お前以外に話す気は──無ぇ」

ウルフ:「……」

ガゼル:「俺はよ」

ウルフ:「……?」

ガゼル:「プリンスには感謝してんだ。盗んでもねぇのに、パンひとつを盗んだ濡れ衣を着せられて、毎日鞭で打たれて……血の混じった泥をすすって……
死ぬ事は恐くなかった。生きてるのか死んでるのか、自分でも分からねぇ中、ただただ意味も無く息をしていただけなんだ。
でも、そんな絶望の状況から……プリンスは俺を救ってくれたんだ。俺に笑う事を教えてくれたんだ。そしたらよ? 死ぬ事が恐くなった。なるほど! これが生きるって事なんだって思った」

ウルフ:「……」

ガゼル:「そんな奴らが、この『ハッピースワロー』にはたくさんいる。
『ハッピースワロー』は、そういうプリンスに救われた奴らの集まりだ……。プリンスがいなくなったら、あいつらはどうなる? ウルフ、答えろ」

ウルフ:「それは──」

ガゼル:「──そう!! お前みてぇな虫がってるみてぇな醜い野郎が、何事もなかった様に生きていくなんて不可能なんだ。また石を投げられ、化物だとののしられ、やってもいない罪をなすり付けられ、絶望を彷徨さまよう!! しかしその時にはもうプリンスはいない!! 救いも無いまま野垂れ死んで行くだけだ!! うるせぇ静かに話せっ!! 誰にも言うなと“お願い”されてるって言ってるだろうがっ!!」

ウルフ:「私は何も──」

ガゼル:「──って事で、おつかいを頼まれてくれ♪」

ウルフ:「えっ……おつかい、ですか?」

ガゼル:「あぁ、簡単なおつかいだ。北に『ジャック』っつぅ〜ガキがいる。そいつにコレを渡してくりゃあそれで良い」

ウルフ:「これは……」

ガゼル:「これは俺からの“お願い”だ」

********************

ウルフ:「久し振りの外だ……姿をさらしたら、また化物だと恐がらせてしまう。フードをもっと深く──」

モブA:ジャック「じゃあ母さん、この牛を売ってお金に変えて来るよ。
うん、もうミルクは出ないけど、出来るだけ高く買い取って貰えるようにお願いしてみるから。
行ってきます。
ほらっ早く来い! お前の乳が出ないのが悪いんだからな!!」

ウルフ:「身長……容姿……間違いない、あの子供がジャック──
ボウヤ、少しよろしいですか?」

*********************

ウルフ:「ガゼルさん、ジャックに豆の木の種を渡して来ました」

ガゼル:「おぉ〜お疲れさん♪ さぁ文字通り種は撒いたぁ〜……あとは収穫の時を待つだけだ」

******************

ウルフ:「ガゼルさん! ジャックが空の国から盗みを働き、それを追いかけて来た巨人を──こ、殺したそうです……」

ガゼル:「クククク……クァ〜っハッハッハッ!!! 思ったより早かっなぁ〜♪」

ウルフ:「っ!? ま、まさかこうなる事が分かってて──」

ガゼル:「当然だ♪ んまぁ〜殺しまでするとは想定していなかったがな♪ 粛清しゅくせいする素材には十分だ♪」

ウルフ:「……アナタは……」

ガゼル:「さぁ〜……ハッピースワローの名の元に『ぜん』の執行だ」

**********************

お嬢さん:「じゃあ……そのジャックが殺したというのは──」

ガゼル:「んな事ぁ〜知らねぇ♪ 俺は、ジャックが空から宝を盗んで来る。それだけで良かったんだ♪ そうしたらよ? そしたら!! これがまた傑作だ!! ジャックから押収した宝の中に、幸運にも金の鶏がいてなぁ〜……ポンポンポンポン馬鹿みてぇ〜に卵を産んでくれる! プリンスが生きている間、隠すのに苦労したよ」

ベア:「何故だ……」

ガゼル:「──だぁからっどれがだ!!?」

ベア:「何故そんな事を──」

ガゼル:「──結果を急ぐな!! なんだ? 自分が主人公にでもなったつもりか? 自惚(うぬぼ)れるな!! この物語の主人公は俺だ!! プリンスに救われたその瞬間から、俺のハッピーな物語が始まったんだ!! お前はこの俺の物語に出てくる、モブなんだよ!! 慈悲深い俺が! 少しでもお前に花を持たせてやろうと名前を与えてやったに過ぎない!!」

お嬢さん:「腐ってる……」

ガゼル:「……腐ってる?」

お嬢さん:「あぁ、アンタは腐りきっている!! プリンスに近い所にいたのに、どうして──救われた人達の笑顔を見て来なかったのか!? みんなの『ありがとう』と言う言葉が心に響かなかったのか!? アンタは何をプリンスから受け取ったんだ!! プリンスが渡したかったのは宝なんかじゃない!! 困った人に手を差し伸べる優しさだろ!!! なんでアンタは──」

ガゼル:「──若い!! 臭い!! 浅い!! お前こそ何も見えていないじゃないか♪ なぁ〜ベア? お前からも言ってやれ、そんな単純なモンじゃないって教えてやれ♪」

お嬢さん:「どういう事……」

ベア:「……そのプリンスの優しさを、無下むげにするやからも……いる」

ガゼル:「きぬに優しく包むなぁ! 『いる』じゃない、大半がそうだ!! そうだろベア!」

ベア:「……」

ガゼル:「『助け合う』『なぐさめ合う』『手を差し伸べる』! 言葉にするのは簡単だ♪ そしてそれを実行していたのが、我らがプリンス。そしてその宝を配り、不幸を見てきたのは、俺達『ハッピースワロー』!!
プリンスは知らないんだ。かねを手にした時の、アイツらの醜さを!! 酒だ女だ、今までの不運を取り返そうと豪遊する馬鹿もいる。その手にした金を増やそうと博打ばくちで使い切る愚か者もいる!! そして金が全て無くなれば──ベア、続きを言え」

ベア:「っ……」

ガゼル:「言えよ♪ さっきから俺ばかりに喋らせているじゃねぇか! 美味しいところを譲ってやるって言ってんだ♪ ほら……早く♪」

ベア:「……プリンスに……牙を剥く」

お嬢さん:「えっ?」

ガゼル:「そう……逆恨みだ♪『もっと多くくれていたら』『宝なんて寄越すからこうなった』『今の不幸の原因はプリンスだ』!
テメェの浅はかさを他人のせいにするしか脳の無ぇ愚か者ばかり──そうだろ? さすがの俺も喋り過ぎている。お前らも話せ。お前らは無口にも程がある。俺に気にせず好きに話したら良い♪」

お嬢さん:「ベア……それが分かったから、ハッピースワローを……抜けた?」

ベア:「そういう輩の中にも、時間が経てば気付く者もいる……自分が愚かだったと……
プリンスは死んだ──でも俺の恩返しは続く。それは『ハッピースワロー』にいたのでは、もう出来ない。そう思っただけだ」

***********************

ガゼル:「前に報告に来たらよ? プリンスが倒れてたんだ。そこでプリンスが俺に話たんだ……自分の死期が近いって事をよ。
俺は皆に伝えようとしたんだぜ? そしたら『黙っていてくれ』って“お願い”されちまったんだ」

ウルフ:「ハッピースワローは、プリンスに救われた者達の集まりです。プリンスの“お願い”は、絶対なのでしょ?」

ベア:「絶対では無い……しかしその“お願い”を叶える事が恩返しだと……」

ウルフ:「──でしたら知らなくても仕方ない事です。お気を落とさずに」

ガゼル:「『ハッピースワローの終わりは近い』。プリンスの為に俺達はずっと働いてたんだ。ハッピースワローが無くなっちまったら、俺達はどうしたら良い? 元々は貧しい不幸な貧民だ。『はいそうですか。解散!!』なんて、簡単に割り切る事なんて出来やしねぇ! だから、この『ハッピースワロー』を終わらせる訳にはいかねぇ〜じゃねぇか」

ベア:「だから──金の卵を……」

ガゼル:「前に押収した宝の中に、金の鶏がいてな♪ 絶え間なく金の卵を産んでくれるんだ。これでプリンスがいなくなっても、ハッピースワローは継続できる♪ みんな食いっぱぐれる事なんて無い!! みんなハッピーだ♪」

ベア:「……俺は抜ける」

ガゼル:「……あ? ちょっと聴き取れなかった……ウルフ、今、ベアはなんて言ったんだ? 教えてくれ」

ウルフ:「『ハッピースワローを抜ける』と──」

ガゼル:「あぁ〜やっぱりそう言っていたのか……そっか……そっか! そっか!! あぁあぁやめろやめろぉ♪」

ウルフ:「っ!? ガゼルさん──」

ガゼル:「──俺はお前が大嫌いだったんだ!! ずっと眉間みけんにシワを刻んで黙々とプリンスの言うがままに働く!!
粛清しゅくせいしても宝を持ち帰らねぇで、勝手に周囲の貧しい奴らに配っちまう!! それなのに周りから『ハッピースワローのNo.1だ』っつって持てはやされ!! っんなんだお前はよぉ!! お前が宝を持ち帰って来てたら、それをやりくりして、プリンスはもっと長く生きられた!! プリンスが死ぬ事なんて無かったんだ!! お前がプリンスを殺したんだ!!!」

ベア:「……世話になったな (立ち去る)」

ウルフ:「ベアッ!! 待って下さ──」

ガゼル:「──ウルフゥっ!!」

ウルフ:「っ!?」

*************

お嬢さん:「……えっ? アタシが聞いた話と……違う」

ベア:「……?」

お嬢さん:「ベアは……押収した宝を盗んで、それを止めようとした仲間を殺して──そして逃げたって」

ベア:「俺は宝を盗んでいないし、仲間も殺していない」

お嬢さん:「ガゼル!! どういう事だ!!」

*********************

ウルフ:「よろしいのですか? ベアの実績は他の者達と比べても群を抜いております。仲間達からの信頼度も厚い……」

ガゼル:「……」

ウルフ:「このまま行かせてしまって、プリンスが死んだ事を言いふらされでもしたら──」

ガゼル:「──ハッピースワローは終わるなぁ〜」

ウルフ:「……」

ガゼル:「……なぁウルフ」

ウルフ:「はい……」

ガゼル:「不幸な奴らってのは、生まれた瞬間から決まっているのか?」

ウルフ:「……は?」

ガゼル:「お前は、教会から出る事を禁じられていた……だから出なかった」

ウルフ:「……はい」

ガゼル:「出ていたら、何かが変わっていたかもしれないと……考えなかったのか?」

ウルフ:「っ!? それは……」

ガゼル:「自分の醜さから、恋い焦がれた踊り子の女にすら、声をかけなかった……一言でも声をかけていたら、何かが変わっていたかもしれないとは、考えなかったのか?」

ウルフ:「私は……」

ガゼル:「ククク……まぁそれが出来りゃあ、苦労はしねぇよなぁ♪ 俺もそうだ。他人の事を言えた義理じゃねぇ♪」

ウルフ:「……」

ガゼル:「俺はもう不幸だった頃の俺じゃない♪ 自分の意思で、自分の考えで、自分の手で幸福を掴み取るすべを手に入れた──」

ウルフ:「……?」

ガゼル:「これからの筋書きはこうだ──俺がプリンスの“お願い”を聞き、それをみんなに伝える」

ウルフ:「はい……ハッピースワローの中では、ガゼルさんとベア以上の古株はもういません。しかし──」

ガゼル:「──ベアがプリンスの死を言い振らせばって話だろ? そんなの簡単に解決出来る♪」

ウルフ:「本当ですか! どうやって──」

ガゼル:「ベアの信頼度を下げちまえば良い♪」

ウルフ:「はぁ……信頼度を?」

ガゼル:「プリンスが死んだ事を知っているのは、俺とお前──そしてベア。ベアがハッピースワローを立ち去る理由を知っているのも俺達だけだ。つまり、ベアを裏切り者にしちまえば、何にも問題は無くなっちまう♪」

ウルフ:「なるほど──で、ではベアがプリンスの宝を持って逃げた事にすれば──」

ガゼル:「ぬるいぬるいぬるい♪ やはりお前は教会育ちの甘ちゃんだ♪」

ウルフ:「では、どうやって── (銃声) っ……え? ゴフッ……どう、し……て?」

ガゼル:「『ハッピースワロー』ってのは、プリンスの元に集まった甘ちゃんの集まりだ。地獄を知ってるからこそ死を恐れ、裏切りを憎み、けっして許さねぇ……それを与えてやったら良い♪ 簡単だろ?」

ウルフ:「そ、そん、な……私は……あなたの為に……」

ガゼル:「おいおいっ! ただでさえ虫みてぇな見た目だってのに、地を這っちまったら、虫その物じゃないか!!!」

ウルフ:「ガゼ、ル……さんっ」

ガゼル:「ベアはプリンスから宝を盗み出し、それを止めようとした仲間を殺して──逃げた♪ 実にシンプルで分かりやすい♪」

ウルフ:「ゴホッ……私は──」

ガゼル:「って事でウルフ! 新生プリンスからの初めての“お願い”だ……俺の為に死んでくれ♪ (銃声)」

ウルフ:「ぐふっ……」

ガゼル:「そうそうっその調子♪ 良い死にっぷりだ!」

*******************

ベア:「仲間を、殺したのか……ガゼル!」

ガゼル:「お陰様で、信頼していたベアに裏切られた憎しみをかてに、みんな今まで以上に働いてくれている♪ 金の鶏も大忙しだぁ〜っはっはっ!!」

お嬢さん:「アタシは……アタシは……
ベア、すまない。こんな奴の口車に乗せられてアンタを──ぐっ!!」

ガゼル:「ベア……お前に生きていられちゃあ、これから何かと不便なんだ。お前は言葉数は少ないが、人を惹きつける『何か』を持っちまっている。何がどうなって、お前の信頼が回復しちまうか、分からねぇ……不安なんだ。
だから、お前の首を持ち帰って『裏切り者を粛清しゅくせいした』という事実が必要なんだ。それをする事で、俺は本物のプリンスになる事が出来る」

お嬢さん:「何をふざけた事を……」

ガゼル:「ベア“お願い”だ──死んでくれ」

ベア:「貴様の“お願い”を聞く義理はない──」

ガゼル:「だったら“命令”だ!! (射撃)」

ベア:「(避ける) ちっ (射撃)」

お嬢さん:「ガゼル!! (切りかかる)」

ガゼル:「(受ける) おっほぉ〜♪ 二対一とは、そそる状況じゃねぇ〜か♪ お前もハッピースワローを裏切るのか♪」

お嬢さん:「裏切り者はアンタだった!! 許さない!! (切る)」

ガゼル:「だぁ〜ったらどうする♪ 俺を粛清しゅくせいするかぁ? はっはっそいつぁ〜難しいっ無理だっ不可能だっ!!」

ベア:「君は下がっていろ!」

お嬢さん:「私もやる!!」

ガゼル:「あぁ〜俺も下がった方が良いと思う♪ ベア一人なら俺を殺す事は可能かもしれねぇ〜が! お前は足でまといだっ!! (蹴り飛ばす)」

お嬢さん:「ぐっ!」

ガゼル:「お前ら俺には勝てない──だから出て来た♪ お嬢さん、お前が今ベアの弱点なんだ」

お嬢さん:「っ!?」

ガゼル:「ずっとベアは一人でやってきた。誰とつるむ事も無く、たった一人でだ♪ 他人の守り方を知らねぇんだ♪ だから俺は、お嬢さん──君を狙う。しかしベアは誰かを見捨てる事なんて出来ない甘ちゃんだ。実力の半分も出せない」

ベア:「お嬢さんっ逃げろ!!」

お嬢さん:「くっ!!」

ガゼル:「逃がさねぇよぉ♪ (射撃)」

ベア:「ちっ!! (射撃)」

お嬢さん:「(隠れる) ふぅ〜……ふぅ〜……」

ガゼル:「こそこそと隠れねぇで、出て来いよぉ〜お嬢さん♪ ベア♪」

お嬢さん:「アナタをずっと見て来たのに、ガゼルなんかの口車に踊らさせるなんて……」

ベア:「……俺がガゼルを引き付ける」

お嬢さん:「アタシは“ お願い”の合間をぬって、あなたが助けた人達の元を訪ねた」

ベア:「合図を出したら、君は振り返らず、来た道を真っ直ぐに逃げろ」

お嬢さん:「みんな温かい家族に包まれてた。そして話してくれた……出て来る名前は『プリンス』じゃなく──『ベア』……アナタの名前」

ガゼル:「どぉ〜こだぁ〜♪ 出て来ぉ〜いよぉ♪」

ベア:「行くぞ……」

お嬢さん:「これはあなたの温かい物語……アタシはそこで──」

ベア:「ガゼル!! (射撃) 俺が相手をする。一騎打ちだ!」

ガゼル:「(避ける) 断る! 二対一だ♪ 女を足枷あしかせに死んでもらわねぇと困ると言っているだろうが!! (射撃) そしてお前がそこから出て来たって事は──お嬢さんはそこか♪ (射撃)」

ベア:「そんな手の内を見せるか── (射撃) 今だっ行け!!」

ガゼル:「逃がすか!! (構える) ……ん?」

ベア:「──なっ!? 何をしている!! 早く逃げろ!!」

お嬢さん:「っ!! (飛び出してナイフを投げる) 小さな炎でも良いっ!! 一緒に燃える様に踊りたい!!」

ガゼル:「── (銃を落とす) くっ!! はかったなベア!!」

ベア:「馬鹿な!?」

お嬢さん:「(飛び出して押え込む) ベアっ!! 今だ!!」

ベア:「っ!!」

ガゼル:「ぐっ!! 放せっ!! ちくしょう!! なんなんだテメェは!! 離れ──ろ!!! (振り払う)」

お嬢さん:「──きゃっ!!」

ガゼル:「っ!?」

ベア:「(銃を突き付ける) 終わりだ」

ガゼル:「チッ……まさかこんな小娘が、戦力になるなんて……計算外だった」

お嬢さん:「アタシもハッピースワローなんだ……絶望は乗り越えてる」

ガゼル:「死を恐れねぇってのは……怖ぇ〜なぁ♪」

お嬢さん:「……なぜ──どうしてそんなに仲間を裏切り、騙してまでハッピースワローを継続させようとするんだ……」

ガゼル:「あ?」

お嬢さん:「プリンスを心から想うのであれば、死を受け入れ、プリンスの意志を継ぎ、押収した宝と、金の卵で組織は十分継続出来る──」

ガゼル:「──ひゃ〜っはっはっはっはっ!!!!」

お嬢さん:「っ!? 何がおかしい」

ガゼル:「プリンスを心から想う!? 意志を継ぐ!? 実に面白い事を言ってくれる!! だ、だめだぁ耐えらんねぇ!! ひゃっはっはっはっ!!! 俺がそんな下らねぇ事で動いていたと、本気で思っているのか!! こいつぁ〜傑作だ!!!」

お嬢さん:「ど、どういう事だ──」

ベア:「死なない身体……」

お嬢さん:「え?」

ベア:「絶望の中にいる時は、死など恐くない……それどころか、死を望む事すら必然」

お嬢さん:「……」

ベア:「プリンスに手を差し伸べられた事で、生きる希望を持ってしまった……死は恐いモノだと知ってしまった」

ガゼル:「あぁ〜……生きていれば好きな事が出来る。金を手に入れる事も、美味いものを食らう事も、良い女を抱く事も、何でも出来る。絶望の中見て来た夢を、現実のモノに出来るんだ!! それを誰かの為にわざわざ捨てるなんたぁ、とんだ馬鹿野郎だとは思わねぇか?」

お嬢さん:「っ!?」

ガゼル:「俺は、プリンスの為にたくさん働いて来た。けっして『NO』とは言わずに、全ての“お願い”を聞いてきたんだ! ベアもそうだろ? ハッピースワローの人間は全てそうだ!! 俺達は死を恐れているのに、死へと向かう奴の手助けをして来たんだ!!」

お嬢さん:「それがどうして『死なない身体』に繋が──」

ベア:「──英雄になる為……」

お嬢さん:「えっ?」

ガゼル:「……」

ベア:「プリンスは生前、持っている宝を貧困に苦しむ村に、町に、人に分け与えていた。そしてプリンスの死後、プリンスに救われた者達が各々の宝を持ち寄り、プリンスの銅像を作った……」

お嬢さん:「あぁ……その銅像に神の奇跡で生命が宿り──っ!?」

ベア:「そうだ……ガゼルはそれを狙っていた。ハッピースワローの英雄になり、世界各地から集められる宝で不老不死の銅像として、新たな命を得ようと……」

ガゼル:「俺はプリンスみてぇな馬鹿はしねぇ♪ 俺はその朽ちる事の無い身体で永遠に生きる!!
ベア! そこまで分かっていたら、この状況がどれだけ無駄な事かって事も、分かってるだろ? 俺が死んだら、ハッピースワローの内部に混乱が起こる♪ 俺の死、そしてプリンスの死!! ハッピースワローを支えていた英雄がいなくなっちまうんだ♪ そうなれば、世界各地から宝が集められて、今度は俺の銅像も作られる♪ 俺の新しい身体が──不老不死が完成するんだ!!」

お嬢さん:「そ、そんな──」

ベア:「……」

ガゼル:「俺をここで殺そうと無駄だ♪ その身体で、地獄の果てまでお前を追い詰めて、絶望の中で殺し──ハッピースワローの裏切り者として、お前の首をさらしてやる♪」

お嬢さん:「ベア……」

ガゼル:「お前は無惨に死に、そして俺は最高の永遠のハッピーを手に入れる!!!」

ベア:「……残念ながら、そうはならない」

ガゼル:「……あ? ククク……負け惜しみか?」

ベア:「きっとアンタの銅像も作られるだろう……世界各地から宝が集まってな」

ガゼル:「そりゃあそうだ!! ハッピースワローの一番の功労者──」

ベア:「──しかし、そこに生命が宿る事は無い……」

ガゼル:「……? どういう事だ」

ベア:「プリンスに宿った奇跡の生命は──心に宿ったモノだ。どんな宝にも勝る、優しく穏やかな綺麗な宝……
他人を犠牲にし、欲望という泥にまみれたお前の心には、生命は宿らない」

ガゼル:「ば、馬鹿を言うな……そんな訳がない! 俺はプリンスの望む通りに貧しい奴らを救ってきた!! プリンスの『命令』で、善を行ってきた!! 俺がアイツらを救って来たんだ!!!」

お嬢さん:「プリンスは『命令』はけっしてしない!!!」

ガゼル:「──っ!?」

お嬢さん:「アナタにはっ!! 誰かを気遣う心が無かった!! 私利私欲の為! 自らが優位な立場にいる事を確認する為に、アナタは──」

ガゼル:「──違う違う違う違う!!! 俺はっ!!! 俺は!!!!」

お嬢さん:「──プリンスの“お願い”を『命令』と受け取っていたのが、何よりもの証拠だ!!!」

ガゼル:「がぁぁああ!!!!! 死にたくないと思って何が悪いっ!! 生を求めて何が悪い!!! 食い物! 金っ!! 女!!! 俺は生きて!!! もっと多くを知りたいっ!! 全てを手に入れたいっ!!!」

ベア:「ガゼル──『ハッピースワロー』の名のも元に──粛清しゅくせいする」

ガゼル:「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ止めろ撃つな嫌だ死にたくn (射撃) ──い……」

ベア:「……生を望む事は、何も悪くない。幸せを望む事も……
しかし、その為に誰かの幸せを奪う事は間違っている……」

お嬢さん:「ベア……プリンスの死が、ハッピースワローに知れ渡る……これからどうなるんだ?」

ベア:「……」

お嬢さん:「手を差し伸べてくれる希望を失った不幸な人達は……もう──」

ベア:「──それは大丈夫だ」

お嬢さん:「え?」

ベア:「君が言ったんだ……
『プリンスが渡したかったのは宝なんかじゃない。困った人に手を差し伸べる優しさだ』と」

お嬢さん:「あっ……」

ベア:「君がそれを受け取った様に……他にもその気持ちを受け取った者達はいる。
ハッピースワローが無くなったとしても、その宝が誰かの心で輝いている限り、プリンスの心はずっと生き続ける」

お嬢さん:「あぁ、そうだな……
ベア、アンタはこれからどうするんだ? ハッピースワローに戻って、アンタがみんなを──」

ベア:「──やめてくれ。俺に全体を見れる様な度量はない」

お嬢さん:「じゃ、じゃあ……」

ベア:「俺の手の届く範囲で、俺は俺なりの宝をみんなに配っていくつもりだ」

お嬢さん:「……一緒に行って、良いか?」

ベア:「ん?」

お嬢さん:「アタシはアナタを追って来たんだ……アナタとプリンスのいなくなったハッピースワローに、何も未練は無い」

ベア:「……」

お嬢さん:「アナタが、アタシのハッピースワローなんだ」

ベア:「ふっ……言ったはずだ。こころざしが同じならば、誰がいつ入っても良い……好きにしろ」

お嬢さん:「あぁ♪」

************************

お嬢さん:「おばあさん、どうしてそんなにお耳が大きいの?」

モブB:お婆さん(?)「それはお前の可愛い声をしっかりと聞く為だよ♪」

お嬢さん:「ふぅ〜んそうなんだ♪ じゃあ、どうしてそんなにおめめが大きいの?」

モブB:お婆さん(?)「お前の可愛い姿をしっかりと見る為……だ、よ?」

お嬢さん:「じゃあじゃあ♪ なぜそんなに口が大きいんだ?」

モブB:お婆さん(?)「お、お前──赤ずきんじゃ、ない……だ、誰だ!?」

お嬢さん:「他人になりすまし、人を喰らう狼──近くの村から依頼があった。『ぜん』を執行させて頂く」

モブB:お婆さん(?)「くっ!! 子娘1人に何が出来る!! 喰らってやらぁぁぁ〜!!! (銃を突き付けられる) っあが? ──」

ベア:「二人だ……」

モブB:お婆さん(?)「な、なななんなんだよぉ〜お前らはぁぁ〜っ!!」

お嬢さん:「『ハッピーベア』──人に幸せを配って行く者だ♪」

モブB:お婆さん(?)「ひゃぁぁぁあ ── (射撃) ぁがっ」

お嬢さん:「ふぅ終わったな♪ さぁ、村に報告に行こう」

ベア:「……その『ハッピーベア』ってのは、なんだ?」

お嬢さん:「カッコ良くて、良いだろ?」

ベア:「やめてくれ……なんだかむず痒くて仕方ない」

お嬢さん:「えぇ〜良いだろ別に♪ これから世界中に広がって行くんだ」

ベア:「おぃおぃ、勘弁してくれ……」

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