ゼロコスト投信と投信ビジネスの未来

野村証券は2020年3月に、日本で初めての信託報酬ゼロ投信を組成(野村スリーゼロ先進国株式投信)すると発表しました。先行している米Fidelityのような完全にゼロという仕組みではなく、いくつかの販売条件が付与された上で期間限定でゼロコストになる仕組みです。

ゼロコストで買う条件

・野村證券のオンラインサービスを利用
・つみたてNISA専用
・メールアドレス、Web交付、メール交付のすべてを登録
・無料なのは2030年末まで。

野村證券以外での販売は?

A:おそらく野村専用なので、他社は入ってこない。

上記の条件を見たところ、スリーゼロ投信は野村證券の専用商品として設計されているように見えますから、あとからネット証券が販売開始する可能性は低いように思われます。

他の運用会社が同じような商品を組成する可能性は?

A:コスト最低を謳うe-Maxis slimシリーズを抱える三菱が追従することはありそうですが、たけのこみたいに増える可能性は低そうかも。

ゼロコスト投信は広がるか

端的に言うと事業者の全員が損しかしない仕組みです。スマホ買ってもらうためにゼロ円で端末売った上に通信料もゼロにする施策に近いというとわかりやすいでしょうか。かつて通信大手が上記のマーケティングを行ったときは、回線契約数の獲得の多少がKPIとして有効だったこともあり、数年それで損したとしても、目先の損失は目を瞑ってもなんとかなると各社がしのぎを削りました。

そうすると、ゼロコスト投信はファンドそのものからは何も収益を産まないわけですから、それ以外のサービスやKPIを満たすための戦術として機能しなければなりません。


野村證券の場合、既存顧客の高齢化に対応するために、顧客のお子さんやお孫さんにもつながって行きたいという課題があるのかもしれません。SBI証券の口座数が野村を超えようとしている今、「弊社、若い方向けの積立NISA用に目玉商品を開発しまして・・・」という位置づけの商品として、今回のスリーゼロ投信を打ち出すというのは腹落ちしやすいストーリーに見えます。

とはいえ、ニュースインパクトの大きさの一方で、スリーゼロ投信はあまたある商品の一つでしかありませんし、スリーゼロ先進国株式投信だけですとアロケーションも完成しません。しかも積立NISA専用となると、10年間限定の無料はお得感が薄くなる&わかりにくい。となると「無料で資産運用が出来ますね」とまでは言えず、イマイチ押しに弱いかもしれないという懸念もあります。どこまでインパクトをもたらすのかはAUMの推移などで注視してみたいと思います。

地域金融機関で広がるか?

 今回のように、座組が同一金融グループ内(販売会社、運用会社、受託会社)であれば、グループとしての体力は大きいですから、多少損してもほかでなんとか取り返すという理屈は他のケースに比較して作りやすいのかなと思います。一方で地方銀行でゼロコスト投信を販売しようとするケースなどを考えますと、損して得取れの施策(最近でいうとPaypayの100億円あげちゃうキャンペーン。これは桁違いの規模ですが。)を推進するだけの体力があるのか難しいのではないかと見えるわけです。

例えば年間投信販売額が300億円、投信残高が1000億円の金融機関があったとします。販売手数料は2%と仮定、信託報酬からの取り分を0.5%とおきます(条件の参考)。これでもちょっと甘いかもしれません。

その場合当該金融機関の投信事業の売上は年間11億円です。立派な金額ですが、バラマキマーケティングをやるにはちょっとどころか大分厳しいかもしれません。少なくともコストリーダーシップ戦略を取るほどの規模があるようには見えません。なお野村證券の投信残高は9兆円なので、残高からして100倍の違いがあります

上記の例はまだいいほうで、もっと苦戦している地域金融機関の話も見かけますので、ゼロコスト投信の稟議をあげようものなら「今でさえ赤字でお客さんが増える様子もないのに、さらに赤字になる施策をやるなんてどういうことなの?見込みあるの?」という厳しいツッコミを各所から受けそうですよねって思ったりします。

長くなりましたが、今の所地域金融機関で爆発的にゼロコスト投信を広めようみたいな動きは鈍いだろうと予想しています。投信以外の施策との組み合わせで有効な手段がどこかで出てくるとまた話は変わるかもしれませんが。


スリーゼロ投信の仕組み

マザーファンドである「外国株式MSCI-KOKUSAIマザーファンド」はFunds-iやネクストコアなどに利用されているマザーで、AUMは5000億円を超えています。これでマザーから作り直しますってなったら腰抜かしますので、まあそうだよねっていう仕組みでした。

コメント 2020-02-27 093833

結論

基本的にコストリーダーシップ戦略は非常に苦しく気の抜けない戦いが待っています。日本の投信ビジネスは利潤が厚めの規制産業型モデルの恩恵を受けていましたので、コスト競争が激化すると耐えられない、順応できないといった例も出てくるのではないか、という点は心配するところです。

冗談だからな!コピペだからな!