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1日15分の免疫学(86)防御機構の破綻⑥

貪食細胞の欠損と機能障害

本「貪食細胞欠損機能障害は、重篤な免疫不全症を起こし得る」
大林「貪食細胞というと……マクロファージと好中球か」
本「好中球が欠損すると、ヒトは通常の環境では生存できない
大林「そんなに?さすがは白血球の約6割※占めてる歩兵!存在感!」
※文献によっては5~7割と幅があります
MSD「好中球は、血液中にある全白血球の約45~75%を占めています」

本「貪食細胞免疫不全症4種類に分けることができる。貪食細胞の産生接着活性化殺菌能の欠損」
大林「まず貪食細胞が正常に作られるか、そして次に貪食細胞が正常に血管内皮に接着できるか……できないと感染現場に行けない、貪食細胞が活躍できるよう正常に活性化できるか、貪食細胞が食べた病原体を細胞内で正常に殺菌できるか、という話ね」

貪食細胞の産生の欠損による免疫不全症

本「先天性の好中球減少症neutropeniaは、2種類に分類される。重症先天性好中球減少症(severe congenital neutropenia:SCN)と周期性好中球減少症cyclic neutropenia」
大林「シビアのSね。周期性って好中球の量が周期的に減るってこと?」
本「そう。およそ21日の周期で正常から極端な数低値まで変化する」
大林「へぇ~21日ってなんの周期なんだろ」
本「それは不明。SCNでは慢性的に0.5×1000/μl以下(正常値3×1000/μl~5.51000/μl)で、最も多い原因はアズール顆粒の成分である好中球エラスターゼ(ELA2)の遺伝子の孤発性または常染色体優位型の変異
※μl(マイクロリットル):1000000分の1リットル
※アズール顆粒:好中球には、一次顆粒(アズール顆粒)、ニ次顆粒(特殊顆粒)、三次顆粒(ゼラチナーゼ顆粒)、分泌顆粒があり、一次顆粒(アズール顆粒)にはミエロペルオキシダーゼ、カテプシンG、エラスターゼ、プロテイナーゼ3、デフェンシンなどが含まれる。


大林「そのELA2に変異が起きるとどうなる?」
本「好中球分化が前骨髄球ー骨髄球段階で停止してアポトーシスを起こす」
※アポトーシス:多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる

大林「おわー、大変。好中球ができない!」

貪食細胞の接着の欠損による免疫不全症

本「貪食細胞が血管外の感染部位へ遊走できないことが原因の重篤な免疫不全症もある」
※遊走:細胞などが生体内のある場所から別の場所に移動すること

大林「現場に出動できないのか……大変だ」
本「白血球接着不全症leukocyte adhesion deficiency:LADという」
大林「接着不全、ということは血管内皮への接着ができないってことだね」
本「そういうこと。TRLの細胞内シグナルの構成分子の欠損で起きる原発性免疫不全症もある」
◆復習メモ
トル様受容体(Toll-like receptor:TLR)
:細胞表面にあり、病原体共通の分子構造(pathogen-associated molecular pattern: PAMP)を認識する「パターン認識受容体(pattern-recognition receptor: PRR)」の1つ
PAMPを認識したPRRは、細胞内にシグナルを送り、各種の免疫応答を引き起こす。TLRは膜貫通型蛋白質で、細胞外寄生細菌や食作用で取り込まれた細菌のPRRを検出する。ジュール・ホフマンがショウジョウバエで発見し、「Toll!(ドイツ語で「すごい」)って叫んでそれが名前になった。その後、ヒトでも類似の機能を担う分子が発見され、Toll様(よう)受容体と名付けられた。

大林「つまり、貪食細胞がターゲットを見つけられなくなるのか」
本「ヒトで発見されている10個のTRLのうちTRL-3の欠損が免疫不全症を起こす」
大林「他の9個は欠損しても大丈夫?」
本「明らかな免疫不全症を引き起こさないので相互に補完していると考えられる」
大林「ほーん、3だけ特別なのかな」

貪食細胞の殺菌能の欠損による免疫不全症

本「貪食細胞の殺菌が障害される機能不全は、慢性肉芽腫症chronic granulomatous disease:CGD」
大林「きたあぁあ!貪食したけど殺菌できないから肉芽を形成するんだよね!敵と共に自らを幽閉する…」
本「好中球単球に発現するNADPHオキシダーゼの構成分子に遺伝子欠損が起きると慢性肉芽腫症となる。グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)ミエロペルオキシダーゼの欠損でも細胞内殺菌能が障害されて慢性肉芽腫症と類似の症状が出る」
大林「出た!ミエロペルオキシダーゼ!」


今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
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