【声劇・舞台】イチゾク(4人用)
利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
♂:♀:=3:0:1
約50分~70分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
山賊を舞台として書いた台本。
テーマは「奪う」。
男性ばかり登場しますが、女性の方も演じて下さって大丈夫です。
兼任兼任で、楽しんで下されば最高ですね♪
♂♀一之助:家を追い出され、良く当てなく山賊になった少年。 覚えが良く頭が良い。兼任有り。
♂盗右衛門:山賊の頭。頭の回転が早く残酷。しかしふと見せる優しさは……
♂ジンパチ:山賊の一人。 間抜けながらも頼りになる(?)。兼任有り。
♂ロクベエ:間抜け担当の山賊。怒られてもへこたれない。兼任有り。
♂菊四郎:ロクベエと兼任。冷酷な侍。
♂九龍:ジンパチと兼任。
♂父親:ロクベエと兼任。
♂用心棒:ロクベエと兼任。実は凄腕の侍。
♂♀モブA:一之助と兼任。
♂モブB:ロクベエと兼任。
♂モブC:一之助と兼任。
♂モブD:ジンパチと兼任。
一之助:「(全力で走る)
はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!
──だっ……つ……はぁっ! はぁっ!」
ロクベエ:「お頭……」
盗右衛門:「あ"ぁ?」
ロクベエ:「なんか分からねぇ鳥が……飛んでやすねぇ」
盗右衛門:「そりゃあ飛ぶだろ……鳥なんだから……当たりめぇだ」
ロクベエ:「へぃ……」
一之助:「(全力で走る)
はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!
──ぐぅっ……っ!! はぁっ! はぁっ!」
ジンパチ:「お頭……」
盗右衛門:「あ"ぁ?」
ジンパチ:「獣が鳴いてやすねぇ? 狼ですかねぇ?」
盗右衛門:「何処でだ? 捕まえて来い……」
ジンパチ:「ロクベエェ〜、何処でだと思う?」
ロクベエ:「わっからねぇ〜なぁ……」
ジンパチ:「何処にいるか分かれねぇんで……無理です」
盗右衛門:「下らねえ事で、口を開くな……」
ジンパチ:「すいやせん……」
一之助:「(泣きながら全力で走る)
はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!
──うぅっ……っ!! はぁっ! はぁっ!」
ロクベエ:「お頭……なんか、ガキが走ってやす──」
盗右衛門:「だあ"あ"あ"ぁぁ!!! さっきからうるせぇなぁおめぇらは!!!
ガキなんだから走るのは当たりめぇだろ!!!
次その臭ぇ口を開きやがったら、そのアゴ、粉々に砕くぞ!!!」
ロクベエ:「んんっ!? ん〜……ん」
ジンパチ:「あっはっはっはっはっ!!」
一之助:「(泣きながら全力で走る)
うぅ〜……ひっく……はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!
うぅっ……っ!! はぁっ! はぁっ!」
盗右衛門:「……?
ロクベエ……おめぇ、さっきなんて言った?」
ロクベエ:「ん〜……ん? んん〜っんん」
盗右衛門:「あ"? ……ジンパチ、ロクベエは何やってんだ?」
ジンパチ:「ぬぁ? ん〜、口が開けれねぇ〜みてぇですねぇ?」
ロクベエ:「んん〜!! ん、んんんん! ん!!!」
盗右衛門:「なんだ、喋れねぇのか……
ちょっと待ってろ、今斬り開いて──」
ロクベエ:「──ちょっとぉ!? 口を開けたらアゴが砕かれて、開けなかったら斬られるって、お頭、そりゃありませんぜぇ!!」
盗右衛門:「なんだ、開けんじゃねぇか」
ロクベエ:「喋れない様にしたの、お頭でしょうよ!!」
盗右衛門:「っんだと!?
ロクベエ……テメェ、俺が悪いってぇのか? あ"!!?
ジンパチ!! こいつを押さえろ
(刀を抜く)」
ジンパチ:「へぃ!」
ロクベエ:「あっ、ち、違いやす!! オラが悪い!! すいやせんっした!! 全部オラです!! お頭は何も悪く無い!! はい!!!」
盗右衛門:「ったく──だったら最初からそうやって謝れってんだ……」
ロクベエ:「へぇ……すいやせん (不服そうに)
ジンパチ、いつまでくっついてんだ、離れろ!!」
ジンパチ:「お? もう良いのか?
へいへぇ〜い……っと」
盗右衛門:「……で?」
ロクベエ:「……へ?
あぁ〜だから……すいやせん」
盗右衛門:「ちっげぇよ!!
だから、さっきなんて言ったんだ!!!」
ロクベエ:「……さっき? あぁ~
『オラが悪い。すいやせんっした。全部オラです。お頭は何も悪く無い。はい』?」
盗右衛門:「(ため息) 首を出せ……」
ジンパチ:「押さえやす!!」
ロクベエ:「ぬぇっ!? あ、違う!! えっと、えっと!!!
『な、なななんか!! ガキが!! 走ってやす』
って、い、いいい、言いやした! 言いやした!!!」
盗右衛門:「あ"ぁ!!? ガキが走って──
なんでそれを早く言わねぇんだ!!」
ロクベエ:「い、言いやしたのに……」
盗右衛門:「ジンパチ、みんなを叩き起こせ!! 仕事だ!!!」
ジンパチ:「へい!!! 野郎どもっ起きろぉ!!! 仕事だぁ!!!!」
一之助:「うぐっ……はぁっ! はぁっ! はぁっ! ──」
ロクベエ:「──止ぉ〜まりなっ、ガキ!!」
一之助:「ひっ!?」
ロクベエ:「こっから先は、通行止めだぁねぇ」
一之助:「あ、あぁ……さん、ぞく?
うわぁぁ!! ──」
ジンパチ:「──おぉ〜っと残念!! この道は一方通行、戻る事も出来ねぇ〜よぉ♪ へっへっへっ」
一之助:「あ、ぅあ……っ」
盗右衛門:「ガキが一人で、こんな山道を行く訳がねぇ……お外が楽しくなって、おっとうおっかあを置いて来ちまったか? あぁっはっはっはっ……あ"ん?」
ジンパチ:「お、お頭……このガキ、身なりが汚ねぇ」
盗右衛門:「あぁ、そうだな……
おいっガキ!」
一之助:「ひっ」
盗右衛門:「なんだテメェは……」
一之助:「あ、あぁ……」
ロクベエ:「汚ぇガキです」
盗右衛門:「んな事ぁ見りゃあ分かる!! 口を閉じてろ!!!」
ロクベエ:「またですかい……んむっ!」
ジンパチ:「懲りねぇなぁ……」
盗右衛門:「……おいガキ、おっとうとおっかあはどうした」
一之助:「あ……あぁ……っ…… (倒れる)」
盗右衛門:「っ!?」
ジンパチ:「恐さの余り、気絶しちまいやした……ね?」
ロクベエ:「んん〜♪ んっ、んん♪んっんっっん (笑)」
盗右衛門:「チッ……」
ロクベエ:「んんんん〜♪ んっ?」
盗右衛門:「……ロクベエ、よっぽど身体とお別れしたいらしいな?」
ロクベエ:「んへぇ!? お頭が口を閉じてろって!!」
盗右衛門:「(ため息)
(一之助に近付く)
着ているモンは上物だな……身ぐるみを剥いで、野良犬のエサにでも──」
ジンパチ:「──どぉわ!? なんだこれ……」
盗右衛門:「……どうした?」
ジンパチ:「コイツの足の裏! ズル剥けですぜ! あっひゃっひゃっひゃっ!! きっもち悪ぃなぁ!!!」
盗右衛門:「ん? なんだこいつぁ……どれだけ走ったらこんな事に──」
一之助:「……っ……ん〜っ……うぅ〜ん……」
ロクベエ:「アッチッ!? お頭、コイツの身体、すんげぇ熱いです」
盗右衛門:「熱……?
ジンパチ!
前に医者から奪ったモンの中に、ドクダミ、コウホネの粉があっただろ! 用意しろ」
ジンパチ:「ほぇ?」
盗右衛門:「ロクベエは川から水を汲んで来い!」
ロクベエ:「ぬぁ? なんで……?」
ジンパチ:「身ぐるみを剥いで野良犬のエサに──」
盗右衛門:「──早くしろ!!」
ロクベエ・ジンパチ:「へ、へい!!」
盗右衛門:「……チッ……」
一之助:「お父上見てください!
菊四郎おじさんに刀を教えて頂きました!
ほらっ、竹がこんなに綺麗に──」
モブD:「一之助、静かにしなさい。
お前は兄になったのだ。
しかし、養子であるお前に当家の跡を継がせる事はない。
何を学ぼうと、何を覚えようと無駄……お前はもう──必要無いのだから……」
一之助:「──うわぁぁあ!!!
はぁ……はぁ……
えっ……ここ、は?」
ロクベエ:「んぁ? おう、目を覚まし──」
一之助:「──うわぁぁあ!!!!!」
ロクベエ:「どわぁぁ!!? な、なななん、なんだ!?」
一之助:「あ、あぁ……あ……」
ロクベエ:「驚ぇたなぁもうっ! いきなり大声出しやがって……耳がキーンってしやがる……」
一之助:「だ、誰……です、か……?」
ロクベエ:「(少し声を大きく) んぇ! な、なんだって!」
一之助:「あ、あなたは……何なんですか?」
ロクベエ:「んぁ! もっと大きな声で喋ってくれねぇと、何も聞こえねぇよ! な、なんだって!?」
(盗右衛門が来る)
盗右衛門:「なんだ今の叫び声は──」
ロクベエ:「──あぁお頭!! ガキが目を覚ましやした!!」
盗右衛門:「──うるせぇな!! そんな大声で喋らなくても聞こえてるよ!」
ロクベエ:「ふぇ!? なんですって!!?」
盗右衛門:「だぁあっもう!! あっち行ってろ!!」
ロクベエ:「えっ!!!?」
盗右衛門:「あっち行ってろって言ってんだ馬鹿野郎が!!!」
ロクベエ:「へ、へぇ……あぁ〜耳がキーンってする…… (遠ざかる)」
一之助:「あっ……」
盗右衛門:「…… (近付く)」
一之助:「ひっ」
盗右衛門:「動くな」
一之助:「っ!? あ……ぅ……っ」
盗右衛門:「(一之助の額に手を当てる)
……熱はひいたか……
次は足だ──」
一之助:「いっ……た……」
盗右衛門:「……ガキ」
一之助:「っ! ……は、はい……」
盗右衛門:「逃げようなんて、考えるな……」
一之助:「っ……」
盗右衛門:「ジンパチ!」
ジンパチ:「へぃへぃへぃお頭!! お呼びですかぃ!!」
盗右衛門:「こいつが逃げねぇ様に見張ってろ……」
ジンパチ:「へぇ〜い」
(盗右衛門が立ち去る)
ジンパチ:「足の裏がこんなズル剥けじゃあ、逃げようにも逃げらんねぇだろうに……なぁ?」
一之助:「っ……」
ジンパチ:「まったくお頭は、素直じゃねぇなぁ!
おめぇが熱でうなされている間、気が気じゃねぇ感じで、アッシらの話す事なんて上の空!
『心配なら見に行ったらどうです?』って言ったら『なんで俺がガキの心配しなきゃなんねぇんだぁぁ!!』って、殴るは蹴るは……もぉぉ」
一之助:「……」
ジンパチ:「アッシらが怪我しても『唾付けとけ!』って言われるだけなのに、高価な薬まで使っちまって──
贔屓だ!! アッシだって甘やかされたい──」
盗右衛門:「──余計な事話してんじゃねぇよ!! (蹴る)」
ジンパチ:「──どぁっふん!? ほらまた蹴るぅ〜……」
盗右衛門:「っんな所でサボってねぇで、あっちで刀の手入れでもしてろ!!」
ジンパチ:「お頭が見張ってろって──」
盗右衛門:「言い訳すんじゃねぇ! ほらっ、行け!! (蹴る)」
ジンパチ:「ぁうっ! 痛い!!
わ、分かりやしたよぉ〜!! もぉぉぉぉ!!!」(立ち去る)
盗右衛門:「ったく…… (鹿肉を一之助の前に投げる)」
一之助:「っ!」
盗右衛門:「……食え……」
一之助:「……え?」
盗右衛門:「……食ったら寝ろ……
余計な事はするな……
もし逃げでもしやがったら、その足を叩き切って、野犬のエサにしてやる……」
一之助:「っ……」
盗右衛門:「……チッ…… (立ち去る)」
ロクベエ:「お頭ぁ〜! オラが残してた肉、知りやせんか!!?」
盗右衛門:「(遠ざかりながら) 知らねぇなぁ」
ロクベエ:「ふぇ!? なんて!!」
盗右衛門:「知らねぇっつってんだ!! (蹴る)」
ロクベエ:「いだっ!? なんで蹴るんですかぁぁ〜……」
(数週間後)
盗右衛門:「三郎太! この馬鹿が勝手に食わねぇ様に、干し肉を見張ってろ!!」
ロクベエ:「食いやせんよぉ」
盗右衛門:「ジンパチ! 刀はどうなってる!」
ジンパチ:「へい! 一箇所にまとめて置いてありやす!」
盗右衛門:「五助! ──五助はどこ行った!!」
ロクベエ:「朝から腹痛で、あっちで野グソしていやす!」
盗右衛門:「またか……ったく!」
一之助:「お頭さん……あの──」
盗右衛門:「ロクベエ! 引きずってでも良い、連れて来い!!」
ロクベエ:「えぇぇ!! クソの途中なんですよぉ〜? 嫌ですよぉ!」
盗右衛門:「時間が無ぇんだ!! 後にさせろ!! 急げ!!」
ロクベエ:「えぇぇ……」
一之助:「お頭さん!」
盗右衛門:「七平ぁ〜!! んな所で何してやがんだ!! 持ち場に付け!!」
ジンパチ:「お頭?」
盗右衛門:「なんだ!!」
ジンパチ:「ガキが……」
盗右衛門:「っ…… (ため息)」
一之助:「……お頭さん……あの──」
盗右衛門:「──もう動けんのか?」
一之助:「えっ……あぁ、はい」
盗右衛門:「そうか……」
一之助:「あの、命を助けて頂き、ありがとうござ──」
盗右衛門:「──だったら失せろ」
一之助:「……え?」
盗右衛門:「役立たずのガキのおもりは、もう十分だ。さっさと失せろ」
一之助:「あ、でも……」
盗右衛門:「命を助けた? 勘違いしてんじゃねぇ。
おめぇの親が現れたら、おめぇと引き換えに金目の物を要求してやろうと、人質にしていただけだ」
ジンパチ:「え、そうなんですか?」
一之助:「……」
盗右衛門:「金にもならねぇガキを置いとく義理は無ぇ──失せろ!」
一之助:「っ──お頭さん!
(土下座) ここで働かせて下さい!」
盗右衛門:「……あ"ぁ!?」
一之助:「私は親に捨てられました!! 私に行く場所がありません!!
皆さんに命を救われた、そのご恩を!! ──」
盗右衛門:「テメェ──!!! (蹴る)」
一之助:「──うぁっ──」
盗右衛門:「舐めた事ほざいてんじゃねぇぞ!!
家も無ぇ!! 食う物も無ぇ!! 俺達ゃ他人から奪って生き繋ぐだけの山賊だ!!
テメェみてぇなボンボンに何が出来る!!!」
一之助:「何でもやります!! 炊事に洗濯!!! 狩りだって覚えます!!!」
盗右衛門:「そんなモン! クソほどの役にも立たねぇ!!! ガキのテメェに出来る事なんざ、たかが知れてる!!!」
一之助:「文字も書けます!! 読めます!!! お願いします!!! どうか仲間に入れて下さい!!!」
盗右衛門:「まだ言いやがるか!!!
これ以上口を開くと、テメェの首、叩き切っ……て──」
一之助:「──お願いします!!!」
盗右衛門:「……」
ジンパチ:「……おめぇ、文字が読めんのか?」
一之助:「は、はい!!」
ジンパチ:「はぁ〜……すげぇな……」
盗右衛門:「チッ……」
一之助:「お頭さん!! お願いします!!!」
ロクベエ:「──お頭ぁっ、来やした!
はぁっ、はぁっ、あの商人の野郎が言っていた通り、用心棒が二人付いての合わせて──えっと……ひぃ、ふぅ、みぃ、よう、いつ、むう、なな……六人です!!」
盗右衛門:「そうか!! ──うっ! な、なんだこの臭い……」
ロクベエ:「あぁ〜、五助の野郎にクソを投げ付けられやして……こう、こうやって思いっ切り、こんな感じで……」
盗右衛門:「うっ……ば、馬鹿野郎っ近寄るんじゃねぇ!
チッ──それで! 荷はどうだ!」
ロクベエ:「へぇっ、天秤二本です!!」
盗右衛門:「よぉぉぉっし!!
野郎共ぉ!!! 仕事だぁ!!! 配置に付け!!! 片っ端から奪えぇ!!!」
ジンパチ・ロクベエ:「おぉぉおお!!!」
一之助:「あっ、お頭さん!」
ジンパチ:「近くで見てな……アッシらの仲間に入りてぇ〜ならな」
一之助:「っ……は、はい!!」
一之助:「凄い……あっという間に……」
ロクベエ:「お頭ぁ! これはどこに持った行けば良いんですかぃ!?」
盗右衛門:「ロクベエ! おめぇは荷に触るな!! 先に川に飛び込んで来い!!」
ロクベエ:「ふぇ? なんで──」
盗右衛門:「──なんでもクソもあるか! 行け!!!」
ロクベエ:「……へぇ〜い……」
ジンパチ:「お頭ぁ! こっちには食いもんがありやす!!」
盗右衛門:「荷を漁る前に、商人以外を殺せ! 街に戻って仲間引連れて来られても迷惑だ!
商人は、情報を聞き出してから放せ!! 何も吐かねぇ様なら仕方ねぇっ、殺せ!!」
ジンパチ:「へぇ〜い……」
用心棒:「うっ……くっ……たかが山賊に……せめて一人だけでも──っ」
一之助:「お、お頭さん! 私にも何か手伝える事はありま──」
用心棒:「──ぜぇぇああ!!! (斬り掛かる)」
一之助:「え──」
盗右衛門:「──チッ!! (斬る)」
用心棒:「──ぐあっ! ……はぁっ……はぁっ……」
一之助:「ひゃっ……あ……ぅあ……」
盗右衛門:「……ガキ、失せろと言ったはずだ……」
一之助:「は……はい……」
ジンパチ:「あ〜、すいやせん……
アッシが『ついて来い』って言ったんです」
盗右衛門:「……」
用心棒:「こ、殺せ……命を乞うのは……武士の恥だ……」
盗右衛門:「知るか!!! (殴る)」
用心棒:「ごふっ!!」
一之助:「っ! ……私は──」
盗右衛門:「(一之助に刀を差し出す)
斬れ……」
一之助:「えっ……」
盗右衛門:「こいつの首を落とせって言ったんだ」
用心棒:「っ……ふぅ〜っ、ふぅ〜っ!」
一之助:「そ、そんな……私には──」
盗右衛門:「あ"ぁ? こいつはおめぇを殺そうとしたんだ、遠慮なんてする事ぁねぇだろ」
一之助:「そ、そんな──」
盗右衛門:「おめぇの手で、こいつから命を奪うんだ。
それが出来ねぇってんなら、おめぇは山賊には向いてねぇ。無駄死にするだけだ」
一之助:「っ──」
盗右衛門:「宝や命を奪って生きる──それが俺達、山賊だ!」
ジンパチ:「お頭……」
用心棒:「ち、畜生共が……うぉぉぉおお!!!」
盗右衛門:「ガキ!!!」
一之助:「っ!!
う、うぁぁあああ!!!! (振り切る)」
用心棒:「──ぁがっ!! ぁ……がっ (息絶える)」
一之助:「はぁっ……はぁっ……はぁっ……
っ── (腰を抜かす)」
ジンパチ:「や、やりやがった──ただのガキが……」
盗右衛門:「クククッ……はっはっはっはっ……あぁ〜っはっはっはっはっ!!!
やれば出来るじゃねぇ〜か! え? はっはっはっはっ!!!
おいっジンパチ!! 見たか!! ガキの力で、刀を振り抜きやがった!!!
はっはっはっはっ!!!」
ジンパチ:「へ、へぃ! 見やした!!」
一之助:「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
盗右衛門:「ガキ! おめぇ、名はなんてんだ!!」
一之助:「へ?」
盗右衛門:「名前だっ名前!!」
一之助:「あ……一之助……です」
盗右衛門:「一之助? 長ぇな……
おめぇは『イチ』だ!
分かったか、イチ!」
一之助:「は、はいっ!!」
盗右衛門:「ジンパチ! 肩を貸してやれ!!」
ジンパチ:「へ? ……へぃ!
おいイチ、捕まれ」
一之助:「あ、すみません──」
盗右衛門:「イチ!!」
一之助:「っ! は、はい!!」
盗右衛門:「欲しいもんは奪え!
生きてぇなら奪え!!
死にたくねぇなら奪え!!
俺達は山賊だ……俺達は自由だ!!!
しかし奪う以上! 自由を求める以上! 奪われる覚悟は持ってろ!!!
それが、明日も見えねぇ俺達の──山賊の生き方だ!!!
分かったか!!!」
一之助:「は……はい!!」
盗右衛門:「はっはっはっはっはっ!!!」
ロクベエ:「ジンパチジンパチジンパチよぉ」
ジンパチ:「ん? なんだ」
ロクベエ:「イチが来てから、お頭が……優しいんだ」
ジンパチ:「んあぁ〜……そうだな」
ロクベエ:「なんでだと思う?」
ジンパチ:「知らねぇよ……」
ロクベエ:「でもオラ達は相変わらず殴られる……」
ジンパチ:「今日は何したんだ?」
ロクベエ:「お頭の器を割っちまった……」
ジンパチ:「……よく殺されなかったな」
ロクベエ:「な?」
ジンパチ:「な? じゃねぇ〜よ……ったく
おっ、イチだ……」
ロクベエ:「おっ!! イチイチイチイチ!!!」
一之助:「あ、はい! なんでしょうか」
ロクベエ:「こっち来いこっちこっち!!」
一之助:「は、はい!
……はい、なんですか?」
ロクベエ:「……なんだろうね?」
一之助:「はい?」
ジンパチ:「そういうところだぞ?」
ロクベエ:「へ?」
ジンパチ:「(ため息) イチ、ここの生活には慣れたか?」
一之助:「はい! みなさんが優しくして下さるので!」
ジンパチ:「山賊が優しいってのも変な話だが……それなら良かった」
一之助:「はい! お頭さん、ジンパチさん、ロクベエさん達に命を救われて、私ももっと精進し、みなさんのお役に──」
ロクベエ:「──くわぁぁてぇ (堅ぇ) !!!!」
ジンパチ:「うぉ!? な、なんだ急に──」
ロクベエ:「堅ぇんだよ! やだ!! オラは堅ぇ話はやだ!!」
ジンパチ:「そんな難しい話はしてなかっただろ?」
ロクベエ:「ショウジン? スクワレ??
な、なんなんだよぉ〜!! やだ!!!
イチ!! オラにも分かるように話せ!!!」
一之助:「あ……すみません……」
ロクベエ:「『スミマセン』じゃねぇ!!
『すまねぇ』!!!」
一之助:「は、はい……『すまねぇ』」
ロクベエ:「『ハイ』じゃなく『へぃ』!!」
一之助:「は──じゃなくて『へぃ! すまねぇ!』」
ロクベエ:「許す!!」
ジンパチ:「許すじゃねぇよ!! 満足そうな顔しやがって……」
ロクベエ:「へへっ!」
ジンパチ:「まぁ、山賊には堅っ苦しい言葉はいらねぇ。
アッシらは仲間で、家族みてぇなもんだ。
アッシらの事は呼び捨てにしろ」
ロクベエ:「あぁ!!」
一之助:「いや、でも私はまだ見習いの──」
ロクベエ:「──『ワタシ』!!!」
一之助:「え?」
ジンパチ:「そうだなぁ、『私』も堅ぇ……
『アッシ』『オラ』『オイラ』『ワシ』……どれが良い?」
一之助:「え? ど、どれ、ですか?」
ロクベエ:「『オイラ』!!」
ジンパチ:「おめぇが選ぶんじゃねぇよ!
まぁいいや。
イチ、おめぇは今から自分の事を言う時『オイラは』だ!!」
一之助:「え? 『オイラ』……ですか?」
ロクベエ:「『オイラか』!!!」
一之助:「は、はい! 『オイラか』!!」
ロクベエ:「『へい!! オイラでごぜぇやすかい』!!!」
一之助:「『へい!! オイラでごぜぇやすかい!!!』」
ジンパチ:「変わってんじゃねぇか!」
ロクベエ:「へへっ!」
ジンパチ:「んまぁ、堅くなるな! 楽しくやろうや……なぁ?」
一之助:「は──っ、へい!!!」
盗右衛門:「イチ!! 来い!!」
一之助:「あっはい!!!
では──
じゃなくて、えっと……
じゃあ、お頭が呼んでいるので──から、失礼──えっと──い、行ってくらぁ!!!」
ジンパチ:「おぅ!」
ロクベエ:「あいよ!!」
一之助:「ありがとうござ──
ありがとよ!!」
盗右衛門:「イチ!!!」
一之助:「へい!!! 今行きま──行きやす!!! (走り去る)」
ロクベエ:「……良い奴だなぁ」
ジンパチ:「あぁ……だな」
ロクベエ:「……後で殴られるかな?」
ジンパチ:「……かもな」
一之助:「だぁぁあ!! てぇや!! だりゃあ!!! (刀を打ち合う)」
盗右衛門:「っ! とっ、よっ」
一之助:「たぁぁぁあ──」
盗右衛門:「あらよっと」
一之助:「──うわぁ……」
盗右衛門:「っしょ! (首に刀を触れる)」
一之助:「っ! ……ま、参りま──参りやした……」
盗右衛門:「……? お、おぅ」
一之助:「はぁ、はぁ……まったく歯が立たない……」
盗右衛門:「当たりめぇだ。
おめぇみてぇなガキにやられて、山賊の頭が務まるかってんだ」
一之助:「……はい」
盗右衛門:「だが、スジは悪くねぇ。
良いお師さんに習ってたんだろなぁ。太刀筋が基本過ぎて、面白くねぇ」
一之助:「……あの」
盗右衛門:「あ?」
一之助:「お頭は……どうして山賊になったんですか?」
盗右衛門:「……なんでそんな事を聞く」
一之助:「あ、いえ……なんとなく……」
盗右衛門:「……山賊になる様な奴は、ろくな生き方をしてきてねぇ奴だ……
親に捨てられ、進む道を見失い、泥水をすすって生き繋ぎ、それでも死にたくねぇってんで、窃盗、強盗、殺し……
語りたくもねぇ生き方をしてきた奴らばっかりの集まりだ」
一之助:「はい……すみません」
盗右衛門:「……へっ、俺が山賊をやっている理由は──復讐……」
一之助:「……復、讐……それって──」
盗右衛門:「──おらっ! 無駄話をしてサボるんじゃねぇ!! そっちから来ねぇなら、俺から行くぞ!!
だぁぁらっ!! (斬りかかる)」
一之助:「──うわっ!? お、お頭!!」
盗右衛門:「余計な事は考えるな!
金も命も女も! 欲しい物は奪え!!」
一之助:「うわっ! たっ! ま、待って──」
盗右衛門:「俺達ゃ山賊だ! 奪わねぇと生きらんねぇん──だっ!! (吹き飛ばす)」
一之助:「──ぃだっ!! たたた……」
盗右衛門:「だからよ、イチ……
『お頭』の名前が欲しくなったら、俺から奪ってみろ。
奪えるもんならな!!
はっはっはっはっは!!!!」
一之助:「……お頭……」
盗右衛門:「さて──特訓はおしめぇだ!
飯の支度をして来い!!」
一之助:「へぃ!!」
盗右衛門:「俺は…… (ため息)
ロクベエ!! ジンパチ!!!」
ロクベエ:「ふぇ!?」
ジンパチ:「へ、へい!?」
盗右衛門:「イチにしょうもねぇ事を教えた罰だ!! 本気で相手してやる!! 来いっ!!」
ロクベエ・ジンパチ:「ひえぇぇぇえ!!!」
父親:「九龍様、お支払いの方はいつまで待てばよろしいのですか!!
戦で使用致しました薬や、ウチの者達の給金!!
払って頂かなくては、ウチは──」
九龍:「──そう急くんじゃありませんよ。私がケチに聞こえるではないですか。
戦なんてモノは、いつ起こるか分からない『天災』のようなモノです……
私と致しましても、おいそれと支度できる額ではありません」
父親:「そう申されましても、その支払いがありませんと、新たに薬を買う事も出来ません!!
私を頼って来られる患者様達もいらっしゃ──」
九龍:「──くどい!! 無いものは無いと申しておるのです!!!」
父親:「っ……」
九龍:「……このまま支払わない方が……あなたにとって、良い事かもしれませんなぁ?」
父親:「……は? それはどういう事で──」
九龍:「──自分の財産を投げ打って多くの武士を治療した。
我が身を省みずに人助けに尽力した名医。
医者の中の医者……まさに医者の鑑。
後世にまで語り継がれる名医として、その名が時代に刻まれる」
父親:「そんな馬鹿な──そんな馬鹿げた話が!! ──」
九龍:「(手を二回叩く)
お客様のお帰りだ! 玄関までお送りしろ」
父親:「ま、待ってください!! まだお話は終わっていません!! は、離せ!! 離せぇ!!!」(退場する)
九龍:「……ん? 聞いておったのか。
この都で名が売れたのが誰のおかげか……分かっておらぬ阿呆が多くて困る。
お前もよく見ておきなさい……私の仕事を……」
(数日後)
盗右衛門:「ジンパチ!」
ジンパチ:「へ、へい!!?」
盗右衛門:「なんで出て来んが遅れた?
茂みに伏兵が隠れてたのを、おめぇ知ってやがったか!! あ"ぁ?」
ジンパチ:「す、すいやせん……
い、いやぁアッシはただイチに『お頭の合図で出ないで、遅れて出て来てくれ』って頼まれてやっただけで……」
盗右衛門:「イチに? ──イチ!!」
一之助:「へぇ!! なんでしょう!!」
盗右衛門:「ジンパチから聞いた……」
一之助:「あ……勝手な事をして、すいやせん」
盗右衛門:「なんでそんな指示を出した」
一之助:「へ、へぇ……荷を運ぶ商人達の視線が、妙に感じやして……」
盗右衛門:「妙……?」
一之助:「山賊を警戒するなら、全ての方向を見るはずなのに、チラチラと後方ばかり気にしてる様でして、それで……」
盗右衛門:「なるほどな……」
一之助:「すいやせん!!」
ジンパチ:「すいやせん!!」
盗右衛門:「……さっきから何を謝ってやがんだ」
一之助:「え?」
ジンパチ:「へ?」
盗右衛門:「二人ともよくやった!!!
あのまま伏兵に気付かなかったら、敗戦はしねぇまでも、被害は甚大だった!!」
ジンパチ:「お、お頭の命令に従わなかったのに……?」
盗右衛門:「お? 勘違いすんじゃねぇ!!
俺は最善だと思う指示を、おめぇらに出しているだけだ!!
もっと良い策がありゃあ、その策に従ったら良い。
それがおめぇらに出来ねぇから、俺が命令してんだ」
ロクベエ:「あっ! それだったら次、オラに良い策が──」
盗右衛門:「──おめぇは黙ってろ!!」
ロクベエ:「あ~~~……へぃ」
盗右衛門:「イチ」
一之助:「へぃ!!」
盗右衛門:「俺の策を理解しろ! そして、おめぇは自由に動け。
俺がおめぇの策を分かってやる!」
一之助:「っ……へぃ!!」
一之助:「つぁぁあ!! (斬りかかる)」
盗右衛門:「まだだ! まだ綺麗過ぎる!! (払う)」
一之助:「くっ──てぇあ!!」
盗右衛門:「体勢を崩すんじゃねぇ! 相手を誘え──」
ジンパチ:「──お頭ぁ! お頭お頭お頭!!」
盗右衛門:「なんだ! 一回呼べば分かる!!」
ジンパチ:「侍が一人で歩いて来やす!!」
盗右衛門:「あ"? 侍が? そう──かっ!! (蹴る)」
一之助:「──ぐほっ!!? ……がっあ?」
盗右衛門:「油断するな……殺し合いの場じゃあ、相手は待ってくれねぇ」
一之助:「へ、へぃ……いっつぅ~……」
盗右衛門:「ジンパチ、どこだ」
ジンパチ:「へぇ、こっちです!」
ジンパチ:「あ、お頭! アレです。
キレイな着物の……」
盗右衛門:「あ"?
(ため息) ……アレはやめておけ。
あんな、常に殺気を垂れ流して歩いている様なヤツ……ろくな事にならねぇ──」
ジンパチ:「──んでもお頭ぁ〜! アッシら、昨日から何にも食べれていやせんぜ……なぁ?」
ロクベエ:「んあぁ~腹の虫が暴れて、腹を食い破って出て来ちま居そうです」
盗右衛門:「おめぇがうっかり、捕まえた鹿を逃がしちまうからだろ!!
良いから、アレは放って──」
ロクベエ:「──んな!? おめぇら!! お頭が『良い』ってよぉ!! 仕事だぁぁ!!!
奪えぇ!!!」
ジンパチ・ロクベエ:「うぉぉぉおおお!!!!」
盗右衛門:「っな!? ちょっと待て!! おめぇら!!
あぁ……チッ、あの馬鹿共が……」
一之助:「……お頭」
盗右衛門:「(ため息) 仕方ねぇ……イチ、俺達も行くぞ」
一之助:「へぃ!」
ジンパチ:「ちょっと待ちなよ、そこの兄さん」
菊四郎:「……何用ですか?」
ジンパチ:「へっへっへっ……
『何用ですか?』だってよ?
へっへっへっ……何用とは、勘の悪い兄さんだなぁ?
この状況を見て、分からねぇかい?」
菊四郎:「……分かりかねますねぇ。あいにくケモノと話す言葉は、持ち合わせておりませんので……」
ジンパチ:「だったら、命乞いなんてのも、無駄だって事ぁ〜分かっている訳だ」
菊四郎:「えぇ……そうですね (刀を抜く)」
ジンパチ:「へっへっへっ……野郎共!! やっちまえ!!!」
ロクベエ:「死ねぇ!!」
モブA:「はっはぁ!!」
菊四郎:「しっ! (斬る)
つぁ!! (斬る)
たっ!! (斬る)」
モブA:「あぐぁ!!」
ロクベエ:「だぁ……がっ……」
ジンパチ:「ロクベエ!!? っのやろぉぉお!!
ロクベエ!! ロクベエ!!」
ロクベエ:「あっ……が……じ、ジンパ、チ……
オ、オラ……死んじまうの……か?」
ジンパチ:「ロクベエ!!
もう喋るな!! おめぇは休んでろ!!」
ロクベエ:「し……にたく……ねぇ……よぉ (気絶)」
ジンパチ:「ロクベエ!! ロクベエェェ!!!」
菊四郎:「すぅ〜……」
ジンパチ:「あっ……くっ……おめぇら何やってんだっ、相手は一人だ!! 一斉にやっちまえ!!!」
モブB:「死ねぇぇぇ!!!」
モブC:「うぉぉぉお!!!」
盗右衛門:「やめろ!!」
ジンパチ:「──お頭!!
へっへっへっ……テメェも、ちょっとは腕がたつみてぇだけどな!
お頭が来ちまったら、テメェももう終わりだ!! あの世でロクベエに謝りやがれ!!」
菊四郎:「……」
盗右衛門:「……ロクベエ…… (舌打ち)
(ため息)
このっ (殴る) 馬鹿野郎っ (殴る) 共がっ (殴る)」
モブA:「あぅ!!」
モブB:「だふ!!」
ジンパチ:「がっほん!!」
盗右衛門:「相手の力量も考えねぇで勝手に突っ走りやがって!!」
ジンパチ:「えっ!? お、お頭が『良い』って──」
盗右衛門:「──俺は『構わねぇで良い』って言ったんだ!! (蹴る)」
ジンパチ:「げぇあっぶ……そ、そんな……」
菊四郎:「……あなたが、この者達の親分さんですか?」
盗右衛門:「あぁそうだ……
(ため息) お兄さんよ、すまねぇなぁ。
最近こいつらも、まともに飯を食えてねぇんで、冷静さを欠いちまっていた。
こちらから、けしかけておきながら勝手な物言いだが……ここは刀を治めてくれねぇか?」
ジンパチ:「お頭っ、なんでですかい!
この野郎はロクベエを──」
盗右衛門:「──うるせぇ!! (蹴る)」
ジンパチ:「ぐあっぶぁ!! 」
盗右衛門:「俺の言う事を聞かねぇで勝手に動いた結果だろうが!!!
(深いため息)
お侍さんよ、この通りだ……
あんたの刀は、こんな馬鹿共を斬る為にあるのかい?」
菊四郎:「あなたが私と刀を交える──という訳ではないのですか?」
盗右衛門:「はっはっはっ! 滅相も無ぇ!
そんなもん、自ら自分の首を差し出すみてぇなもんだ!!」
菊四郎:「良い死合が出来そうだと、私は思うのですが……」
盗右衛門:「買い被ってくれるじゃねぇか……たかだか山賊の頭一人に、あんたとやり合える程の力は無ぇよ」
菊四郎:「しかし──道を歩いていただけで、命を狙われた。
私でなければ、命を奪われていた……
『許してくれ』『はい許します』で通る道理だとは思えませんが?」
ジンパチ:「てめぇ……お頭がこうやって頭を下げてやってるってのに──」
盗右衛門:「──ジンパチ!!」
ジンパチ:「っ」
盗右衛門:「……そいつはごもっともな話だ。
だが、あいにく俺達にはアンタに差し出す詫びってもんが無ぇ……」
菊四郎:「……」
盗右衛門:「俺を含めたコイツらとやり合うってなると……生きて帰る自信ってのは──アンタ、どうだい?」
ジンパチ:「っ── (刀を構える)」
菊四郎:「……ふふふふっ……
先程とは打って変わって……皆さんの顔付きが引き締まりましたね。
位置取りも素晴らしい……
あなたは、良い親分さんです」
盗右衛門:「こりゃどうも……」
一之助:「お頭…… (刀を構える)」
盗右衛門:「おう……」
菊四郎:「ん……おや? ……そこにいるのは──
一之助坊ちゃん?」
一之助:「……あ"?」
菊四郎:「やっぱりそうです! 大変汚らしい身なりをしてらっしゃいますが、間違いない! 一之助坊ちゃん!!
私です! 叔父の菊四郎でございます!!」
盗右衛門:「……叔父?」
一之助:「菊四郎……おじさん?」
菊四郎:「えぇえぇ!
なんと、こんな所で出会えるとは!
坊ちゃんがいなくなってから、必死に探したのですよ!
はぁぁぁっ、それがまたこんな……山賊のマネ事などなされて……」
ジンパチ:「マネ事だと!!」
菊四郎:「──マネ事でしょう!
スジの良い親分さんはいらっしゃる様ですけど、あなた達の様なドブ臭いケモノ風情が、一之助坊ちゃんと同じ空気を吸うなんて、おこがましい!
一之助坊ちゃんは、当家の跡継ぎになられる方なのですよ!
それがなんと……はぁ〜……嘆かわしい」
ジンパチ:「言わせておけば、このクソ侍が……」
一之助:「……」
菊四郎:「さぁっ帰りましょう!
兄上も心配しておられます!
さぁ!! (腕を掴む) ──」
一之助:「──っ!! 離せ!!! オイラは帰らねぇ!!」
ジンパチ:「おうおうおう!! 勝手に話を進めてくれちまいやがって!
アッシ達を、えれぇ〜馬鹿にしてくれるじゃねぇ〜か、このヘボ侍さんよぉ!! あ"ぁっ!!
今の状況、分かってんのか?
たった一人で、アッシら全員のこの包囲を相手するってのか? あ"ぁ!!?
はっはっはっ!! こいつぁ〜傑作だぁ!!
逃がす訳ゃあねぇだろ!! ロクベエの墓に供えるテメェの首!! アッシがもぎり取ってやらぁ!!! ──」
盗右衛門:「──っ!! ジンパチ、やめろ!!!」
菊四郎:「しっ (抜刀する)」
ジンパチ:「──ふぇ?
……ふぁ!? あ!! あぁぁぁ!!!! 腕が!! アッシの腕がぁぁぁぁ!!!! あぁぁぁぁ!!!!」
一之助:「ジンパチ!!」
菊四郎:「汚い息を、私に吹きかけないで下さい……まったく」
ジンパチ:「腕ぇぇぇ……アッシの、アッシの腕がぁぁ!!!」
盗右衛門:「てめぇ……」
菊四郎:「せっかくの陣形が台無しですよ……腕一本で済んだ事、感謝してください。
そうですねぇ……
『一之助坊ちゃんを今まで保護してくれたお礼』という事で、今回はこの刀は納める事に致しましょう。
これで貸し借り無しです」
ジンパチ:「ふ、ざけやがって……」
一之助:「何が貸し借り無しだ!!
ロクベエを斬った上にジンパチの腕をぶった斬りやがって!!
それにオイラを連れ帰ったところで、オイラはアイツらに捨てられたんだ!! 弟が跡継ぎになる!!! オイラはお払い箱だ!!!」
菊四郎:「いいえ!! 今や、一之助坊ちゃんが当家の要。
だって……宗二郎坊ちゃんは、お亡くなりになられたのですから」
一之助:「……は? 宗二郎が……死んだ?」
盗右衛門:「……」
菊四郎:「次男であられる宗二郎坊ちゃんが生まれた時、私は『一之助坊ちゃんはもう、跡継ぎになれないのだ』と、悟りました。
それはそうです……いくら二人が自分の子とは言え、血の繋がりの無い養子の子より、実の子の方が可愛いものです」
一之助:「っ……」
菊四郎:「しかし、私は一之助坊ちゃんが養子として迎えられた頃よりずっと、一之助坊ちゃんを見ておりました。
初めて私と言葉を交わした時……
初めて私と町に出た時……
初めて刀を握った時……
刀の道を歩んでおりました私にとって、それはとてもこの世の物とは思えない程の幸福な時間。
はぁぁ〜……これが子を持つという事なのか、と……これが無償の愛なのかと……
私は、この子の為の刀になろうと──そう思いました。
一之助坊ちゃんこそが、この家を継ぐ者なのだと!!」
盗右衛門:「良く喋る野郎だなぁ、おいっ──」
菊四郎:「──動かないで下さい (ジンパチに刀を向ける)」
ジンパチ:「っ! お、お頭ぁ……」
菊四郎:「まだ話の途中です」
盗右衛門:「ちっ……」
菊四郎:「一之助坊ちゃんが姿を消した後、私は兄上を問い詰めました。
そうしたら案の定……
私は悔しかった! 悲しかった!!
一之助坊ちゃんの刀ともあろう私が、なんという体たらく!!
私は探しました!! それこそしらみ潰しに!! 近くを巣食う山賊の根城、盗賊の住処、片っ端から!!
──そこでふと、気付いたんです」
盗右衛門:「その弟がいると、戻って来ねぇ」
菊四郎:「……えぇ。
宗二郎坊ちゃんのせいで一之助坊ちゃんは家を出た……
宗二郎坊ちゃんがいる限り、一之助坊ちゃんは、戻っては来ない」
盗右衛門:「だから殺したのか?」
一之助:「は!?」
菊四郎:「とんでもない!!
甥っ子を手にかける叔父が何処にいますか!」
盗右衛門:「嘘をつけ……てめぇからは性根の腐ったキツネの匂いがプンプンしやがる」
菊四郎:「……ちょいと盗賊にお小遣いをお渡ししただけです」
盗右衛門:「ㇵッ……」
一之助:「そんな、そんな事で宗二郎を!! ──」
菊四郎:「──そんな事? 何をおっしゃるのですか!
一之助坊ちゃんを跡継ぎにする為に必要不可欠な事! 私は一之助坊ちゃんの刀として当然の事をしたまでです!!」
一之助:「てめぇぇぇええ!!!! (斬りかかる)」
盗右衛門:「──待て!!!」
一之助:「お頭、止めねぇでくれ!! オイラはコイツを──」
盗右衛門:「──イチ!!!!」
一之助:「っ!」
盗右衛門:「……おめぇ、武士にでもなったつもりか。あ"ぁ?
弟が殺されて、頭に血が上っちまったか? はっ、滑稽な話だなぁ〜おいっ。
良いトコの坊ちゃんが、その家に居づらくなったから家出をして? 邪魔者を排除したから、帰って来いと言う」
一之助:「お頭──」
盗右衛門:「俺達ゃ山賊だ!
住む家もねぇ、食う物もねぇ! 明日生きてるのかも分からねぇ山賊だ!!
住む家があるってぇのに、おめぇは山賊になりやがった……俺達を馬鹿にしてんのか?あ"ぁ!!」
一之助:「っ……ち、違う──」
盗右衛門:「何が違うってんだ!!!
こんな時代に一人死ぬも二人死ぬも変わらねぇ!! それが自分の身内でも、なんらおかしくねぇ時代だ。
それでおめぇは『自分の家』を手に入れた!!
それも『自分の手を汚すこと無く』だ!!!
そんな奴が、山賊を名乗る資格は無ぇ!!!!」
一之助:「っ……オイラは……お頭! オイラは──」
盗右衛門:「うるせぇ!!!! (平手で殴る)」
一之助:「ぐふっ!? あっ……あがっ……」
菊四郎:「──一之助坊ちゃん!!
あなた!! 一之助坊ちゃんに手を挙げるなんて──」
盗右衛門:「──やかましい!!!
本来なら首をねじ切ってやるところを、一発で勘弁してやるってんだ!!! 返して欲しけりゃ黙って見てろ!!!!」
菊四郎:「まったく野蛮な!」
一之助:「お頭……言わせておけばぁぁ!!
気に入らねぇ事があったらすぐに殴るわ! やっとの事で狩った獲物を横取りするわ!!『分け前だ』っつって寄越すのは骨だけ!!
何が仲間だ!! アンタはオイラ達を利用して私腹を肥やしていたにすぎねぇ!! オイラ達はアンタの奴隷じゃねぇ!!!」
盗右衛門:「っんだと!!! あのままほっときゃあ、おめぇはそこらの野犬のエサだった!! それを助けてやったのは誰だ!? あ"ぁ!!!
今日まで生きてこられたのは誰のおかげだ!! 言ってみろ!!!」
一之助:「誰が助けてくれって頼んだよ!!
ガキが一人で山を走ってた!! 金の臭いがして襲ったら、無一文の家無しだったってだけだろ!!
山賊の頭が恩着せがましい事言ってんじゃねぇ!!」
ジンパチ:「お頭ぁ〜……血が、血が止まらねぇよぉ……」
盗右衛門:「おめぇも! 腕を斬られたくれぇでガタガタ情けねぇ声出してんじゃねぇ!!!」
ジンパチ:「そ、そんな事言われやしても……アッシの腕が……」
菊四郎:「ふぅ〜!!!」
盗右衛門:「チッ……ジンパチももう限界だ!
おいっ! コイツが帰れば、ジンパチは返してくれるんだろ!!!」
一之助:「っ……」
菊四郎:「……えぇ。この方の腕はお返し出来ませんが」
盗右衛門:「それはコイツが不用意に斬りかかったからだ……返せとは言わねぇよ」
菊四郎:「ふふふっ」
盗右衛門:「……イチ……二度と会う事は無ぇ……」
一之助:「お頭……」
菊四郎:「もうお別れはよろしいのですか?
では一之助坊ちゃん、屋敷へ帰りましょう!!」
一之助:「あぁ…… (菊四郎の方に歩き出す)
──お頭!!」
盗右衛門:「……おめぇのやるべき事をやれ」
一之助:「へぃ……ありがとうございます!」
菊四郎:「あぁ〜! 一之助坊ちゃん!!!
ようやく私の元へ帰って来てくださった!!!
この日をどれほど待ちわびた事か!!
一之助坊ちゃんを失った日から、私はもう生きている心地が全く無かった!!
今日ほど、生きていて良かったと思った日はありません!!!」
一之助:「……」
盗右衛門:「ジンパチ!!」
ジンパチ:「(弱々しく) ふぇ? あ、あぁ〜……ふぇい…… (這いながら盗右衛門の元へ)」
菊四郎:「はぁぁぁ大変たくましく成長なされてぇ……はぁぁ〜ん!
一之助坊ちゃん! 一之助坊ちゃん!! 一之助坊ちゃん!!!
はぁぁぁ〜……親分さん?」
盗右衛門:「あ"?」
菊四郎:「お屋敷に戻りましたら、こちらに遣いの者を送ります。
心ばかりではありますが、山賊風情には一生かかっても手にする事の出来ない品をお贈りさせて頂きます」
盗右衛門:「……期待しねぇで、待ってるよ。
じゃあな………」
菊四郎:「一之助坊ちゃんが帰って来られた事で、これで九龍家も安泰です!!
兄上もさぞかし喜んで下さる事でしょう!!!」
盗右衛門:「……は?」
菊四郎:「一之助坊ちゃんには、より一層の九龍家の跡継ぎとして相応しくなって頂く為に、剣術を初め、色々と学んで頂かなくては!!
あぁぁその前に、まずはその汚らしい格好を何とかしなければ!!
近くの宿をお借りして、着物を着替えて頂きましてから──」
盗右衛門:「──今……なんてった?」
菊四郎:「……おや? まだいたのですか?
あなた方はもう用済みです……さっさと──っ (小刀で腹を刺される)」
一之助:「ふぅ〜っ! ふぅ〜っ!!」
菊四郎:「……? 一之助……坊ちゃん?
これは……なんのご冗談で?」
一之助:「へっ、へへへ……気にすんな……可愛い甥っ子からの熱い抱擁──だっ!! (力を込める)」
菊四郎:「──がぁっ!! あ……そ、そんな……一之助坊ちゃんが……私を……な、ぜ……?」
一之助:「オイラは、てめぇらの人形じゃねぇ……
実子が出来たからいらねぇ?
実子が死んだから必要?
オイラの為に宗二郎を殺した?
っっざけんな!!
オイラはけっして、当主の肩書きが欲しくて家を出たんじゃねぇ!! オイラは……オイラは!!! (更に力を込める)」
菊四郎:「──ぐがぁっ!!? あ……う……
一之助……坊ちゃ……ん……
そ、そんな……そんなぁぁぁ……っあ……」
一之助:「ロクベエの仇だ!! (切り抜く)」
菊四郎:「──だがぁ!? ごふっ……
ふふふ……ご立派に……なら、れ……て…… (力尽きる)」
ジンパチ:「……イチが……
お頭、イチがあの野郎を……」
盗右衛門:「どういう……こった……」
ジンパチ:「……お、お頭?」
一之助:「へ、へへ……やってやった……
やってやった!!! お頭ぁ!! やってやりやした!!! はっはっはっはっ!!!
山賊を舐めんじゃねぇや!! はっはっはっはっ!!
お頭! 見てくれやしたか!! オイラがコイツの首を取りやしたぜ!!! お頭ぁ〜!!」
盗右衛門:「イチ……」
一之助:「へぃ!!」
盗右衛門:「……てめぇ……どういうこった?」
一之助:「……はい?」
盗右衛門:「てめぇが、九龍家……だ? おい……」
一之助:「お、お頭……?」
盗右衛門:「てめぇが『お頭』なんて呼ぶんじゃねぇ!!!」
一之助:「っ!?」
盗右衛門:「どういうこった……あ"?
九龍のモンが、なんでここにいるんだ……おい……俺から全てを奪った九龍のモンが……」
盗右衛門:「父上! 父上!! 九龍様がおいでです!!
父上!! どちらにおられるのですか!! 父上!! (襖を開ける) ──
あぁ、こちらにいらっしゃったのですね……
父上、これはどういう事なのですか?
この医院を九龍様にお売りになられるとは……
私達はこれから、何処に住むのですか?」
九龍:「困りましたねぇ? まだ何も荷造りが出来ていらっしゃらないではないですか……」
盗右衛門:「あ、九龍……様……」
九龍:「ご無理を押し通して、積み重なっていった借金……この名の売れた医院を担保に、私がお貸しするというお話……ご子息に話してなかったのですか?
今日出て行って貰わない事には、私としましても、お金をお貸しする訳には──」
盗右衛門:「──父上!! 黙っていないで何か仰ってください!!」
九龍:「ん~……」
盗右衛門:「っ! 失礼致します (部屋に上がる)
──父上!!
(倒れる父上)
──っ!?
ち、父上……?
う、うわぁぁあ!!! ち、血──血が!!? 血が!!! あ……あぁ……」
九龍:「おやおや……これは治療に使う小刀ですか? それで首筋を──
ふふふふっ使い方を間違えては、医者とは言えないのではありませんかねぇ……」
盗右衛門:「父上! 父上ぇ!!!」
九龍:「(襟を掴む) 離れなさい!! これ以上私の持ち物を汚すんじゃない!!! 」
盗右衛門:「──うあっ!? も、持ち物……?」
九龍:「えぇ……この家はもう私の物です。
いやぁ~、お父上は最後まで私の理想通りに動いで下さいました。
死んで下さったおかげで、はした金すら渡さずに済む……馬鹿なお父上でした。ありがとうございます」
盗右衛門:「そ、そんな──そんな言い方は無いでしょう!!
父上は──父上は──!!」
九龍:「──お前達!! このガキをつまみ出しなさい!!」
盗右衛門:「なっ!? なぜです!!」
九龍:「ん? 当然でしょう……ここはもうあなたの家では無いのです。
今あなたは、私の許可無しで他人の家に入り込んでいる無法者……
出て行きなさい!!」
盗右衛門:「お、お前ぇぇえ!!! くっ──離せ!! 離せぇえ!! ちくしょう!! 九龍!!! お前は──お前だけは絶対に許さない!!! 絶対に──絶対に!!!
九龍ぅぅうう!!!!」
盗右衛門:「(刀を抜く) どういう事だ!!!」
一之助:「お、オイラは親に捨てられた……そしてお頭に拾われて──」
盗右衛門:「──ぬぁぁぁ!!! (刀を振る)
んな事ぁ関係ねぇ!!!」
一之助:「っ!? お頭!!」
盗右衛門:「また俺から家族を奪うつもりか!! あ"ぁ!? 俺の懐に潜り込み! 俺の大切なもんをぶっ壊していく気か!!!」
一之助:「お頭!! 落ち着いて下せぇ!! オイラはそんな事しねぇ──」
盗右衛門:「──だるぁぁああ!!! (切りかかる)」
一之助:「ひっ!?」
盗右衛門:「はぁ……はぁ……ぶっ殺してやる……」
一之助:「おか、しら……」
盗右衛門:「ぶっ殺してやらぁ!!! (切りかかる)」
一之助:「うわぁぁ!!! (逃げ出す)」
盗右衛門:「逃げんじゃねぇ!!! 九龍!! 待ちやがれ!!!」
一之助:「た、たす、助けて!!! お、お頭!!! オイラは……オイラは──」
盗右衛門:「だぁぁっら!!! うおぉお!!!!」
一之助:「ひっ……違う……お頭! や、やめてくれ!!」
盗右衛門:「絶対にそんな事はさせねぇ!!! コイツらは俺の仲間だ!! 家族だ!!!
もうテメェらの思う通りになんてさせねぇ!!! 壊させてたまるかぁ!!!」
一之助:「お、オイラは壊さねぇ! お頭!! お、落ち着いてくれ!!!」
盗右衛門:「ぬぁぁありゃあ!!! (刀を投げる)」
一之助:「ひっ!! (逃げ道の木に刺さる)」
盗右衛門:「はぁ……はぁ……九龍のモンは、ぶっ殺す……
はぁっ……はぁっ……覚悟、決めろ……」
一之助:「お、お頭! オイラもみんなの事を仲間だと──家族だと思っている!
頼むよ!! 落ち着いてくれ!!
お頭!!!」
盗右衛門:「死ねぇぇぇぇ!!! (刀を振り上げる)」
一之助:「や、やめてくれぇ!!! お頭ぁぁぁあ!!!!」
(間)
一之助:「……?」
盗右衛門:「あ……あ"ぁ? (腹に刺さる刀)」
一之助:「あ……え……? おかし、ら?」
盗右衛門:「イチ……てめぇ……やりやがったな……」
一之助:「っ!? ひっ──ち、違う!!! お、オイラは、こんな! こんな!! ──」
盗右衛門:「やっぱり……てめぇは……九龍の──ぐふっ!!」
一之助:「お頭!!?」
盗右衛門:「てめぇが、俺をそう呼ぶんじゃねぇ!! ……はぁ……くそぉ……てめぇなんて……拾うんじゃ……なかった……」
一之助:「っ!? そ、そんな……オイラは……オイラは──」
盗右衛門M:「おい、ガキ! 何してやがる!
こいつはおめぇを殺そうとしたんだ、遠慮なんてする事ぁねぇだろ」
一之助:「そ、そんな──」
盗右衛門M:「おめぇの手で、こいつから命を奪うんだ。
それが出来ねぇってんなら、おめぇは山賊には向いてねぇ。無駄死にするだけだ」
一之助:「でも……お頭──」
盗右衛門M:「宝や命を奪って生きる──それが俺達、山賊だ!!」
一之助:「こんなつもりは無かった……オイラは……お頭……アンタを──」
盗右衛門:「イ、チ……っ」
盗右衛門M:「ガキ!!」
一之助:「っ!!」
盗右衛門:「うぉぉおおお!!!!」
一之助:「う、うぁぁあああ!!!! (斬り抜く)」
盗右衛門:「──がっはぁ!! ……くそ……が……(息絶える)」
一之助:「あ……あぁ……おか、しら……」
ジンパチ:「イチ……おめぇ……お頭を……」
ロクベエ:「いっててて……ジンパチィ~、オラ、生きてた……へへ
お? 何何?」
一之助:「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
ロクベエ:「ふぇ!? お、お頭が倒れて……へ? ど、どういう事──」
ジンパチ:「──イチ! おめぇ何やってんだ!!
拾ってくれた恩を仇で返しやがった!!!
おめぇっ、親殺しをしやがったな!!!!」
ロクベエ:「へ? ……イ、イチが? お頭を殺し──」
一之助:「──ち、違う! オイラは──」
盗右衛門M:「『お頭』の名前が欲しくなったら、俺から奪ってみろ。
奪えるもんならな!!
はっはっはっはっは!!!!」
一之助:「っ!!」
ジンパチ:「何が違うってんだ!!!
おめぇは、命を救ってくれた親を──」
一之助:「──じゃあ……奪え……」
ジンパチ:「……あ"? っんだと」
一之助:「じゃあ……奪え──欲しいもんは奪え!
生きてぇなら奪え!!
死にたくねぇなら奪え!!
俺達は山賊だ……俺達は自由だ!!!
しかし奪う以上! 自由を求める以上! 奪われる覚悟は持ってろ!!!
それが、明日も見えねぇ俺達の──山賊の生き方だ!!!」
ジンパチ:「っ!?」
一之助:「ジンパチっ、ロクベエ!!!」
ジンパチ・ロクベエ:「へぃ! ……あっ……」
一之助:「……全員、オイラの──俺の前に集めろ」
ジンパチ:「は……? イチ、何を言って──」
一之助:「今この瞬間から、俺がお頭だ!!!!」
ロクベエ:「へ……?」
一之助:「早くしろ!!!!」
ジンパチ・ロクベエ:「っ!? へ、へい!! (走り去る)」
一之助:「……お頭……俺はアンタから教わった通り……全部奪ってやる。
アンタのモンから……アンタに奪え無かったモンまで全部……」
盗右衛門M:「……あぁ〜っはっはっはっはっ!!!
やれば出来るじゃねぇ〜か! え? はっはっはっはっ!!!
それでこそ!!」
一之助:「俺は──山賊だ」
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