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1日15分の免疫学(82)防御機構の破綻②

DNA再編成の障害によるSCID

本「SCIDには、リンパ球の分化過程におけるDNA再編成に障害が起きるタイプもある」
※重症複合免疫不全症severe combined immunodeficiency:SCID
大林「DNA再編成ができないとT細胞もB細胞も分化が途中で止まっちゃう…」
◆復習メモ
T細胞とB細胞は、分化過程で受容体遺伝子の再編成を行い、細胞ごとに異なる形の受容体を獲得し、適合する「標的(抗原)」のみに反応する。適合する標的に出会うと活性化してクローン増殖をする。
T細胞はT細胞受容体T cell receptor:TCRを、
B細胞はB細胞受容体B cell receptor:BCRをもつ。


様々な遺伝子欠損によるSCID

本「また、様々な遺伝子欠損は、TCRシグナルを障害し、胸腺での分化過程の早期段階でT細胞活性を妨げる」
大林「推しが成長も生存もできなくなっちゃう……」

本「例えば、ディジョージ症候群では、胸腺上皮細胞が正常に発達しない疾患で、SCIDとなる」
大林「胸腺上皮細胞に問題があると、胸腺で育ってるT細胞に適切なシグナルが与えられないよね…」
◆復習メモ
胸腺上皮細胞は、胸腺でT細胞に様々な自己ペプチドを提示し、反応したT細胞に生存や分化に必須のシグナル等を伝達する。

胸腺胸骨の裏にある組織で、骨髄で作られた未熟なリンパ球(Tリンパ球)が正常に働くようにする役割を担っています。


本「適切な胸腺環境がないとT細胞は成熟できず、T細胞依存的抗体産生細胞性免疫も障害される」
※T細胞依存的抗体産生:T細胞の補助helpによってB細胞がクラススイッチを経て、特定の抗原に特化した抗体を産生すること。T細胞依存的抗体産生の場合、クラススイッチは起きないため、産生される抗体は主にIgMのみとなる。

◆復習メモ
免疫グロブリン:immunoglobulin!略記はIg。5種類ある(IgG,IgM,IgD,IgA,IgE)。
すべてのナイーブB細胞IgMIgDを発現している。
IgM:一部はクラススイッチ前の通常B細胞conventional B cellが産生し、大部分は腹腔や胸腔内に存在するB-1細胞と脾臓の辺縁帯B細胞が産生する。

MHC分子発現不全によるSCID

本「MHC分子の発現不全は、胸腺での正の選択障害され、重篤な免疫不全症を引き起こす」
大林「T細胞は他の細胞表面にあるMHC分子と抗原ペプチドの複合体を認識するもんね……」

◆復習メモ
T細胞:胸腺(hymus)で分化・成熟する免疫細胞。ヒト細胞表面にあるMHC分子を認識し、自己と非自己を区別することができる。

T細胞の主な種類
CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞(Th1,Th2,T17,Tfhなどがある)と制御性T細胞Treg:Regulatory T cellに分かれる)
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。
・CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞=キラーT細胞)

MHC分子:主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen;HLA;ヒト白血球型抗原※上記のとおり、MHCは白血球以外にもあるのでこの名は現在では不正確ではある)

MHCは、父親由来の1組と母親由来の1組の計2組であり、T細胞が細胞を「自己か非自己か」を区別する目印となっている。
MHC分子はクラスⅠとクラスⅡの2種類がある。
クラスⅠは、核のあるすべての細胞にある(つまり、核のない赤血球にはない)。
クラスⅡは、プロフェッショナル抗原提示細胞(マクロファージ、樹状細胞、B細胞)などの限られた細胞だけに発現し、CD4T細胞(ヘルパーT細胞や制御性T細胞)はクラスⅡを認識する。言い換えると、CD4T細胞に抗原提示(≒情報伝達)できるのはMHC分子クラスⅡをもつ細胞だけ、ということになる。

本「ベアリンパ球症候群では、MHCクラスⅡ分子の発現が欠損し、CD4T細胞が正の選択を受けられず、ほとんど分化できない」
大林「ベアリンパ球症候群ってグーグル検索すると
MHCクラスⅡ欠損症 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター
MHCクラスⅠ欠損症 概要 - 小児慢性特定疾病情報センター
が検索結果上位に出てくるんだけど、これはベアリンパ球症候群なの?」

本は答えない!あとで他の本で調べよう。

大林「クラスⅡ欠損ってことはクラスⅠはあるのか、じゃあCD8T細胞は正常に分化できるんだね」
本「でも患者は重篤な免疫不全症状を呈する」
大林「あっ……攻撃官(細胞傷害性T細胞)がいても指揮官(ヘルパーT細胞)がいないからか……」

本「このことから、CD4T細胞は、ほとんどの病原体に対する適応免疫応答中心的で重要な役割を担っていることがわかる」
大林「せやね。では、クラスⅠ分子の発現が欠損した場合はどうなる?」
本「胸腺上皮細胞表面のMHCクラスⅠ分子が欠損すると、CD8T細胞減少するがウイルス感染にかかりやすいわけではない
大林「え?!なんで???」
本「MHCクラスⅠによる提示とCD8T細胞によるウィルス感染防御の重要性からすると大変な驚きである」
大林「いやほんとだよ!なんで?!」
本「MHCクラスⅠ分子による抗原提示にTAP非依存的経路があり、これがウイルス感染を制御できるほどにCD8T細胞の分化と機能を補いうると考えられている」
大林「おぉ、ぜんぜんわからん」

◆復習メモ
TAP:抗原処理膜型トランスポーターtransporter associated with antigen processing
細胞は感染すると、構成的プロテアソームから免疫プロテアソームへと修飾し(この変化は、NK細胞が自然免疫応答の際に分泌するINF-βにより誘導される)、細胞質プロテアソームで不要なタンパク質を分解してペプチド断片ができて、それが細胞質からTAPにより膜を越えて小胞体へ運ばれる。TAPにより小胞体へ運ばれたペプチドの一部がMHCクラスⅠ分子に結合して抗原提示される。
Ⅰ型ベアリンパ症候群やMHCクラスⅠ分子欠損症では、TAPタンパク質の機能が欠損しているのでCD8Tに抗原情報が伝わらないが……

大林「えぇと……TAP以外の経路でCD8T細胞にMHCクラスⅠで抗原提示できるってこと?そもそもMHCクラスⅠが欠損してる場合の話なんだけど……とりあえず何か他のルートがあるんだね」

B細胞の分化障害によるSCID

本「B細胞の分化が欠損すると抗体産生が低下し、化膿性細菌の感染をコントロールできない」
大林「あぁ…オプソニン化ができないからか。IgGを産生して、それが可能性細菌に結合し、貪食細胞の食作用を促進するから……」



本「消化管を経由して体内に侵入する感染性ウイルスには中和抗体重要なので、ある種のウイルス…特にエンテロウイルス易感染性が高まる」
大林「わぉ」

本「1952年、最初に報告された免疫不全症は、X染色体に連鎖して遺伝し、血清中の免疫グロブリンが欠損することからX連鎖無γグロブリン血症X-linked agammaglobulinemia:XLAと名付けられた」
大林「長ぇ名前だな」
本「この疾患は、化膿性細菌やエンテロウイルスの反復感染によって発見される」

本「乳児は、生後3ヶ月から1歳にかけて一時的免疫グロブリン産生に欠損がみられる」
大林「あぁ、母親由来のIgGがなくなっていくのと、自前でIgGがつくれるようになるのとの移行期か」
本「新生児は経胎盤性母親のIgGが移行するので母親と同程度の抗体を持っているが…」
大林「生まれた後は胎盤からの抗体は受け取れない…母乳でIgAはもらえるけど、オプソニン化のIgGは…」
本「母体由来のIgGは生後3ヶ月から1歳まではかなり低い」
大林「自分で十分作れるようになるのはいつ?」
本「生後約6ヶ月を過ぎたあたり」
大林「オゥ…3か月も無防備期間があるなんて……ヒトの設計大丈夫?」

本「B細胞だけを欠損する場合、化膿性細菌以外の多くの病原体に対して抵抗性を有する」
大林「T細胞が無事なら細胞性免疫が機能するし、液性免疫は抗体の点滴で補えるもんね」
本「化膿性細菌の感染抗菌薬の投与と免疫グロブリン毎月の点滴で防ぐことができる」
大林「毎月か。透析みたいだな…透析よりは単純な点滴で大変さはないのかな」

大林「思ってたよりずっと大変そうだ…」

本「B細胞とT細胞は、効率的な免疫応答を行うために抗原による活性化でエフェクター細胞に分化する必要がある」
大林「この流れは……エフェクターへの分化が妨げられて起こる免疫不全があるってことだな?!」
本「B細胞のエフェクターへの分化が妨げられると、クラススイッチが起こらなくなる」
大林「ということはIgG,IgA,IgEが作られない?!」
本「多いのは高IgM症候群hyper IgM syndrome」
大林「名前から察するにIgMが多いんですね。どんな問題が?」
本「細胞外寄生病原体に対して重度の易感染性を示す。この疾患ではB細胞そのものとT細胞のヘルパー機能に異常がある」
大林「クラススイッチできないわけだ……」

今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
※現在サイト改装作業中なのでリンクが一時的に切れることがあります

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